第4話 採用試験②

ボルトン団長と一対一で戦うことになった。


「今度は俺も攻撃していいんですか?」と尋ねる。

「ああ。何の制限もない。サシの対決だ。戦闘不能になるか、降参するか。そのどちらかになるまでは戦いが続く」

「俺が勝ったら、採用試験は合格なんですかね?」

「――ハッ。そりゃそうだ。こっちから頭を下げてやらあ。とは言え、負けてやるつもりは毛頭ねえけどな」


 ボルトン団長は好戦的な目つきを向けてくる。


「そうか。なら、俺は風船を守りながら戦います」

「お前、俺のことを舐めてるのか?」

「いえ。実際、防衛戦では街の人々を守りながらの戦いになりますから。何も気にしないサシの戦いになることの方が少ない」

「常に戦闘を想定してるってワケか。大した心がけじゃねえか。もっとも、それは実力が伴わないと意味はねえけどな」


 俺たちの様子を見物していた兵士たちが口を開いた。


「あのジークって奴、ボルトン団長相手にもまるで怯んでないな」

「ボルトン団長は騎士団長にも匹敵するくらいの実力の持ち主だからな。Aランク冒険者にも劣らないんじゃないか」

「あいつ、死んじまうぞ……!」


 俺とボルトン団長は互いに距離を取って見据え合う。

 じり、と向こうの足が動くのが見えた。

 次の瞬間、姿が消えていた。

 煙が立つかのように目の前にまで迫ってきていた。


「くっ――!」


 振り下ろされた剣を盾で受ける。

 ずしりと重い。足が地面に沈み込みそうだ。


「おらああっ!」


 ボルトン団長はすぐさま身体を回転させると、二撃目を放ってくる。ほんの少し反応が遅れていたら直撃していた。

 反撃しようと思った時には、すでに距離を取られていた。

 なるほど。伊達に兵長を務めているわけではないらしい。

 この人は、強い。

 ボルトン団長が再び踏み込んでくる。消えたかと思うようなスピード。しかし一度見た動きに何度もやられるわけにはいかない。

 回転と共に放たれた一撃にタイミングを合わせる。


 キィン!


「バカな……! パリィしただと……!」


 回転を止められ、重心の崩れた隙だらけのボルトン団長に剣を振るう。

 到底、躱されるはずはなかった。

 しかし、神がかった反射神経によって胴体を掠めるだけに留まる。


「俺の動きに付いてこられる奴は、衛兵の中にはいねえ。……正直、ここでお前を合格にしてやってもいいが――」


 ハッ、とボルトン団長は笑みを浮かべた。


「単純にお前の強さを見極めてみたくなった。とっくに枯れた枯れたと思っていたが、俺にもまだ闘争心は残っているらしい」


 何かが来る気配がした。

 今までは小手調べだったのだろう。

 まだボルトン団長は奥の手を隠している。


「お前の防御の腕前は分かった。大したパリィのお手前だ。だが――同時に千の剣戟を防ぐことはできねえだろ」


 地面を蹴ると、狼のように飛翔する。

 剣を後ろに引くと、その剣身が白い光を帯びた。

 これは――スキルか!


「防いでみろ――千の剣戟――【サウザンドラッシュ】をな!」


 花弁のように剣が開いた。

 一度に無数の剣戟が俺を目がけて襲いかかってくる。

 一を千に見せているわけじゃない。千の剣戟が同時に降り注いできている。確かにこれをパリイすることは不可能だ。

 逃げ切れない――。

 だったら、受けきれば良いだけの話だ。


「【アイアンターゲット】」


 俺は腰を据えると、スキルを発動させる。

 万が一にも風船が割れるとマズいからだ。

 分散されていた剣戟は全て俺の元へと集約される。小細工は一切なしだ。向こうの威力と俺の防御力のどちらが勝るかだけ。

 全身を剣戟の雨が撃ち抜いた。地面には次々と穴が穿たれる。

 けれど、俺は倒れずに立っていた。


「無傷……だと……?」


 ボルトン団長は信じられないものを見る目をしていた。


「あれだけの剣戟を受けて、傷一つ受けてないとは……。ジーク。お前、桁外れの防御力にも程があるだろう……!」

「昔から防御力には自信があるんですよ」

「なぜ危険なパリィを躊躇なく行えるのかと思っていたが……。その防御力があれば多少の傷くらいは怖くないってわけか」


 ボルトン団長はそう言うと、ため息をついた。

 剣を腰に収める。

 苦笑を浮かべると首筋を押さえた。


「――ハッ。完敗だ。こりゃいくら戦っても俺に勝ち目はねえ」

「では、雇って頂けますか?」

「ああ。お前がいれば、これほど心強いことはないからな。今日からは仲間として俺たちとこの街を守ってくれ」


 差し出された手を握り、俺たちは握手を交わした。

 ……ふう。取りあえず、職を得ることはできたみたいだ。今日からはこの街を守るための衛兵として尽力するとしよう。

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