第562話「丁度いい」

 俺は躊躇いがちに腕を動かした。

 アイの背中に手を回し、そのまま軽く抱きしめる。華奢な体つきが制服の上からでもわかる。あの膂力は一体どこから、と思うほどに細く小さな体。


 俺が触れると、アイの動きが止まった。


「ユーマ様」

「あ、はい」

「制服に皺が付いてしまいますので」


 えっ今更そこですか、と思ったが指摘しないでおくことにする。


「すまん」


 謝ってアイを解放すると、アイは体を起こした。

 今度は何かと思ったら、


「皺にならないよう脱ぎますね」


 止める暇はなかった。超高速で脱いで綺麗にたたみ、狭い仮眠室の小さな棚の上に置いた。そして、


「では、どうぞ」

「……」


 どうぞときたか。


 現状、アイは全裸で横になっている俺の上に乗っかっており、いつもの澄まし顔で俺をじっと見ている。体勢としては非常に気まずい。今更恥ずかしがるような間柄でもないのだが。


 俺は腹筋と肘を使って上体を起こした。アイとの距離はほぼゼロになる。今度は両手で抱きしめてみた。アイは脱力して俺に身体を預けてくる。


「やっぱり軽いな」


 ぽつりと呟くと、


「お嫌でしたか?」


 と耳元で囁かれた。


「いや、丁度いい」

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