第147話 新たなる依頼人

 アタシは砂糖の仕入れのために再び港町を訪れていた。

 今回は馬車を仕立てて、護衛の冒険者も雇った。メイナードのオッサンに頼んで腕っこきを。そのおかげもあって取引は滞りなく終わって、帰り道も港町から王都までは安全そのもの。


「やっぱりケチったら駄目だなー」


 御者台の周囲は冒険者が固めてくれているから、余計な心配もしなくていい。安全と安心が金で買えるならそうすべきだっつーことだ。特にデカい取引の時には。


「ユーマのオッサンの言う通りだったわ」


 ユーマ・サナダ、か。

 見かけはただのひょろいオッサンなのに知識と手腕、資産は半端ない。金払いもいい上に性格も悪くねえ、と思う。たぶん。

 確かにアレと一緒になれりゃ左団扇ひだりうちわだろうけど――


「って、何考えてんだアタシは!」


 あのメアリババアが変なこと言うから!

 ブンブンと頭を振って、さっきまでの考えを頭から追い出そうとする。


 と、その時だった。

 建物の脇から、小さな人影が飛び出してきて、すっ転んだ。


「うわわっ!?」


 慌てて手綱を引いて馬車を止める。

 あっぶねー!

 事故るところだった!


「オイコラ! ちゃんと前見て歩けや! このクソ野郎……が……? あれ?」


 野郎じゃなくて……女の子?

 ボロいスカーフで顔を隠した、アタシより全然年下の女の子だった。

 その子はずっと走っていたみたいで、息も絶え絶えだった。


「も、申し訳……ございません。あの……、貴女様は……旅の商人様でしょう?」


「様」ってガラじゃねーけど。


「そーだよ?」

「あっ、あの! 商人様、後生です! どうかわたくしの、配達の依頼を引き受けてはいただけませんかっ」


 焦りと、恐怖?

 何に対して?

 わからない。

 でも、アタシはガキの頃のテメエを思い出しちまった。

 

 ち、と舌打ちをひとつ。


「いーけどさ。お金、かかるよ?」

「はい!」


 こんな子が持ってる金なんかタカが知れてるだろうけどさ。

 ここでほっとくのも寝ざめが悪い、ような気がする。

 ……の甘いのがうつったのかもなー。


「で? 何をどこまで配達すればいーの?」

、ムラノヴォルタの山にあるという宿、お願いいたします」

「えっ」


 ……この子をユーマアイツのところへ?

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