半身の姉妹

小鳥 薊

起 姉妹

 ここに、不可思議な姉妹がいる。そしてこの娘達は私の愛娘。

 二人が生まれたとき、正直私は言葉を失った。というのも、一卵性の双子は腰のあたりでくっついており、二人は結合していた。

 そんな娘達を、妻と私は他の子と変わりないように育て、愛情も人並み以上に注いできたつもりだ。

 妻は貴族の家柄で、私は妻の父が経営する会社で彼女と出会い、婿養子の形で結婚したのだ。妻とは見合いで知り合った。彼女は、お世辞にも美女とは言えない――言い方は悪いが醜女だったが、性格は一級品で、清楚で慈愛に溢れた人柄に私は次第に彼女を心から愛するようになったのだ。


 娘達は、腰のあたりでくっついているので常に行動をともにしなければならない。今年で十七歳を迎える年頃の二人は、互いの個性に相当のジレンマを感じているようで、姉は気弱な性格に、そして妹は感情的な性格に育っていった。

 生まれたばかりの頃は、一卵性の二人は似ていた。しかし、成長するに従って、明らかな容姿の格差が生まれていった。もしかすると、その差が二人の性格を決定づける要因になったのかもしれない。

 姉の葉月は体が弱く、肌や髪質も不健康で痩せこけていて小さい。そして、小さく団子のような鼻、下垂した眼瞼、カサついて薄っぺらい唇には、クラスメイトの男の子の誰もが口づけしたいとは思わないだろう。父親ながらに哀れな娘である。

 一方、妹の香月はこれに反して健康体、肌や髪質も艶やかでスタイルも良い。そして、くりっと大きな二重瞼に、やはり小さいが筋の通った上品な鼻、桃色の唇は下唇の膨らみがなんとも魅惑的で、誰もがこの子を「美しい子だ」と言った。


 その容姿のせいか、葉月はいつも香月に邪魔者扱いされて自信をなくしていき、香月はいつも何かに憤っていた。また、香月は自分の恵まれた容姿を自覚している部分が幼い頃からあり、わざと葉月を落胆させたり貶めるように周囲を仕向けては自分の鬱憤を晴らしているようなところがあった。葉月はじっと耐えていた。

 私は、全ては結合双生児という二人の不遇な運命がそうさせるのだと、香月を強く非難することはできなかったが、それでも度が過ぎるときには叱り、道徳についても説いてきたつもりである。そうすると最近では香月は私たち両親の見えないところで葉月を中傷するようになったので、全く手が負えない。私は、父親失格かもしれないが、この子はきっと生まれながらにしてそういう性質なのかもしれない、そう思うようにもなっていた。


 想像してみてほしい、人は個人として、ああしたい、こうしたい、という願望や欲があるはずだ。それが、体を共有しているが故に制限され、そして一生その運命から逃れられないという事実を。

 そして、可哀想なことに、葉月を一番疎ましく思っている香月は、葉月がいないとその命を繋ぐことができないという真実である。香月には自身の内臓だけでは十分な栄養素を作ることが不可能であり、葉月の内臓が香月の分まで負担していると以前に医者から告げられた。

 そう、葉月が不健康体なのは香月がいるから――。分離手術をすれば、葉月は健康な体を手に入れることができるが、香月は死ぬ。このまま結合したまま過ごせば、二人は死なないが葉月は一生恵まれない。

 なんという運命なのだろう。どちらも我が子である。この二択を親である我々夫婦が簡単に選択できるはずがない。そして、双子はこの真実を知らない。知られてはならない。どう告げられるというのだ。誰が得する? 

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