第37話 なんか温度だって
文月はベットに潜り込み、しばらくぐずぐず泣いていた。
潜り込むときにリグロルにドレスを脱がしてもらったので文月は下着姿だ。
「フミツキ様、温かいお飲み物を用意いたしました。お飲みになって下さい」
文月がひとしきり泣いた後、リグロルが優しく声をかける。ベットに近寄り自分の体温が伝わるよう毛布の上に手を置いた。
リグロルの暖かさがじんわりと伝わった頃、ゆっくりと文月は起き上がった。
「リグロル、ごめんね……酷いこと言った」
目元を赤くし、腫れぼったい目で文月は謝る。
「大丈夫ですよ、お気になさらないでください」
謝罪を受けたリグロルの方は全く気にして無い。ちょっとぼさぼさになってしまった文月の黒髪を優しく撫でる。
優しくされた文月の目からまた涙が溢れ始めた。
「うっ……うっ……、なんでだろう、ぐずっ……」
リグロルはそのまま文月を撫で続けた。時折手櫛で髪を整えてあげながら思考を巡らす。
ほぼ間違い無いですね。これは事前にお知らせしておいた方がフミツキ様の動揺も少ないでしょう。
「フミツキ様、大事なお話があります」
「なぁに、ぐすっ」
リグロルはベットの端に座り目線の高さを合わせ文月の両手を下からそっと握る。
「ご自身のお体の事です」
「僕?」
「そうです。今、お心が辛いと思います。ご自身でもどうしようも無い気持ちに翻弄されていると思われます」
「うん……」
「おそらく月のものが近いからだと思いますよ」
「月のもの?なにそれ?……え、それ、それ……せ、せ、せっ」
「はい、生理です」
「うわぁ……うわぁ……」
「そのせいで、お心が乱されているんです」
「うわぁー……」
「今日か明日、遅くても明後日までには始まると思いますよ」
「うわぁ、うわぁ」
言語機能を失ってしまった文月だった。
「下腹部が重かったり鈍い痛みがありませんか?」
「ある……ずっとズクズク痛い……」
「事前に準備をいたしましょう」
「うわぁー……」
そう言ってリグロルは脱脂綿を平く伸ばしたものを取り出した。
「この当て布を、このように使います」
立ち上がるとリグロルは自分のスカートをまくり上げ、下着を膝までずらした。
「ふわっ、わっ」
「下着の上にこの当て布をのせて……形を整えます」
「ふわわっ」
「そのまま履きます」
「ふわー」
「前から見るとこの様な感じです」
スカートをまくり上げ真正面から文月に見せてあげる。
クルリと後ろを向くとお尻を突き出す様にして再びスカートをまくる。
「後ろから見るとこうなりますね」
形がよくてボリュームのあるリグロルのお尻が文月に晒される。両脚を開き気味に立ってくれているので当て布の部分が膨らんでいるのがよく分かった。
「お分かりいただけましたか?」
「お分かりいたしました……」
「ではフミツキ様もご準備いたしましょう」
「うわー、僕もやるのかー」
「はい」
「やんなきゃダメかなぁ…」
「駄目ではないですが、寝ている間に始まるとシーツが汚れますし、内股がぬるぬるしてご不快な思いをされますよ」
「うわー、うわー……」
「シーツや下着の汚れは私が対処できますが、内股の不快な思いはどうしても事後対処になってしまいますので事前にご準備しておいた方が良いと思います」
「うわー、うわぁ……」
文月はのろのろと毛布から抜け出し、ベットの端に座った。下着の両端に指を引っかけ交互にお尻を浮かしながら下着を徐々にずらし膝まで下げた。
「失礼します」
リグロルが文月の正面でしゃがみ下着に当て布を置いた。
「うわー……」
動揺しながらも文月は立ち上がり下着を履き直す。お尻に手をまわし指で下着の位置を整えた。慣れた動きである。
「うわー……、変な感じがする……」
「そうですね、あまり心地良いとは言い難い感触ですね」
「うわー……」
少々がに股近い格好で文月はぴよぴよと2、3歩進む。
「うわー……」
振り返り、とととっと駆けてそのままベットにダイブした。
「うわー……」
クッションに顔を埋めながら脚をぱたぱた動かした。動かす度に股間にある当て布を意識させられる。
文月はショックを受けながらもどこかで安心した気持ちにもなった。
ああ、生理のせいでこんなに気持ちがごちゃごちゃしてるんだ。けどこれってもう本当に女の子じゃん。なるほど生理前って情緒不安定になるってやつだね。いやいや安心してどうすんのさ。けど理由が分かってちょっとほっとしたよ。
原因が分かった事で安心感が文月の中に広がった。
「リグロル……、リグロルもお腹痛い時ある?」
「当然ごさいます。けれども慣れますのであまり周囲の方には気付かれていないと思います」
「これに慣れるのかー、あうー」
お尻をもぞもぞ動かして収まりの良い身体の位置を探す。
リグロルが腰に手を当ててくれる。
「この辺りを温めると幾分か痛みは和らぎませんか?」
「あ……、あったかいと嬉しい」
「冷えるとお体にさわりますので毛布に入りましょう」
「うん……」
リグロルのアドバイスに素直に従い文月はもぞもぞ毛布に潜り込んだ。
「フミツキ様、お腹は空いていませんか?」
「まだ平気」
「何かお困りの事があったら何でもおっしゃって下さいね」
「うん、ありがとう」
「本日は大事をとって横になっていましょう」
「うん……」
文月は目元まで毛布を持ち上げてチラリとリグロルを見た。
リグロルは何も言わず文月の頭を撫でる。2、3度優しく撫でると文月の瞼が閉じた。
何度か撫でていると文月は静かな寝息を立て始める。リグロルは尚更ゆっくりと、眠りについた文月を優しく撫で続けた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「フミツキ様、フミツキ様」
リグロルが優しく文月に語りかけ体を揺する。
「あうー、お腹痛いー……」
「あら、そろそろですね」
「うー、どしたの……?」
「お休みのところ申し訳ありません。アガサが訪ねてきました」
「あ、うー……」
自分が泣いてしまって授業を中断させてしまったことを思い出し文月は入室の許可を躊躇ってしまう。
「後ほど訪問させる事も考慮したのですが、アガサが良いものを持ってきてくれました。受けとってあげていただけませんか?」
リグロルにそう言われては断るのも難しい。
「分かった、入ってもらって」
「かしこまりました、あ、そのままで結構ですよ」
ベットから出ようとした文月をリグロルがやんわりと止める。
文月はベットで上半身だけ起き上り待つ。
リグロルが扉を開けるとアガサが両手でトレーを持って入ってきた。
「はいフミツキ様、アガサおばあちゃんが良いものを持ってきましたよ」
どういう態度を取ったら良いかわからなかった文月だが、その戸惑いを一瞬で見て取ったアガサがわざとくだけた口調で話しかけてくれた。文月もつられてくすっとしてしまった。
「フミツキ様、先ほどはごめんなさいね。これから気をつけるようにするから許して頂戴」
「ううん、僕の方こそごめんなさい。自分でも気持ちが上手く抑えられなくて」
「良いんですよ。では仲直りの印にまずはこれを受け取って」
そう言ってアガサはトレーに載せていたカゴを文月に手渡した。カゴにはいっぱいのキャンディが入っていた。
「あ、これ」
「そうです。気に入ったみたいだったから、おばあちゃんは張り切って作りました」
カゴに山盛りになっていたのは魔力回復キャンディだった。
「ありがとう、こんなにたくさん嬉しい」
「よかったわ」
咄嗟に取った距離感が正解なのか、アガサも不安だったが文月が本当に嬉しそうにお礼を言ったので内心で盛大にほっとしていた。
「色々な味で作ってみたから後で楽しんで頂戴。それともう一つ、こっちの方が今は必要かしら」
そういってアガサはトレーに載っていたもう一つの丸いクッションのようなものを渡してくれた。
「おばあちゃんの魔力を込めたから明日の日が沈む位までは十分暖かいはずですよ」
柔らかい毛糸で包まれたそのクッションは持っているとじんわりと暖かい。文月はそれをお腹に当ててみる。
「あー、嬉しい……」
文月はそのままコロンと横になる。リグロルが肩まで毛布をかけてくれた。
「あったかい……うれしい……」
そう言った文月の目からまた涙がポロポロとこぼれた。
「ごめんね、また泣いちゃって、うぅ」
「いいんですよ、初めてなんですもの。おばあちゃんが初めての時は……、どうだったかしら?昔すぎて忘れちゃった」
「うふふ、ぐすっ」
文月は泣きながら笑った。こぼれる涙をリグロルが優しくハンカチで拭ってくれる。
「冷めてきたら言って頂戴、次の懐炉を持ってきますから」
「うん、ありがとうアガサさん」
「アガサおばあちゃんですよ?」
「うふふ、ありがとうアガサおばあちゃん」
「はい」
ぽろぽろ泣きながらも文月は笑った。
「ではおばあちゃんはこれで退室しますね。また体調が戻ったら会いましょう」
「うん」
こっくりと文月は肯く。潤んだ瞳からはまた涙がこぼれそうだ。
「それでは失礼します」
毛布から指先だけ出して文月は手を振った。それを見届けたアガサはにっこり笑って扉を閉めた。
「リグロルぅ……」
「はい、フミツキ様」
「寝るまで撫でてくれる?」
「勿論ですとも」
リグロルは殊更優しく丁寧に文月の黒髪を撫でる。
アガサからもらった懐炉の暖かさとリグロルの暖かさのお陰で文月が寝入ったのはすぐだった。
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