第176話 下げる頭、焦げる髪

「まあ落ち着け。一旦落ち着け。な?」


 誰も助けてくれないので、仕方なく俺はひとり商人の説得を試みる。


「俺のことを買ってくれるのは大変ありがたいが、今はそれなりに危険の伴う急ぎの仕事を抱えている。だから商売の話はちょっと――」


 できない、と言いたかったのだ、俺は。


「後日でも結構ですので旦那!」


 商人はその言葉を遮った。焚き火の向こう、座った姿勢で深々と頭を下げてくる。

 髪の毛焦げるぞオイ。


「と、言われても、俺にも既に付き合いのある商人がふたりほど居てな」

「品質と価格なら負けませんぜ!」


 なんでそんなやる気満々なんだろうかこの男は。


「――アンタ、名前は?」


 そういえば名前も聞いていなかったことに気付く。馬車仕立てた時に聞いておけ、という話である。


「あっしはブルーノと言いやす。旦那は」

「俺はユーマ」

「ユーマ様」

「様はやめてくれ」

「じゃあ旦那、なんで名を訊いてくだすったんで?」

「別に、特に意味は無い。アンタの熱意に負けたわけじゃないからな」


 なんかツンデレみたいな台詞になってしまったな。おいノヴァ、ニヤニヤこっちを見るのはやめろ。エリザヴェートもだ!

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