第202話 呪いでないなら何なのか

 んん?

 ミラベル、お前今なんつった?


(王には呪いがかかっておらんと言った)


 でも王様、めっちゃ死にそうだぞ。

 などと「ヤツ」と胸中で話しつつ、俺は王を改めて観察する。

 骨に皮が張り付いているだけの痩せこけた体。

 老人というのも憚られるほどに死を身近に置いているようだ。


「御父様、きちんと食事を摂られておられますか?」

「あまり食欲がなくてな」

「御口に合いませんの?」

「何を食べても味があまりせんのだ」


 エリザヴェートは少しだけ会話をして、王をベッドにそっと横たえた。


(呪いにかかっていようがいまいが人は死ぬ時には死ぬ。それはユーマもよーくわかっておろう)


 まあ、それはそうだが。

 じゃあ何が原因でこんな有様になってる? 毒か?


(いや、毒を使われたような症状でもなさそうじゃのう)


 死霊術師ネクロマンサーの見立ては、素人の俺よりも確かだろう。

「ヤツ」の発言を事実とするなら、なんでこんなことになってるんだ?

 

(加齢による衰弱やもしれぬ)


 つまり、王が臥せたのは、誰かに仕組まれたものではない、っていうのか?


(はてさて。加齢以外に原因があるかどうか、そこまでは儂にも分からぬよ)


 王が臥せたことが、仕組まれたことでもそうでなくても、ともあれ代替わりの――王位継承権争いの切っ掛けにはなったのは間違いないな。

 それはさておき、この場ではこれ以上の情報は得られそうにない。

 ならば、


「陛下、私はこれにて失礼いたします。お休みのところ、失礼いたしました」

「うむ。こちらこそ失礼した」


 俺が王の居室を辞すると、ノヴァがついてきた。ついてくるなよ。


「ユーマ殿、どこへゆくのだ?」

「俺は情報収集してくる。ノヴァは俺の言いつけをちゃんと守っとけ」

「言いつけ?」

「エリザから絶対に離れるな、って言ったろ」


 誰が狙ってるかわからんからな。


「うっ」

「忘れてやがったな。まあ、そっちは頼む」

「ユーマ殿はひとりで大丈夫か?」

魔剣レーヴァテインを持ったノヴァより強い奴が王宮内に何人いるんだ?」

「魔剣抜きなら私より上手うわては数人いる」

「だったら問題ない。魔剣持ちのお前に勝ったんだぞ、俺は」

「油断はするなよ、ユーマ殿」


 はいよ、と軽く答えて俺は歩き出した。

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