第204話 メイドさんは勇者様がお好き

「赤の勇者は王国から正式に監察官としてウチのホテルに派遣されているわけで、俺の一存で王都に返すのは無理だよ」


 俺の言い訳もとい説明に、メイドさんは唸る。


「むむむ。でも、さっきノヴァ様を連れてどうのって言ってましたよね?」

「ああ、王都に一緒に来てる。今は王女殿下と一緒にいるよ」

「キャー! ほんとですかソレー!!」


 すごいハイテンションだな。

 ちょっと引く。


「えーと君、ノヴァのこと好きなの?」

「すすすす好きだなんてそんなおこがましいです! ノヴァ様はそう、私の憧れの人なんです! ていうかなんで呼び捨てなんですか!? もしかして貴方、ノヴァ様の良い人だったりとか」


「しませんて」


 ああいう直情傾向の馬鹿は身内に居るだけでギリギリだ。それより近くの距離はちょっとしんどい。


「ですよね! ノヴァ様とは釣り合いませんもんね。だったらなんで呼び捨て?」


 最初から呼び捨てだしなあ。今更である。


「それはそうとまあまあ失礼だよな、君」

「お互い様じゃないですか?」


 減らず口を叩きやがる。

 だがこれくらいベラベラ喋る子の方が丁度いい。

 色々聞ける可能性は高いかもしれない。


「ちょっと聞きたいんだけど」


 俺がそこまで言いかけると、彼女はすっと表情を変えて軽やかに一歩飛び退すさった。


「……さっきから胡散臭いことこの上ないですよ、貴方。他国の間者ですか? 衛兵さん呼びますよ?」

「やめてくれ」


 くそっ。

 全然本題に入れないどころか間者扱いである。

 門の所でも衛兵に絡まれたなそういえば。

 来賓者用のカードか腕章でも用意してもらいたいところだ。

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