第166話 ホテルにとって大事なもの

 ――翌日。 

 帝国の今後の動向が気になって仕方ないものの、エリザヴェートの方を放っておくわけにもいかない。幸い斥候部隊からある程度の情報は得られたし、できる手は打っておいた。


「というわけで、王都のゴタゴタは俺とノヴァで片を付けてくる。ホテルの方は残りのメンツでどうにかしてもらう」


 俺は、事務所でナターシャにこれまでの経緯いきさつを説明していた。

 アイが淹れた茶を受け取って、ナターシャは一口。ほう、と息をついたかと思ったらすぐにお茶請けのクッキーもモリモリ食っていた。 


ほうひはどうにか、とは?」


 飲み込んでから喋れ。 


「通常営業、プラス帝国軍が何か仕掛けてきた時の対応だ」


 ブフォ、とナターシャが吹いた。

 飛散したクッキーの残骸は、目にも止まらない速度で動いたアイの両手にキャッチされ事なきを得た。アイは手拭きで両手をぬぐいながら半眼。


「以後気を付けてください」


 短い丁寧なその言葉から何も汲み取れないほどナターシャも鈍くない。

 何度もコクコクと頷いた。


「失礼しました! でも、ユーマさん。通常営業はともかく、帝国軍の相手は無理ですよ!?」

「帝国軍の方は滅茶苦茶なちょっかいは掛けてこないはずだ」

「ホントですかあ」


 たぶんな。

 五千の兵を丸っと投入なんてことにはならない。はずだ。


「俺が嘘吐いたことあるか?」

「えーと、どうでしょうか」

「無いって言えよそこは……。けどまあいい」


 俺は一度咳払いをした。


「確認しておくが、うちのホテルにとって一番大事なものはなんだかわかるか?」

「ホテルそのもの、ですか?」


 違う。そうじゃない。

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