第220話 夕暮れ時の意外な出来事

 折角なので、俺は情報収集ついでに砦やら防衛線やらを見学して回る。


 ここの兵士たちは概ね王族には好意的だった。

 特に現王への忠誠心は大したものだった。

 で、継承権者たちに関してはというと――


「ヴィクトール様は我々平民にも門戸を開いてくださります」

「エリザヴェート様は市井の者の声を王政に反映なさろうと尽力されております」

「イグナイト様は、その」


 まあ、概ねこんな感じ。

 人気はふたりが二分している。

 ヴィクトールが優勢だ。実務能力の差かな、と思う。


 かといってイグナイトに全く人気が無いのかといえばそんなこともなく、


「我々下級貴族にも目をかけてくださいます」

「騎士の気持ちをわかってくださるのはイグナイト様だけです」


 とまあ、食堂で会った飲んだくれ連中と身分の同じ貴族階級にウケがいい。


「で、そのイグナイト殿下だが、そもそも陣中見舞いが必要なほど、国境線は圧迫を受けているのかね?」


(どうかの。そんな様子でもなさそうじゃが)


「ヤツ」の言う通り、防衛線の守備隊の雰囲気は緩い。

 さっきまでついていてくれた従兵曰く「小規模な偵察隊に散発的な接触を受けている程度」だそうだった。擾乱じょうらん行動レベルなら攻めてくることは無さそう、か。


 俺はふらふらとうろつきながら「ヤツ」と相談する。


「現状、兵站の集積や部隊の移動も確認されてないらしい。つまり仕掛けてくる兆候はない。なのにイグナイトはちょいちょいココに来る」


(怪しいといえば怪しい。が、いささかあからさまに過ぎよう)


「それなー」


 イグナイトがどうあれ、帝国が本格的に動く前に王家のゴタゴタを片付けないといけないわけか。時間的な猶予はありそうでない。


 昨日今日とあちこちで情報収集したが、うーむ。

 と、俺が腕組みをした時だった。



 甲高い警笛が響き渡った――



「敵襲ーッ!! 帝国軍だーーっ!!」


 げ。マジか。兆候はないんじゃなかったっけ?

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