第8話 分団長イナヤマ
「署長、今日入団された方達が挨拶に見えました」
イヌカイさんに声をかけられて目が醒めた。
分団長といってもまだ仕事は何もない。
屯所へ出勤しても昼寝するくらいだ。
「もう署長じゃない。分団長と呼んでくれ」
イヌカイさんとは私が警察官だった頃からの知り合いだ。だから彼女は私を署長と呼ぶ。
「この度、妖防団員として採用されたマジマと言います。こちらがアダチでもう一人がナガヤマと云います。よろしくお願いします」
事務室に入ってきた三人のうちの女が代表して挨拶をした。
しっかりした女だ。歳上と思われる男二人を既にリードしている。
しかし、なんて目付きをしてるんだ。見られるだけでバッサリと切られているようだ。
既に入団者のプロフィールは市役所の採用担当者から貰っている。
マジマミホ、そこそこ良い大学を出て航空業界にいたがリストラ。
ナガヤマトキナリ、こいつは昔は札付きのチンピラだった。向こうは覚えていないようだが、警察官時代に何度か迷惑をかけられたことがある。
空手に本腰を入れるようになって随分落ち着いたようだが、右翼団体との関わりが噂されて警備部にマークされていたはずだ。
市役所の身上調査なんて本当に雑だな。いや、こんな人員でも入れなきゃ定員割れになってしまうのか。
アダチヨウスケ、こいつに関しては食品会社勤務としかプロフィールに書いてなかった。出身もよくわからない。平凡な中年間近といった感じだ。
「こちらこそよろしく第六分団長のイナヤマヤスユキと言います。とりあえず座ってよ。イヌカイさんコーヒーかお茶を入れてもらって良いかな」
とりあえず自己紹介をしていく。
「先月までは警察官だったんだ。最後は小さい警察署の署長で退職。だから分団長って言ってもまだ始めたばかりだ。」
「へぇ、じゃあ天下りですか」
マジマが遠慮なく言ってくる。
天下りなんてとんでもない。ただの再就職だ。それも薄給のな。もう半端な役職の公務員を天下りとして受け入れる余裕のある会社は少ない。私もこんな再就職は嫌だったんだよ。
「まぁそう言われちゃうかな。でもね、各妖防分団長はとりあえず元警察や自衛隊、消防の幹部だった者を当てることになったんだ。だから俺がやることになったわけ。
場合によっちゃあ危険業務もあるだろ、現場へ指示を送れる人間を当てるってことさ」
「俺は別に構わないんですけど、危険な現場に行くこともあるんですか。ほとんど警察か自衛隊がやるって聞いたんですけど」
ナガヤマが言う。
何も知らんのかお前は。
まぁ知らんのだろうな。そもそも採用係の連中は都合の悪いことは説明していない。
妖防団は妖獣を発見したら直ちに駆除に当たらなければならない。
警察・自衛隊を待つなんてことは許されない。
そもそも妖獣駆除業務は警察や自衛隊の仕事とは言えなかった。国や国民の安全を守るという警察法や自衛隊法の一文を受けてやっているが、明確にどこの仕事という決まりはなかった。
それが妖防基本法が可決されて妖防官、妖防団員の仕事とはっきりと決まったのだ。
とはいえ、主務官庁の妖防庁はまだ発足していないし、しばらくは警察や自衛隊がやるだろうが。
「まぁ今のところ妖獣被害はそんなに出てあいないから、パトロールくらいしか仕事はないかもしれないね。
でも外国じゃ結構な被害が出てるらしいからさ。日本も油断できない。」
「そうですよね。私のいた航空業界じゃ海外の話を結構聞きましたけど、新聞やテレビなんかじゃあんまり報道されないじゃないですか。」
「まぁね……何でも公開って訳にはいかんのかもね。とにかく君らの正式な配属は妖防学校が終了してからだからね。しっかりと勉強してきてよ。
このイヌカイさんも一緒に入校だ。あと二人若いのがいるな」
あと二人いる。二人とも16歳の若者だ。引きこもり青年と解体工の二人だ。
二人とも高校には行っていない。本当に応募者が少なかったんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます