第6話 ナガヤマトキナリ

 「俺の名前はナガヤマトキナリ。42歳で今はこれと言った仕事はもってない。前は空手道場を経営していたんだけど、潰しちゃってさ。今は便利屋ナガヤマって店をやってる。

 まぁ便利屋って言うとおり、庭の草むしりとか配達とかそんなの。」


 俺はアダチヨウスケという同期になる男に自己紹介をしていく。


 空手道場も格闘技ブームのころはそれなりの儲かった。

 でも今は全然だめだ。空手だけじゃなくて、武道や格闘技の専業で食ってくのは厳しい。

 少年部、子供の習い事ではそこそこ人気があるから、儲かる人はいるんだ。でも俺はダメだった。

 子供に教えるっていうのは面白いんだよ、凄くね。

 でも子供には親が付いてくるだろ、その親がね面倒くせぇのが多くてさ。

 子供の強さで親のヒエラルキーができたりするんだよ。見学席での力関係が出来上がるんだ。

 大会なんかに子供を出るとスゴいぜ。応援がさ、「ぶっ殺せー」なんて声援が飛んだりする。ありえねぇだろ。さすがにね、親を会場から退場させたよ。

 生まれながらに格闘技向いてない性格の子っているのよ。優しくてさ人を殴ったりできない子。組手やらせると泣いちゃって。それってさ全然悪くないのよ。むしろ凄く良いことなんだ。男の子であっても。

 でもそういう子の親に限ってスパルタっていうか厳しいんだよね。歯がゆいのかなぁ。うちの子は弱い子って思っちゃうのかなぁ。


 大人相手も難しくてさ。運動しなきゃなって思ってる大人はたくさんいるけど、空手やろうっていうのはいないよなぁ。スポーツクラブだなんだ一杯あるなかで空手は選んでくれないよなぁ。

 だからさもう空手はいいやって。


 今は便利屋だ。金になる仕事もあればならない仕事もある。

 昨日は、部屋の片付けの手伝いで6000円の収入だ。

 毎朝、不登校気味の女子高生と一緒に自転車通学するという仕事の一回2500円が安定収入だ。

 ここ最近の労働力不足で就職は売り手市場なんていうが、この歳でこの外見の俺には関係のない話だ。

 しかもこのインフレ状況で生活は悪化する一方。

 妖防団という安定収入は魅力的だった。

 おっと愚痴ばっかりになっちゃったな。悪い悪い。


 「顔が怖いからヤクザかと思ったって?」


 よく言われるよ。


 ヤクザか、一昔前は格闘技業界はヤクザが多かったな。自衛のためか攻撃のためか、空手とかボクシングやってるのがたくさんいた。

 というか俺も準構成員だったこともある。正確にはヤクザじゃなくて右翼だけどな。

 


 「ファイティングポーズって顎引いて相手を上目遣いで見るだろ。にらめつけるように。だから格闘技やってるやつって人相悪くなるのよ。」


 コンビニの前を通りかかると、中からさっき市役所で見かけた姉さんが出てきた。

 向こうも気付いたのか、刃物みたいな切れ長の目で俺たちを見ている。


 「お姉さんも屯所へ行くんでしょ?一緒にいこうよ」

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