第26話 刑場の護衛
アンデッド軍との防衛戦を終え、元の日常が戻ってきた。
しかし、変わったこともあった。
俺たち第五分隊は同僚たちから問題児集団というレッテルを貼られていたが、先の戦いの活躍により評価が一変した。
「よう。うちの衛兵団のエース様」
俺が兵舎に出勤すると、ボルトン団長が声を掛けてきた。
「その呼び方……弄ってませんか?」
「いやあ。そんなこたぁねえよ。他の連中も見直してたぜ。もうこれでお前の分隊長就任に文句を言う奴もいなくなるだろ」
そう――。
以前までは俺が最速で分隊長に就任したこともあってか、陰口を叩いたり、冷たい目を向けてくる者も多かった。
だが、アンデッド軍との防衛戦以降はそれもなくなった。
むしろ、今までは陰口を叩いていたような者たちが、
「俺はお前なら出来ると思ってたんだよ」
「さすがは最速で分隊長になっただけのことはある」
と褒め称えてくる始末だった。
結果を出すことが出来れば、いとも簡単に人は手のひらを返す。
今回の件で俺はそのことを学んだ。
「それでだ。ジーク。お前たちに頼みたい仕事があってな」
「また面倒事の押しつけですか?」
「バカ言うな。仕事なんてのはな、基本、面倒事しかねえんだよ。当然、俺がお前たちに頼みたい案件ってのもそうだ」
ここまで開き直られると、いっそ清々しかった。
「で? その内容というのは?」
と俺は半ば諦めながら尋ねた。
「お前たちには刑場の護衛を頼みたい」
「刑場の護衛ですか?」
「そうだ。今、王都に捕らえている盗賊団の頭目がいるんだがな。そいつの処刑が明日に執り行われることになった」
ボルトン団長は言った。
「悪質な連中でな。金品を盗むだけじゃ飽き足らず、何人も殺してきた。女子供を奴隷として売り捌いたりもしていたらしい」
率直に言うと、極悪人だ。
「大規模な盗賊団の頭目だからな。処刑の際にはまず間違いなく、手下連中が頭目を解放するために襲撃してくるだろう」
「なるほど。それで護衛を」
「そういうこった」
ボルトン団長が頷くと、俺の隣にいたセイラがおずおずと口を開いた。
「あの……でしたら、処刑は秘密裏に行えばいいのでは? そうすれば、襲撃されることもないと思うのですが」
「かもしれねえな。だが、それだと盗賊団は潰せない」
ボルトン団長が言った。
「奴らは街にも多数潜伏してるって噂だ。頭目だけ潰したところで、そいつらを野放しにしておけばまたいずれ被害が出る。だから、一人残らず駆逐しないとならない。そのために頭目を大々的に処刑するところを見せる」
「残党を炙り出すために、ということだね」とファムが言った。
「そうだ。頭目は手下連中に随分と慕われているようだからな。処刑するとなると、必ず全力で助けに来るだろう。そこを一網打尽にする」
確かに街に潜伏している盗賊団の連中を一人一人虱潰しに捕まえていくより、一カ所に集めて一気に叩いた方が効率的だ。
「だが、盗賊団の連中はいずれも手練れ揃いだ。生半可な戦力で臨めば、叩かれるのが俺たちということにもなりかねない」
「そこであたしたちの出番ってわけだな」
スピノザが好戦的な表情で、鼻を鳴らした。背中に担いでいた大槌を手にすると、それを軽々と振り回しながら言った。
「上等じゃねえか。全員、纏めてぶっ飛ばしてやるよ」
「盗賊団の方々を野放しにしていたら、街の人たちも不安ですよね……。私たちで彼らを一網打尽にしちゃいましょう!」
「僕としても異論はないよ」
全員、やる気のようだった。
「――なら。決まりだな」
俺は頷くと、ボルトン団長に向かって言った。
「刑場の護衛の仕事、俺たちが引き受けさせて頂きます。盗賊団の頭目は、必ず手下連中から守り抜いてみせます」
「当日、刑場には俺も同行する。お前らの働きには期待してるぜ。頭目を守りつつ、手下連中相手に暴れ回ってやれ」
これは失敗できない仕事だ。
盗賊団の頭目を逃がさないよう守りつつ、手下連中を一網打尽にする。明日の処刑の際に盗賊団を壊滅に追い込むのだ。
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