第186話 選ばれたのは××でした?

「――そっちの、デカい宿にしよう」


 俺は若い男にそう言った。


「とりあえず宿泊のみ。10泊分で銀貨1枚預けておく。多少の値引きは期待していいか?」

「ご案内いたします! お荷物お預かりします!」

「要らん。自分で持つよ。ああ、そうだ――部屋の清掃は不要だ。部屋には誰も入れないでくれ。誰か尋ねてきても通さずに、メッセージをお前が預かってくれるか?」

「かしこまりました!」


 ちら、と少女の方を見ると残念そうな顔をしていた。


「先に宿に行っててくれ。できれば王宮が見える部屋がいい」

「はい! お待ちしとります!」


 さっきまでのガラの悪さはどこへやら。現金な奴だ。商売には向いていないな。

 向いている向いてないという点では、この少女も不向きだな。

 心情が態度に出るのは商売には合わない。特に接客業は。


「あの、君?」

「はっはい! あの! また、王都を訪問される際にはぜひ当館をお選びただけま――ぶっ!?」


 あ、噛んだ。

 次に繋げるためのセールストークを用意していたのは賞賛するが。


「うぅ……」

「あとでそちらの宿にも行くから。角部屋を用意してもらえるかな? これは前金」


 項垂うなだれる少女に、俺は銀貨を握らせる。


「え?」

「まあ、俺も訳ありでね。客の事情を詮索しないのは宿屋の鉄則だろ?」

「はいっ、失礼いたしました」

「じゃあ、後程」


 身を隠せる拠点は多いほどいい。

 どこで誰に襲われるかもわからんしな。


(女に甘いのう。相変わらず年端もゆかぬ娘でも見境なしか、ユーマよ)


 だから! 拠点は! 多い方がいいんだって!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る