第535話 早口


「俺にそういう趣味はないんで」

「ははは。そういう意味ではないよ」


 若干体をのけぞらせながら俺が断ると、高杉は俺の勘違いを正した。


「僕が興味をそそられるのは君の知識だよ。君、僕の死んだ何年後のかね?」

「150年と少し」


 俺は正直に答えた。

 

「ははははっ」


 高杉は目の端に涙を浮かべて笑った。ちょっと怖いくらいの笑い方だった。


「僕の生涯5回分か。案外、それほど遠い未来でもないのだね、真田くん。はははっ」

「あ、ああ」


 俺は曖昧に頷いた。


「僕と君の間に横たわる150年に少しばかり興味があってね」

「……そうか」


 その気持ちがどんなものかは想像するしかない。


「だからまあ、講和会議の席で我儘を言わせてもらったわけだ」

「視察の件か?」

「そうだね。視察には行くから、宜しく頼むよ。それだけ言っておきたかったんだ。ではまた会おう。真田君」

「待て待て待て!」


 一気に早口でトチ狂ったことまくし立ててんだ高杉ィ!?

 そんでさっさと席を立って帰ろうとするんじゃない!

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