第14話 乞食メイナル

 ピエロトとその背中にいるザスティン、ジビルとボスドンとパダム、最後にクマ、

 

 ピエロトの事を大事に思ってくれるザスティンに涙を流しそうになった。

 本当に苦しんでいるのは。


「本当に苦しいのはすべての犬を失った君じゃないか」

「大丈夫、ムンとサンなら逃がした。それを追いかけるように他の犬も逃がした」

「そ、それは」


「いつか戻ってくる、わたくしはそう思っている。調教師であり犬使いのわたくしの発言を無視出来て? ピエロト」

「うん、んん、信じるよ」


「まったく小僧2人にいろいろと言いくるめられたわい」

「だな、ジビル。お互い頑張るか」

「そうこなくちゃ」


「それで公園には誰がいるんだい?」

「んと、乞食メイナル、彼は市長に娘を人質にされて乞食になることを強要されたのよ、光剣の傭兵団が来る前は最強の道化師なんて言われててね、道化師部隊なんて作ったのよ、だけどウィスズン市長の謀略で謎の一団に全滅させられたの」

「なんでパダムはそんなに詳しいの?」


「実はあたいはそこでもコックをやっていたのよ、あの時も料理を作っていたらみんな死んでいた」


 ピエロトはその時、勇者の事が頭を飛来していった。

 きっとその虐殺も、同じ人なのだろう。


「なぜ勇者は人を殺すことが楽しいのでしょうか?」


 ザスティンは痛みで頭がどうにかなってしまいそうなはずなのに、

 自然な疑問を浮かべていた。


「何か理由があるとしても、それはひどいものだ。趣味とかなのかもしれない、吾輩の世界ではときたま変な趣味に目覚める人がいるんだ」

「それはこっちでも同じだぜピエロト」


「ジビルが言うとすごく説得力があります」


 ピエロトは頭をぽりぽりと掻きながら。


 自分がいまだにピエロの姿であることを忘れていた。

 しかも化粧は落ちないようになっていて、

 特殊な液体でないと消すことができない、

 きっとクレイジーサーカス団のテントの中にあるだろうけど、

 戻る事はできない。


「さぁ行きましょう、その公園に」


 ピエロトたちは天気に感謝しなくてはならないと痛感していた。

 なぜなら雨とは怪しい一団を隠すのにうってつけだから、

 1人は道化師の衣服と道化の化粧をしている少年、

 1人はその背中に乗っている赤いドレスの美少女。美少女は両足から血を流している。

 1人はやせこけた曲芸師、目には大きな隈がある。

 1人は体がすごくでかくて、ごろつきのような男、その後ろには配下のようにごろつきより頭1つ分は大きい何かがいる。

 1人はエプロンをつけて、衣服はぼろぼろ。


 そんな彼らは町の衛兵にも止められることはなかった。

 それは衛兵たちが詰め所から出たくないから。

 雨はまるで台風のように降り続けていて、

 雨が霧のようになり、


 ピエロトたちを沢山の視線から隠してくれる。


 その公園にたどり着くと、

 1人の老人がただひたすら雨の水を飲み込むように口を空に向けて開けていた。


 それも変なポーズだった。


 その老人は口を閉じると、ごくりと飲み込む。

 それだけの水が口の中に溜まるのを待つのはすごく忍耐力が必要であろうと、

 ピエロトは思った。


「ふむ、美味、かくしてパダムよ久しいな、お主が料理長をしていた頃のお主の料理が懐かしい、出来ればお主の料理を食べてみたいなパダムよ」

「いいでしょう、この娘の治癒と道化部隊創設者としてお願いを聞いてくれたら最高な料理をふるまってあげるわ」

「おお、そういうことなら、しかし道化部隊創設者としては無理だ。ウィスズン市長に娘を人質にされておる」

「ならこうしましょう、治癒だけしてちょうだい、後はあたいたちが娘を助けよう」

「うむ、そういうことなら」

 

 しばらくの沈黙の後、

 不思議に思ったピエロト尋ねる。


「道化師として最強とされるあなたがなぜウィスズン市長ごときが怖いのですか?」

「怖いのではない」


 メイナルは空を見上げる。


「あそこには入れないのだ。亡き妻との約束でな」

「それは」

「亡き妻の故郷、それがウィスズン市長の家そのものであり、妻の年齢の離れた弟がウィスズンなのだよ、だからそれがしはウィスズンを殺すことも殴ることもできない」


 ピエロトは納得がいき、確かに昔の人はそういう繋がりを大事にしていたという話は聞く、それは異世界も同じだということなのだろう。


「分かりました。あとは任せてください」


 メイナルはゆっくりと立ち上がって、その場から一種で消えると

 はっとなって気づく、ザスティンが背中からいなくなっている。

 そして目の前にはザスティンの両足を治癒しているメイナルがいる。


「ふむ、よき手当じゃ、お主がやったのか?」

「はい」

「この包帯の捲き方は初めてみるが、お主異世界人か?」

「そうです」

「それがしも異世界からやってきた。なんというか故郷が恋しい、だがここが故郷じゃ」

「僕はできたら帰りたいと思っています。両親に恩返しをしていないから」

「それはすばらしい、ほれ治ったぞ」


 話しながらやる辺りがピエロトと似ていた。

 そして彼は魔法のように、きっと魔法なのだろう、

 ザスティンの両足を治癒していた。


 ザスティンは屈伸しながら、立ち上がると、

 ロングサイズのスカートをばりばりと破りだした。

 それをミニスカートにしてしまう、

 ちょっと隙間から下着が見えるけど、ピエロトはバラのように真っ赤になってしまった。


「よし、わたくしこれからは足手まといにはなりません」


 そう言って突然口笛を吹くと。

 いつの間にか近くにいたのか、20頭くらいの犬たちが集まる。

 その中にはムンとサンがいたのであった。

 ムンとサンは相変わらず人懐っこくて。

 

「ふむ、道化師部隊には必要だったな確か調教師か」


 メイナルは伸びきった顎鬚を撫でていた。


 メイナル以外のメンバーたちは歩き出した。

 向かう先は市長の家、

 まさか追手を追いかけて捕まえようとしている人たちが、

 自ら市長宅に来るなんて想像していないだろう。

 それも一人の少女を助けるため。

 

「娘は青い髪の毛だ覚えておくように」


 最後にメイナルがそう叫んでいた。


 ピエロト、ザスティン、ジビル、ボスドン、パダムの5名のやり返しサーカス劇場の開幕であった。

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