第20話 仲間たちの内心
――おいおい。こりゃとんでもねえな……。
スピノザは愛用の大槌を振り回しながら、内心、感嘆の声を漏らしていた。
――あいつが最前線で敵の注意や攻撃を全部引き受けてくれるおかげで、あたしたちは滅茶苦茶戦いやすいじゃねえか。
アンデッド軍との戦闘が始まると、ジークは一人で前線に飛び出した。
そして衛兵たちの盾となるため、スキルを用いてヘイトを一身に集めた。
アンデッド兵たちは皆、取り憑かれたかのようにジーク一人を狙い始めた。剣や魔法がスコールのように降りかかる――が彼はビクともしない。
ジークは微動だにせず、その場に立ち尽くしている。
――どいつもこいつも、ジークに意識を持っていかれて隙だらけじゃねえか。これならいくらでもぶん殴ることができるぜ!
後顧の憂いなく、存分に攻撃に専念することができる。
大槌を振り回し、次々とアンデッド兵たちの脳天をかち割っていく。まるで自分が風にでもなったかのように調子が良かった。
――やべえ。ジークがいるだけで、こんなに動きやすくなるのかよ。はは。自分が強くなったと勘違いしちまいそうだ。
「ジーク! あんた、体力は大丈夫なのかよ!?」
「ああ。問題ない」
問題ない――ね、とスピノザは苦笑してしまう。
百近くいるアンデッド軍の攻撃をたった一人で全部受けているのだ。それを問題ないと言ってのけるのだから、参ってしまう。
――ったく。あたしはこんな奴と張り合おうとしてたのか。そりゃ勝てねえわけだ。格がまるで違うんだからさ。
スピノザは今まで他の人間に対して敵わないと思ったことはなかった。
しかし、ジークに対してはそう思ってしまった。
負けず嫌いな自分のことだ。激しい怒りや嫉妬に駆られるだろう。
そう思っていたが、心は存外、清々しかった。
ジークの強さを心から認めることが出来た。
「……あいつが味方でいてくれりゃ、これほど力強いこたぁねえ。四人ぽっちでも、充分あいつらと渡り合えるぜ」
スピノザは大槌を構えると、アンデッド軍の中に突っ込んでいく。ジークに気を取られて隙だらけの兵たちを次々と叩き潰す。
「おらおら! 次はどいつだよ!」
☆
――凄い……! ジークさん、凄いです……!
セイラはジークが敵軍の攻撃を受けるのを見て、心の中で呟いた。
アンデッド軍をたった四人で迎え撃つのは分の悪い戦いだと思っていた。けれど、蓋を開けてみればこちらが完全に圧倒していた。
それはひとえにジークが敵の攻撃を完全に防いでいるからだ。
――たった一人で戦況を盤石のものにしてしまうなんて……。
彼が強いことは知っていた。
ボルトン団長を一対一の戦いで打ち負かすほどの実力者だと。
けれど、ここまでだとは思わなかった。
――彼が味方でいてくれるのがどれほど心強いか……! ジークさんが守ってくださるおかげで私たちも全力で戦えます!
「やあっ!」
セイラはアンデッド兵たちを斬り伏せていく。
セイラの装備――ビキニアーマーは攻撃力に特化した鎧である。
通常の鎧を身につけるよりもずっと迅速に動くことが出来るが、その代わり、敵の攻撃を食らえば即座に致命傷となり得る。
一応、魔法で加護は付与しているが、気休め程度の防御力だ。
故にセイラは常に敵の攻撃に細心の注意を払っていた。
だが――。
ジークが敵の攻撃を完全に引き受けてくれているおかげで、セイラは防御や回避のことを考えずに攻撃に集中できていた。
そしてそれは、とんでもない火力を生んでいた。
彼らは一様に隙だらけだった。
「――ジークさんが私たちの絶対的な盾になってくれているのなら、私はジークさんの剣として戦いますっ!」
☆
「なるほどね。これが君の力というわけか」
ファムは門の上にある塔からジークの戦いを眺めながら呟いた。
アンデッド軍は皆、示し合わせたようにジークに照準を合わせている。
そういうふうに彼が仕向けたからだろう。
ただ、中には他の者を狙おうとする敵もいた。けれど、彼らが放った攻撃は、ジークのところへと吸収されてしまう。
味方へのダメージを自分が代わりに負うスキルなのだろう。
「……冒険者という生き物は皆、自分のためだけに生きていると思ったが。君のスキルは徹頭徹尾他者を守るためにあるんだね」
変わった人だ。
だけど、そこがとても面白い。
ファムは口元に笑みを浮かべていた。
彼女は目を動かすと、戦場のアンデッド兵たちを見やる。
弓を構え、弦を引き、鋭く矢を放った。風を切り裂きながら、ジークに襲いかかろうとしていた敵のアンデッド兵の眉間を貫いた。
――敵も味方も、皆、君にばかり注目している。……ウフフ。ジーク。僕は君のことをもっと知りたくなったよ。
そのためにもこの戦いを早く終わらせなければならない。
ファムは再び弓に矢を番えると、アンデッド兵に向けて放った。
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