第2話 『職務質問は、突然に。』
「えーと、聞いてないんですけどぉ⋯⋯」
英語だけしか取り柄がなかった私、西門佳奈がやっとの事で見つけた仕事。
外回りは嫌だしー、かといって会社でバシバシ意見が言えるようなタイプじゃないし⋯⋯。
大学のゼミとか、パワポ作るまではいいにせよ発表はもうムリっ!
⋯⋯ごめんよ、発表のたびに一緒の班だったHさん。
そんな私でも、時給1,740円(時給換算なのは突っ込まないっ!)、服装自由のお仕事が!
そしてなんとぉっっっ! 社宅有り&朝食支給っ!
必要なスキルは、英語(読む・書くスキルのみ)とパソコンのみ!
こんないい仕事、絶対もう出会えないっ!
⋯⋯と思って申し込んだんだけどぉ。
「こんな森の中なんて話、聞いてなーいーっ!」
林間学校かよ、と悪態をつきたくなるほど自然豊かな山の中。
今着ているのが学校指定のブレザーかジャージだったらどれほど良かったか。
なんとも悲しきかな、リクルートスーツなのである。
逃げ去るように行ってしまったタクシーを呆然と眺めつつ、とりあえず落ち着こうと母さんに入れてもらったお茶を飲み干す。
──うん、ダメだ。落ち着けない。
赤飯炊いてもらってまでお祝いしてくれた母さんには申し訳ないけど、帰ろっかな。うん、そうしよう。
「あのぉー⋯⋯」
「はひっ!」
声に驚いて振り返ると、警官の男が立っていた。
⋯⋯もしかして、さっきのも聞かれてた?
だとしたら私、どっからどう見ても不審者じゃん。
「えーと、その、何してるんですか?」
「あ、あの、その⋯⋯⋯⋯」
そういう時に限って、言葉が出てこない。
そんな私の様子が警官の目には不審に映ったのだろう。
警官の表情が、ますます険しくなってゆく。
あ、これ詰んだわ。
「あの、怪しい人じゃ、ないので⋯⋯」
そうして最期に言えたのは、それだけだった。
さよなら、マイ・ライフ。
「⋯⋯いや、あの⋯⋯、西門さんですよね?」
「へっ?」
「いやぁ、あのー⋯⋯。あまりにもいらっしゃるのが遅いので、迷子になってしまったかと思いで迎えに行こうかと思って来たのですが⋯⋯」
「逮捕するんじゃ、ない⋯⋯?」
「いえ、こんな格好してますけど、警察じゃなくて警備員でして」
申し訳なさそうに頭を掻きながら警察官──、もとい警備員の男が言った。
確かに、よくよく見たら若干制服が違う。
一体どうしたら勘違いするんだ、私。
「⋯⋯なんかすみません」
「いえ、こちらこそ⋯⋯」
穴があったら入りたい、と今まで生きていた中で一番思った瞬間だった。
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