第6話 なんか風呂だって

 タルドレムは文月を部屋まで送り、また夕食の時にねと言い残し去っていった。

 え?夕食一緒は決定なの?

 困るなーと思ったけれど今更拒否はできない感じがする。

 部屋に入り椅子に座らせてもらった文月はリグロルに聞いてみた。

 外から戻ってみると部屋の暖かさが身にしみた。

 はぁ~。

 冷たくなっていた頬が温かみを感じ始めた頃に文月が話し始める。


「思ったんだけど……」

「はい、なんでしょうか?」

「僕とタルドレム王子の関係って、弓矢の人たちにはどう見えただろう?」

「とても良いご関係に見えたと思いますよ」

「む……」

「タルドレム王子の弓は狙いは正確ですが今ひとつ力強さに欠けるという評価を耳にしたことがあります。今回フミツキ様はタルドレム王子にとって無くてはならない、待ち望まれた隣に立つ女性だとアピールできたと思います」


 うぬー!しまった。自ら外堀を埋めたような気がする。王子の婚約者は他にも適任がいるのではないかという疑問を持って欲しかったのに。

 これではいけない、これからはもうちょっと慎重に行動するようにしよう。

 文月は内心で頭を抱えながらも今後は関係方向を微調整しようと心に決めた。

 ぐっと胸の前で拳を握る仕草が見ようによっては進展を喜ぶガッツポーズに見える。

 リグロルも真似をしてぐっと同じポーズをとった。


「成功ですね」

「違います」

「あら?こうですか?こうですか?」


 わざとか本気か分からないが、ポーズが違うと言われたと思いリグロルがぐっ、ぐっと繰り返した。

 おそらくわざと。うむ、味方はおらぬと心得た。

 何度かポーズを決めたリグロルは満足したようだ。


「さて、フミツキ様。夕食の前に湯浴みをいたしましょう」

「ゆあみ?」

「お風呂です」

「んー……、あー……、…いいよ。特に汗をかくような運動もしてないし」

「どうぞ、お入りください。湯上りの乙女の色香は龍神も惑わすと言われています」

「僕は惑わしませんよ?」

「タルドレム王子もイチコロです」

「お風呂あがりに会いませんからね?」

「では参りましょう」

「あれあれーリグロルさん」

「はい、なんでしょうか?」

「僕の話聞いてます?」

「勿論です」

「……」

「……」

「……お風呂には入らないですよ?」

「ではタルドレム王子とご一緒に入れるように手配します」

「なぜっ?!やめて!」

「では参りましょう」

「入りたくないなぁ」

「ではタルド……」

「入りますっ」

「さあ参りましょう」

「なんだかなぁ、なんだかなぁ」


 文月はまだうにゅうにゅ言っていたがリグロルはすんなり立ち上がらせ部屋から連れ出した。

 文月がお風呂を嫌がっていたのは勿論理由がある。裸になるのに抵抗があったからだ。

 自分の体とはいえ女性の体だ。全裸になって全身を洗うとか難易度が高すぎる。

 洗うとなるともちろんあんなところやこんなところも洗わなければならないだろう。

 見るのだってドキドキなのに触って洗って揉んで開いて撫で回したりなんてとてもじゃないができない。と思う。

 たぶん。

 リグロルは文月の手を引いて廊下を歩く。

 お風呂かー、うーん、お風呂かぁ。

 文月の覚悟が決まらないうちにリグロルとお風呂に着いてしまった。

 お風呂は庭園の噴水のようにお湯が湧き出ている、というワケではなかったがやっぱり広い。

 半円の小さなプールと表現しても構わないような大きさの湯船が部屋の半分を占めている。

 銅色を基調とした落ち着いた色合いの模様が壁に描かれており、湯気がいっぱいに広がっていた。壁際に大人一人が入れそうな壷が少し傾いて置いてあり、お湯はその壷から溢れて湯船に流れ込んでいた。


「うわー。おっきいなー」

「フミツキ様、お召し物を脱ぎましょう」


 リグロルが文月の後ろに回り手早くドレスを脱がせてゆく。

 コルセットを外した時、その開放感から文月の口から無意識に声が漏れる。


「あぁ……」


 文月の喘ぎ声ともとれそうな吐息を間近で聞いたリグロルがものすごく何か言いたそうに口をもにゅっとさせたが、黙って脱がせ続ける。リグロルの頬が赤くなったのは風呂の湯気のせいだけではないようで、なぜか脱がす手つきがさらに優しく滑らかになった。

 最後の白い一枚を両足から抜き取り文月を全裸にしたリグロルは少々潤んだような瞳で文月を支えた。


「フミツキ様、どうぞ」

「あれ?リグロルは入らないの?」

「私はフミツキ様のお世話をさせていただきますから」

「あの……一緒に入らない?」


 裸になって体の隠しようがなくなった文月がもじもじっと、ちょっと視線をずらしてリグロルに提案する。自分だけ裸になっているのは当たり前だが恥ずかしい。相手も同じ条件なら少しは恥ずかしさも軽減するかもと思ったのだ。羞恥心で全身を桜色に染め上げた文月がちらっと上目遣いでリグロルを見た。

 ずきゅーん。

 何かに打ち抜かれたリグロルは一瞬くらっとする、が、瞬時に立て直った。


「いえ、私ごときがフミツキ様とご一緒のお湯に浸かるなどとは恐れ多いですから。なによりここはフミツキ様専用のお湯です」

「僕専用?……じゃぁ誰も来ないんでしょ?だめ……?」


 ばきゅーん!

 止めを刺された。


「畏まりました。私も恐れながらご一緒させていただきます。衣類を脱ぐ間こちらでお待ちください」


 リグロルはそう言って文月を簡易的な化粧台の前に座らせた。室内の温度よりも少し低い温度の黒い台座が文月の白いお尻を受け止める。

 文月が鏡をみると全裸の女の子が恥ずかしそうに座っている。両手を膝の上において肩を縮めているので胸が寄せられて谷間が出来ていた。思わず膝から手を離し胸を隠す。そんな恥じらいの動作を鏡に見せられて、自覚してさらに恥ずかしくなって自分からも目をそらしてしまった。

 そらした先でリグロルがメイド服を脱いでいるのが映った。文月よりも白い綺麗な肌が次々と現れる。ためらいなくブラを外し、下も脱ぎ去る。リグロルも一糸纏わぬ姿になった。

 文月はついリグロルの全身を見てしまう。

 最初に目に付いたのはその胸である。文月よりもサイズ的には2つ以上大きいであろうその胸は重力に逆らいつんと先端を前方に尖らせていた。そしてきゅっと締まったウエストと腹筋。うっすらと割れていることからもリグロルが日ごろから鍛えていることがうかがえる。

 そしてウエストの下。

 初めて見る自分以外の女性の……。

 髪と同じで銀色なんだぁ。

 妙な感心をしてしまった文月だった。

 胸を揺らしながら全裸のリグロルが文月に歩み寄る。

 たゆん、たゆん。

 すっげー。


「フミツキ様、お待たせいたしました。さあ、どうぞ」


 リグロルに手を差し伸べられた文月は今更ながらこれは余計に恥ずかしい状況なのではないだろうかという事に思い至る。

 だって目線がリグロルのおっぱいから外せないんだもん。

 自分以外の生ぱい見るのはこれが初体験。うきゃー。


「フミツキ様、いかがなさいました?」


 言ってリグロルは気がついた。

 頬を染め自分の胸を注視する文月の手を持ち上げ、リグロルは自分の胸に導いた。

 たゆん、たゆゆん。

 すんっげー!

 想像外の柔らかさと押し返してくる弾力に文月は無意識に揉んでいた。


 ……。


「ぁ……」

「うわぁ!ごめん!」


 どれくらいリグロルの胸を堪能していたのか文月自身は分からない。だが遂に好奇心の指先が先端に到達するにあたり、リグロルがピンクの声を上げた。あまりの色っぽさに逆に文月は僅かな冷静さを取り戻し慌てて手を離すことが出来た。

 頬を高潮させながらも少しだけ冷静になった文月は世界の真理を悟る。

 おっぱいの引力って半端無い。


「ご、ごめん、リグロル、だだ大丈夫?」

「もちろん大丈夫です、痛みがあったわけではないですから。ご安心ください、フミツキ様もすぐにこれくらいの大きさにはなりますよ。ん……」


 リグロルも頬をピンクにして受け答える。内腿をゆっくりこすり合わせているのは、きっと気のせい。

 自分の胸を揉み解した華奢な手をリグロルは持ち上げ、文月を立ち上がらせる。湯船はすぐそこだ。

 湯船の淵に文月を座らせるとリグロルは手桶でお湯をすくい、文月の足先からかけ始めた。

 さらさらと程よい温度のお湯が文月の体を流れてゆく。髪を持ち上げ背中までお湯をかけ終わったリグロルは一旦自分の脱いだ服まで小走りで戻る。

 その後姿を文月はつい見送る。

 白桃だー。

胸とは違い引き締まったお尻はほとんど揺れない。しかしウエストが引き締まっているためにボリュームは大きく感じる女体の不思議。

 メイド服のポケットから文月の髪留めを取り出したリグロルはすぐに文月のところへ戻るために小走りする。

 震度は4か5。

 揺れすぎ注意。


「失礼しました。髪留めを忘れてしまいました」


 そう言ってリグロルは文月の長い黒髪をすぐにまとめあげた。

 自分にもかけ湯をしてリグロルはまず先に湯船をまたぎ、文月を中へ誘導する。中に段差が一段あり文月はまずそこに腰掛けた。お湯に入っているのは腰から下だけだ。いわゆる半身浴である。

 リグロルはまだ立っているので至近距離の目の前にリグロルの銀色デルタ地帯がある。

 なんだかもう恥ずかしいやら何やらの文月は片手を放して自分の脇の湯面をぱちゃぱちゃ叩く。


「リグロルも入ってよ」

「畏まりました。では失礼します」


 リグロルは湯の中を歩いて文月の隣に腰掛ける。

 ……近い、……近いよリグロルさん。体がぴったりと柔らかいよ。

 しっかりお湯につかるまえに既に文月はのぼせそうだ。

 百合がどこかで咲きそう予感がした。

 アラート。


「はうぅ~……」


 うめき声ともため息とも取れそうな息を吐きながら文月はお尻を前へずらし段差を降りる。とぷん、と肩まで湯に浸かった。体を密着させて文月を支えていたリグロルも当然肩まで湯に入る。お湯に入って少し軽くなった体のおかげでリグロルとの接着面が少し減った。


「ほぅ……」


 今度こそ文月は安堵の息をついた。

 この世界へ呼び出されてから初めてリラックスできたのかもしれない。


「フミツキ様、お湯加減はいかがですか?」

「うん、丁度いい」


 文月は目を閉じたまま上を向き、もう一度息をついた。


「はぁ~……」


 片手をリグロルに支えられたまま文月は体の力を抜いた。お湯が文月の体をやんわりと持ち上げる。文月の体がふわりと浮かび始めた。

 リグロルは文月の髪がお湯に入らないように腕を文月の首の後ろに入れ体を支えた。文月の胸のふくらみが少しだけ湯面から出た。

 ぴんく。

 目を閉じたまま文月はお湯にたゆたう。壷から溢れるお湯の音だけが浴場を満たした。


「ねぇ、リグロうわぁっ」

「どうなさいました?」


 半分夢うつつになりそうだった文月は眠気覚ましにと思い目を開けリグロルに話しかけた。

 リグロルが自分の頭の後ろに腕を入れて体を支えてくれていたことは知っていたが、顔の真横にリグロルの胸があることは思いもよらない事だった。目を開けた途端、豊満な胸が視界の大半を覆っていることに驚いて文月はばちゃばちゃとお湯の中で体を起こす。


「あ、ありがとう、気持ちよかった」

「それはようございました、ではそろそろお体をながしましょうか?」

「うん、うん」


 恥ずかしくてビックリして文月はリグロルに大人しく従った。

 起き上がるときに自分の頬に頬よりも柔らかいものが、ふんわり触れてしまったのは偶然です。

 忘れがたい感触にふらふらしながらも文月はリグロルに支えられて湯船からあがる。

 さらさらとお湯があふれた。


「フミツキ様、こちらに横になられてください」


 リグロルはそう言って文月を浴室の真ん中あたりに置かれていた黒い石でできたベットのような台座に誘導する。

 そのまま文月を台座の上に寝かせる。台座は石でできていたが絶妙なラインで磨かれており文月の体に負荷をかけることなく驚くほどぴったりと支えた。

 リグロルは文月の頭の方に回り髪留めを外す。少し湿った黒い髪が軽くはじけるように広がった。


「まずはお髪を流しますね」


 リグロルは文月の髪にお湯をかけ、シャンプーのようなものを丁寧に塗ってゆく。横になっている文月の体が冷えないように時折お湯を体にかけながら髪を洗う。

 他人に髪の手入れをされると、こんなに気持ちいいんだ……。

 文月は再びぼんやりとしはじめてしまった。


「リグロル……」

「はい」

「……眠くなってきた……」

「そのままお休みになっても構いませんよ。お髪とお体を洗い終わったら、声を掛けさせて頂きますから」


 うん……。

 最後の返事はちゃんとしただろうか?

 お湯が体にかけられる度にちょっとだけ意識が上がるものの、結局文月はぼんやりとした世界に沈んでゆく。

 浴室内には壷から溢れるお湯の音が広がっている。

 リグロルは丁寧に洗った髪を軽くねじって水気を切り、もう一度文月の体にゆっくりとお湯をかける。全裸で安心しきっている文月を見てリグロルは信頼されている喜びに満たされた。文月の可愛らしい寝顔を見ているとリグロルの頬も自然と緩み、微笑が無意識に浮かんでくる。

 いつまでも見つめていたい衝動を押さえ込み、リグロルは文月の体を洗い始めた。

 柔らかい布で文月のおでこから拭き始める。顔は特に優しく念入りにリグロルは拭いてゆく。

 文月の呼吸はもう眠っている人間のものだが、リグロルがあごの下を拭くと自分で少しあごを上げるので完全に寝入っているわけではないらしい。

 耳の後ろから首筋、肩、腕を少し持ち上げ指先まで丹念に拭いてゆく。戻ってわきの下を拭いたら文月が目を閉じたままくすくす笑い、裸体をねじる。

 色っぽさと清純さを反することなく同時に存在させている稀有なこの年頃の美少女にリグロルはゆっくりとまたお湯をかけた。


「フミツキ様、ちょっとだけご辛抱ください。すみずみまで磨きましょう」


 文月にやさしく我慢を促すリグロルだが文月が笑う姿が愛らしくて、わきの下はもう一度拭いた。文月は目を閉じたままもう一度くすくすと笑い、白い体をねじった。

 胸を洗われる時に文月は少し緊張したが以外にあっさりと通り過ぎた。洗い方が胸のふくらみに沿って円を描くように洗われたのでなるほどという程度に驚いたくらいである。リグロルは文月の体を綺麗にするために洗っているのであって、発情させるために洗っているわけではないので当然ではある。

 ウエストも締まりのラインにあわせて拭かれて、おへそも布の端でこちょこちょと洗われた。

 そして……。

 文月の緊張具合が急上昇した。

 リグロルの拭く速度は一定で淀みがない。遂に足の付け根をリグロルが拭き始めた。布が体から離れ、少しひやりとする。お湯をくむ音が聞こえて文月の体に優しくかけられた。温かい。

 リグロルが右ひざの下に手をいれ、文月に膝を曲げるように誘導する。


 「フミツキ様、こちらの膝を曲げていただけますか」


 きたー!!!

 なんでだろう!こういう事態を予想して僕はお風呂に入りたくなかったのに!あぁそうかリグロルに上手く乗せられたんだった!いや、どうしよう!自分でも馴染みのない自分の体の秘部を女性に洗われるなんて!

 は、は、はずかしぃいいいいい!!!!

 文月の内心の葛藤を察してかリグロルは無理に膝を立てようとはせず静かに待つ。

 ぐっと唇をひきしめ、文月はゆっくりと膝を曲げ始めた。リグロルも文月の速度にあわせてゆっくりと膝を支える。

 文月の覚悟していたよりも膝の軌道は徐々に外に曲げられてゆく。

 そうだよね!そりゃそうだよね!まっすぐ曲げたら洗えないもんね!けどね!けどね!けどねぇえ!

 リグロルの手が文月の膝の裏から静かに抜かれた。

 もともと体操部で柔軟性のある体だったのだが、女体化してさらに柔らかくなったのか膝は真横にまで難なく落ちた。

 お湯を含んだ温かく柔らかい布が広げられた内腿を洗う。布はゆっくりと丁寧に中心に向かう。

 文月は目を閉じたまま既に洗い終わった胸を両手で抱きしめた。横になって流れていた胸がぐっと集められ明確な谷間が出来るが、文月に気づく余裕はない。

 どんな刺激が自分に加えられるのか文月は僅かながらも恐怖心を抱きながら緊張した。

 リグロルはもう一度文月にお湯をかけて全身を暖める。

 そして布をそのまま文月の股間に当てた状態でもう一度お湯を全身に優しくかけた。

 布を中心部に向かってゆっくりと動かす。

 リグロルとしては文月が緊張しないように最大限の配慮をしながら行動したつもりだったが文月の緊張はほぐれる気配はない。

 さて、どうしようかとリグロルは考える。

 自分の体に抵抗を感じるようでは今後のタルドレム王子との子作りなど夢のまた夢だ。

 リグロルは一旦手を止め文月に優しく静かに語り始める。

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