第15話 市長宅潜入

 きっと阿保で馬鹿でクレイジーなサーカス団の生き残りと言ったら、ピエロトたちを指すのだと思っている。

 だって市長宅にサーカス団を壊滅させられたから報復しに来ましたと、

 堂々と門を蹴り破って入ってくる馬鹿たちなのだから、


 ピエロトはそんな仲間たちがすごく好きになってきていた。


 もちろん警報という警報が鳴り響いている。

 そこら中から湧いてくるように兵士たちが表れる。


 まず最初に現れたのは光剣の傭兵団のゼイビス団長であった。

 その部下の10人の光剣の傭兵団がゼイビス団長を取り囲んで守っている。


 その先頭にはティンカー副団長がレイピアを2本構えている。


「なぁ俺様にここを任せな、ピエロトとザスティンは勇者をぶち殺すのと娘の救出に回ってくれ」

「ここは任せるぞい、ピエロト、そしてザスティン、勇者をぶちのめしてこい」

「ここはあたいに任せな、ゼイビスとやらをちょちょいのちょいでフレンチトーストにしてやるよ」


「み、みんな」

「さぁ行くわよ、みんな」


 そこには無数の犬たちがいた。

 

「みんな青い髪の毛の子よ」


「がうがう」

「ぐるぐるう」「ぐえええええ」「ぐごぐご」


 無数の犬たちが返事をすると。


「あいつらって臭い以外でも見る事で判別つくのか?」

「大丈夫、それなりに訓練しているんだから」


「はは、できれば勇者とは会いたくないものだ」

「でもあなたは勇者を倒したいのでしょう?」

「そうだよザスティン」


 ピエロトは勇者を許せない、

 子供たちの夢である正義の塊であるはずの勇者が、

 なぜあのような蛮行をするのだ。


 何か理由があるのだろうけど、

 それでもこれ以上の劇場つぶしは阻止しないといけない。


 ピエロトとザスティンは走りながら、

 仲間たちの安全を器具していた。



「こっちよ、見つけたみたい」

「了解」


 建物は役所みたいな感じに旅館風なものを付け足したような雰囲気だ。


 兵士たちのほかにも沢山の人々がいて、

 ピエロト達を見るなり悲鳴をあげて逃げていく、

 そのパニックのおかげで、兵士たちに見つからずに中へ中へと侵入することが出来る。


 光剣の傭兵団全員がジビル、ボスドン、パダムの相手をしている。

 

 ということはこの中には光剣の傭兵団のメンバーがいないと言っていいだろう。


 目の前に青い髪の毛の少女がいた。

 その子は庭で花を摘んでいた。


 ピエロトとザスティンがそこに到達したとき、

 ぜいぜいと息を荒げていた。


「あ、あなたがメイナルさんの娘さんですか」


 その少女はこちらを振り向くと、

 にこりとうなずいた。


「はい、私がメイナルの娘ナナリと申します。あなたたちが来ることはわかっていました」


「それはどういう?」


 ピエロトが疑問の声をあげると、

 ナナリとは確か18歳くらいのはずじゃ、すごい背丈の低さに、

 ピエロトは唖然としていた。

 その事にどうやらザスティンも気づいたようだ。


「あなたたちには勇者を救う方法があります。こちらへ」

「どういうこと?」

「勇者は魔王に取りつかれています」

「つまり」

「そういうことです。魔王に取りつかれた勇者はおかしくなる。それだけなのです。そしてウィスズン市長は人間ではありません」


「ちょっとまって、深呼吸をしていい?」


 ザスティンが気持ちの整理をしていると。


「つまりウィスズンが魔族で、勇者に魔王を取りつかせて、その代価として沢山の人々を殺しつくしていると?」


「その通りです。さすがは調教師」

「そこは褒めて頂かなくても」


「なのでこちらへ来てください」

「ちょっと待って、どうしよう、ジビルとボスドンとパダムさんの件もあるし」

「吾輩はここで退いてはいけない気がするから行くぞ」


「あああもう、わかりましたわよ」


 ピエロトとザスティンとナナリは市長の家のさらに奥に向かった。


 3人の足音だけがこだましている。

 どうやらこの区画には人はいないようだ。

 3人の足音はまるで音楽をならしているように振動していた。


 壁はつるつるしているし、

 床もつるつるしている。

 まるで誰も通ったことがないような。


「それでもここには市長が何度も通っているはずなのです。あと勇者も、なのにここに来るたびに私は知るのです。新しい場所になっていると」


「それはつまり」

「あれだろ来るたびにモップしてるんじゃ?」

「それバカでしょ」

「バカかな? だけどさ、モップがけは大事だよ」

「ピエロトよあなたは今頃何を言っているの?」

「すみません」

「時空です。この空間の時間を戻しているのです」

「そんなすごい魔法使えるのあのダメ市長」

「恐らく、気を付けてください、あの人は人間では……」


 大きな広間に到達した。

 そこには巨大な樹木がある。

 そこに取り込まれているのが勇者だ。

 勇者の髪の毛は白髪のようになり、

 瞳は白くなっている。


 衣服はまるで新調されたように綺麗で、

 樹木の天辺には何か杖みたいなものが突き刺さっていた。


 勇者はこちらをずっと見ている。 


 だが遠くを見ている気がする。


 そしてピエロトの目と勇者の目が合わさった時すべてを悟った。


 肌寒い、

 何かが襲ってくる。

 悲しくなってくる。心臓が張り裂ける。

 爆発しそうな気持ち。そして沢山の悲鳴。


 ピエロトは勇者が見ているも物を見せられているのだ。


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