第545話 不要であることの喜び。


 俺は何故かウェントリアスとリュカの椅子になって、山の中腹にそびえる俺のホテルへと帰還を果たした。


「どっと疲れたぞ……」

「癒されたであろう?」

「いい性格してるよホント」

「フフフ」


 肩の上に腰掛けたウェントリアスはさておき、俺は腰に抱き着いているリュカの頭を撫でた。


「ほら、着いたぞ。仕事しないとな」

「うにゅー……」

「仕事終わったら遊んでやるから」

「やったーデスヨー!」


 安請け合いをしてしまった……。


 久しぶりに見る俺の宿ホテルは妙に郷愁を誘うものがあった。懐かしい、と思うほど離れているつもりはなかったのに。

 そんな感情とは別のところで俺の仕事脳は外観をチェック。特に異常は見られない。建物の周囲にもゴミや異物はない。掃除も完璧だ。


「いいね。ちゃんとしてる」


 正面の自動ドア(実際には骸骨兵スケルトンウォリアーの手動ドアだが)もきちんと拭き上げられている。こういう所がきちんとしているかどうかというのはビジホの良し悪しのひとつの目安だと俺は思っている。ビジホに限った話じゃないが。


「ユーマよ、どうかしたか?」

「いや、俺がいなくても機能してるのが嬉しくてな」

「自身が用無しであることに喜びを見出すとは、ユーマは変態か?」


 そういう言い方はやめろ守護精霊。

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