第32話 なんか爆走だって
「ここ、どこ?」
タルドレムの部屋に飛び込んだら予想の斜め上過ぎる衝撃的な姿を目の当たりにして笑うどころか悲鳴を上げて逃げてしまった。
失敗した、と自分でも思う。ちゃんと謝るために戻ろうとしているのだが無闇矢鱈に走ったせいで完全に迷子になってしまった。うーむ、城内が広すぎるのがいけない。
けど迷子になった、とは言ってもラスクニア城から出た訳では無いから誰かに道を訊けば良いや、と文月は考え人気の無い廊下を歩く。
自分の迷子なんかよりタルドレムの事を考えてしまう。
タルドレムが傷ついてないと良いなと心配してしまう。
翻って考えてみる。タルドレムが自分を見て悲鳴を上げて逃げ出したらどう感じるか。
……。
……。
……。
あ、ガチ凹みする。
だって、タルドレムって僕の事、、、すっ、すっ、好きなんだよねっ?!ぴぃ!
好きな人が自分を見て逃げ出したらショックなのは間違いない。
本当に、ちゃんと、しっかりと謝ろう。
どういう謝り方が良いんだろう?
ごめんねーテヘペロ♪……却下。
正直すまんかった!……却下、却下。
ごめんなさい、うるうる……却下、却下、却下、きゃっ・・・。
いや、3番目は候補に残しておいた方が良いかな?
駄目だ駄目だ、許してもらおうなんて考えて謝るなんて駄目だ。何はともあれ誠心誠意に謝罪しよう。
タルドレムの事を考えながら文月は黙々と静かな廊下を歩く。
時折ぷしゅーと頭から湯気が出るのは何かを思い出すのか、何かを想像してなのか。
頭の中をタルドレムでいっぱいにしながら歩いていたらいつの間にやら廊下の行き止まりまで来てしまった。
行き止まりには扉が一枚あった。
どうやら歩いてきたこの廊下は別の棟をつなぐ渡り廊下のようなものらしい。
振り返るとベージュ色の廊下がずっと続いており最後に通り過ぎた扉はかなり戻った先に見えた。
とりあえず、ゴール???みたいな???
まずはタルドレムの居場所を教えてもらおうと文月は扉の中に声をかける。
「えーと、こんばんわ・・・」
コン、コン。
文月はおずおずと扉をノックする。
返事はない、ただの扉のようだ。
もう少し強くノックして大きな声を出そうと文月は息を吸い込み扉を叩こうとグーを作った。
「あっつー!あっつー!ぶっはー!あら?フミツキちゃん!!!」
全裸のダムハリがいきなり扉を開けて出てきた。
全裸のダムハリが出てきた。
全裸のダムハリである。
上半身は豊満な胸を揺らし、その先端は硬く尖っている。
ぶるんぶるん。
しかも全身汗まみれ。
濃いメイクが流れ顔面は斑らの縦模様。
滴る汗はきゅっと締まったウエストを滑り落ち、張りのある腰回りにも流れ落ちる。
そして両足の間にあるシンボルは何故か聳え立っていた。
ぶるんぶるん。
「いらっしゃぁぁああいい!!!」
「~っ!」
もはや悲鳴を上げることすら出来ず文月は今来た廊下を猛然と走り出した。
「あ゛っそびぃまぁしょぉぉおお!!!」
一瞬振り返ってダムハリを見る。
常人の目つきじゃない!完全にイッてる人間の目だ!
絶対イヤだ!初めてがアレなんて絶対イヤだ!!!
己の底から沸き上がる訳の分からない自己防衛本能で文月はひた走る。
「ふーみぃーつぅーきぃーちゃぁああああん!!!!!」
「いやーっ!!!こないでー!!!」
「うひひひひ!!!」
「やだー!やだー!」
上半身がぶるんぶるん。
下半身もぶるんぶるん。
ダムハリは両手を広げ、ケタケタ笑いながら文月を追いかける。
文月が扉の前を走り抜けるとき、それがガチャリと開いた。
中から出てきた人物と目が合う。
(ポポラ!)
リグロルに尻をひっぱたかれてイッちゃったあの子である。
一瞬の間に万感の思いを込めて文月は目線でポポラに助けを求めた。
フミツキの後にダムハリが目の前を通り過ぎるとポポラは2人の後を追いかけだした。
ダムハリを止めてくれるのかな?
ポポラはダムハリを追いかけながらローブを脱ぎ捨てた。
走るのに邪魔だった?
ポポラは走りながら更に上着を脱いで放り投げる。
は、走るのに、じゃ、邪魔だった???
スカートも下着も脱ぎ捨て、遂にまっぱになってポポラはダムハリを追いかける。
「何か違う!何か違う!」
「あはは!あはは!」
「やっほーやっほー」
必死に走る文月を全裸のダムハリとポポラが追従する。
高笑いするダムハリに、何に呼びかけているのか分からないポポラ。
文月はガチで嫌がっているのに追いかける2人が笑顔なのが腹が立つ。
「なんなのー!?なんなのー?!」
「あたしなのー!ダムハリなのー!」
「ポポラでーす、ポポラでーす」
この狂騒劇に救いが現れた。
リグロルである。
「フミツキ様!そのまま走って!」
端の扉を蹴破る勢いで突入してきたリグロルが猛然と文月に向かって走り出す。
このままだと文月とリグロルは全力疾走で正面衝突だ。だがリグロルが床を蹴り、壁を走る。更に壁を蹴り天井を走り文月の頭上を駆け抜けた。
天井から抜刀しながら廊下に降り立つと同時にダムハリを斬りつける。
真上から本気の一閃。
「死ねぇ!」
「いゃん」
だがダムハリは一瞬で後ろに飛びすさり、必殺の刃を躱した。
躱す動作が両手両足を伸ばしお尻を突き出した格好なのがリグロルの怒りに油を注ぐ。
「わっエビみたい」
リグロルが来てくれて安心した文月は息を荒げながらも振り返ってぺたんと座り込んでしまった。
ダムハリの後に続いていたポポラは止まる事が出来ずダムハリのヒップアタックをモロに顔面に受けていた。
びたんと廊下に仰向けになりガニ股のままリグロルの足元まで滑ってくる。
「わっカエルみたい」
ひっくり返ったポポラが邪魔でリグロルは次の一歩が一瞬遅れる。その隙にダムハリは高笑いしながら走り去っていく。ケラケラ笑う背中に向かってリグロルは手にした小剣を投げつけようと振り被るが距離は既にかなり開いてしまった。
そのままポポラを踏みつけてダムハリを追いかけよう思ったリグロルだったが、後ろにいる文月の荒い呼吸音を聞き踏み止まった。
「必ず、必ずや、切り落とします……」
底冷えする様な声音でリグロルは呟き納刀すると文月に駆け寄る。
「フミツキ様、ご無事ですか?」
「うん、大丈夫、ふぅー。追いかけられただけだから、ふぅー、ぶるんぶるんしててびっくりしたぁ」
「ご無事で何よりです、ご安心下さいすぐにぶるんぶるんを切り落として現物をお持ちします」
「うえっ!?何を切るの!?ぶるんぶるんはいらない!いらないから!」
「左様ですか、では切り落として串刺しにいたします」
「やめてあげて!やめてあげて!」
「切り落とした後、どうしましょう?」
「えーと切り落とす前提は無しで」
「……え?」
「いや聞こえてたよね?」
「しかしそれでは私の腹の虫がフミツキ様にお目汚しした罰が収まりません」
「最初と最後に本音がダダ漏れしてます!」
「全て本音でございます」
「そういや、そうだね」
ポポラがひっくり返ったままの格好で呟いた。
「ば、罰を…」
あの子も大概である。
素っ裸で全部見えているのに色っぽさなんて皆無だ。
「僕、裸の女の子を見てるのに全然ドキドキしないよ……」
「アレに女の要素はありませんからね」
リグロルはもはやポポラをアレ呼ばわりである。
確かに全裸になってカエルがひっくり返った様な格好に色気は無い。
「ば、ばつを……」
意識があるのか無いのか、それでもポポラはその格好のままで腰をヘコヘコ動かし始めた。
「うわぁ……」
文月はもう完全にドン引きである。
同じ女としてアレは無い。
……え?同じ女???
「斬り?捨て?ましょうか?」
リグロルが真顔でゆっくりと文月に問い掛ける。
「……う、あ、やば!一瞬頷きそうになっちゃったよ!無しなし!斬るのは無しで!」
「そうですか、いつでも仰って下さい。その場で迅速にご対応致します」
「う、うん」
これリグロルがホントにやるヤツ。やばいヤツ。とりあえず素っ裸で廊下に仰向けになっているあの子を何とかせねば。
腰の動きは……もうどーでもいーや。
文月はポポラの横に立ち声を掛ける。
「ポポラ?ポポラ?えーっとその」
文月はポポラのどこを触ろうか躊躇する。裸の人間に触るのはどの部位でも何故かハードルが高い事を知ってしまった。
「フミツキ様、ちょっと失礼します」
リグロルがポポラを跨ぎ、何の躊躇いも無くパンパンパンパンと連続で頬を張った。
「あふ!あふ!あふ!あふ!」
「気がつきましたか?」
「あふー、いけました」
「そんな事は聞いてません。とっとと服を着なさい」
「はい……」
ポポラが自分の下着を拾った時、文月は疑問に思った事を聞いてみた。
「ねえポポラ、何で裸になったの?」
ポポラがきょとんとして振り返る。
「裸祭りかと思ったから……」
んなわけあるかい。
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