第331話 子供の夢、現実の炎

「――私は、パン屋さんになりたいのです」


 やや躊躇いがちに、ですがはっきりした口調でノヴァは言いました。


 パン屋さん。

 意外な言葉。

 私は少し驚きました。


「どうしてパン屋さんなのですか?」

「剣ではなく、食事でも人を救うことはできると思うのです」

「その方がノヴァには向いている、と」

「私に剣の才はありませんから。才能というならエリザ様の方が恵まれております」


 自嘲気味にノヴァは笑いました。

 私は笑うことができず、その顔をじっと見つめていました。

 ノヴァは慌てて何度も頭を下げて、


「このことはどうか内密に願います、エリザ様」

「勿論ですわ。お約束致します」


 ふたりだけの秘密ですね、と言うとノヴァは困り顔をしました。

 なんとかして差し上げたいですね、と思いました。

 私にできることであれば。





 ――そんな話をした数日後、悪夢現実はやってきました。

 何の前触れもなく。

 災禍の炎が。

 帝国が。


 来襲しやってきたのです。

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