夢の中なら案外できる!?
Syu.n.
夢の中なら案外できる!?
大学生くらいだろうか?
粗暴な感じの男性に対し、女性、女の子が怯えていた。
典型的なチンピラ。ヤがつく本職の方たちとは違うようだが、柄が悪く、多くの人が関わりたくないは無いタイプの人種だろう。
かく言う自分も、普段なら正直関わろうとしない。
「何だかんだ、大ごとにはならないだろう」「周りの誰かが仲裁してくれるだろう」と自分に言い訳をして。
「おい、怖がってるだろう。やめてやれよ。」
だが、今回は違った。自分でもわからぬうちに、中に割って入っていた。
慣れていないから、月並みのセリフしか出せない。
「・・・あん?なんだ、おっさん、知り合いか?口出ししてんじゃねえよ。」
そして相手も月並みな対応をしてくる。あ、なんか安心。
「知り合いではないが、見てみぬふりと言うのもなんかな、ってね。」
「はっ!格好つけてんじゃねーよ、おっさん!」
いきなり顔に殴りかかってきた。とっさに避ける。
「避けてんじゃねーよ!」
「・・・いや、避けなきゃ痛いだろうが」
理不尽な悪態をつくにいちゃんにとっさに返す。だが、その間も、自分自身結構驚いていた
(・・・よく避けれたなぁ)
自分は別に運動をしている訳でもない。学生時代も比較的優等生だったためか、喧嘩の経験もない。
なのにそんなべたべたな、良い見方をすればそれなりの対応ができている。不思議だ。
「・・・ぁー、もういいから、この辺で「けっ、冷めちまったぜ」とか言って立ち去ってくれないかなぁ?」
「訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ!!!」
再び大振りで殴りかかってくる。
何となく冷静にそれをかわしつつ、相手の腹にカウンター気味のパンチを繰り出す。
「て、てめぇ・・・」
「あ、っとまぁ、正当防衛、ってことで?」
腹を押さえ、苦しそうに立ち去るあんちゃん。おやおや。
「あ、生「覚えてやがれー」、聞くの忘れてたわ。」
なんだかまるで喧嘩慣れした漫画の主人公みたいな言動に、自分自身違和感を抱きつつ、一応助けた形の女の子の方を見ると、不思議なことが起こっていた。
自分と女の子の間が、見えない壁みたいなもので隔てられている。
女の子が何か言っているようだが、こちらには何も聞こえない。
そして、ふと周りを見ると、自分とその子以外にはいつの間にか誰もいなくなっていた。いや、最初からいなかったのだろうか?
ここに来て、俺は察する。
「何だ、夢かぁ・・・」
夢の中でたまに「自分が夢の中にいることに気づく」ことは無いだろうか?
妙に落ち着いた感じで。
今の自分がまさにその状態。
「だっから、こんな落ち着いているんか~」
納得する。それしかないよね。
ただ、悪いと思うのはそこに多分会ったことない女の子を引き入れてしまっている事。いや、これも自分の潜在意識が生んだものとしたなら、
「自分、こういった子が好みなんか・・・」
女性、に関わらずよく知らない人をじろじろ見るのは失礼と思ってなるべく見ないようにしていたが、夢と思うとつい、ちょっとだけもう一度見てしまう。
顔含め全体の容姿は悪くはない。ただ、こう言っては何だが特別かわいいとも正直思わない。街中を歩いていれば、それこそさっきみたいなチャラそうなにいちゃんが、「あ、あの子ちょい可愛くね?」と言うくらいだろう。
だけど、なんとなく親しみが持てる印象を受ける。
そんな彼女が、何か必死に訴えているように見える。
相変わらず声は聞こえないが、その指先は自分の後ろを示し、うしろ?
ガツッ!!
後頭部に鈍い衝撃を受ける。
目の前が一瞬暗転するが、倒れこむことには何とか対抗し、目を覚ますよう首を振りながら背後を見ると、
「チッ、浅カッタカ。・・・マァ、モウ少シ楽シンデヤッテモイイカ。」
悠然と立つ「悪魔」の姿が見えた。
「悪魔」としか表現できない。我ながら語彙力はないが。
そういった容姿の化け物が、見下した態度でこちらを見ている。
「さっすが夢の中。こういうのもアリかよ。」
何とか悪態をついてみる。
その様子に、悪魔が片眉をあげると、
「・・・ホウ? 数年モイルト、稀ニオマエノヨウナ奴ガクル。」
そして無造作に一歩近づくと、そのまま俺の腹を蹴る。痛てぇ!
「ナマイキダガ、暇ツブシニハチョウド良イ。」
「この!!」
先ほどと同じく悪魔の腹にパンチを加える。だが、
「ン~?何カシタカ?」
まったく効いた様子もなく、逆にお返しとばかりボディに強烈なパンチを加える。
俺は抵抗する術もなく、無様に地面に倒れこむ。・・・なんだこれ、夢のはずなのにものすごい痛てぇ。
「オラヨ!」
倒れこんだ身体が、無造作に文字通り蹴り飛ばされる。見えない壁に激突。ダブルの衝撃にマジかとなるが、何とか意識を保つ。それだけで精一杯だ。
「・・・タマニ、イルンダヨナァ」
狭く薄暗い視界の中で、悠然と嘲笑いを浮かべながら歩いてくる悪魔が見える。
「妙ナ正義感、引ッ提ゲテ、助けようとする奴。」
慣れた感じで俺の頭を踏みつけてくる。ぐああああああ
「ソウイウ奴ヲイタブルノガ、タマラナイ、ゼ!!」
またもや体を蹴りとばされ、壁にはじかれ、結果、あおむけ状態になる。
(ああ、夢だからか?・・・生きてるのが不思議なくらいだ・・・ここで意識途絶えれば、目が覚めるのかな?悪夢で滝汗くらいはかくだろうけど)
なんて脈絡のない事を考えつつも、さらに狭まった視界には悪魔の姿と、
涙を流しながら必死で何かを伝えようとしている少女の姿が見えた。
(!!・・・ああ、ごめん、夢とは言え、助けることができなくて)
だが、少女が必死で訴えていることは、聞こえないながらも何故か分かった。
「お願い、逃げて!!」
俺の中で何かが変わった。
「マァ、トハ言え、少シクライハ抵抗ガアッタホウガ」「わっはっはっは!!!」
悪魔が何か言っているようだが、構わず俺は笑い出す。笑わずにはいられない。
「・・・?狂ッタカ?」そうかも知れない。
だが俺はそうせずにはいられなかった。どこにそんな力が残っていたのだろう?体を半回転させうつ伏せになると、腕の力もフルに使い、何とか立ち上がる。
「!!?」
悪魔が驚愕と戸惑いと、・・・そして恐れの目を向けるのがわかった。
固く握りしめた俺の右手から、白い球のものが浮かび、輝いていた。
「ハッハー、流石、俺の夢。何でもありだなぁ」
「貴様、ソレハ・・・」
ああ、俺にもわかるぞ。
「・・・ここは俺の夢だ。お前が苦手なものを望めば、そうなっておかしくないよな?」
「ヤ、ヤメ」
「あいにくこっちは限界なんだよ!」
悪魔に思いっきり白い光の塊をぶつける。つまりは殴りつける!
まるでいたのが嘘だったように、断末魔を残しつつ綺麗に消える悪魔と、視界の隅で見えない壁が消えていくのを感じながら、
・・・・・・俺は電池が切れた人形のように倒れこんだ。
そこで目が覚めた。
何があったのか一瞬わからない。だが、
「ああ、夢だったか・・・」
想像通りというか、汗びっしょりの上半身を起こす。
これは、仕事前にシャワーでも浴びないといけないなと現実的な事を思いつつも、心は晴れやかだ。いつ以来だろう。
「夢とは言え、我ながら滅茶苦茶だなぁ・・・」
チンピラ兄ちゃんに絡まれる女の子を助けようとしたら、実はそいつは悪魔で。だけどそれすら謎の(都合の良い)力で撃退するってね。
仕事以外の時間がなかなか取れず最近御無沙汰だが、以前はよくやっていたゲームとかの記憶がこんな夢を作ったのかも知れない。
「・・・まぁ、でも、」
俺は立ち上がり、シャワーのための着替えを用意しながらも、
「夢の中なら、案外俺もできるじゃん」
こんな感じで呟いてみた。
END
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