その門番、最強につき~追放された防御力9999の戦士、王都の門番として無双する~

友橋かめつ

第1話 門番に転職する

「ジーク。お前は今日限りでパーティをクビだ」


 パーティのリーダーであるナハトが俺にそう宣告してきた。

 任務を達成して酒場で打ち上げをしている最中だった。

 かねてからナハトは俺に対して不満を持っているようだった。

 それが酒が入ったことによって爆発してしまった。


「……理由を聞いてもいいか?」

「俺たち【紅蓮の牙】は火力に特化したパーティだ。俺の剣技にハルナの魔法、イレーネの弓術を前にして、十分以上立っていられる魔物はいねえ。間違いなく、俺たちは最強の攻撃力を持ったパーティだ。ジーク。お前を除いてはな」


 嘲笑するような口調だった。


「お前、仮にも戦士なんだろ? なのにあの火力のなさは何だよ。俺たちが戦っている間もぼうっと突っ立っていやがってよ。魔物にとっちゃ格好の的じゃねえか。攻撃されてもろくにやり返しもしねえでよ。それでも【紅蓮の牙】の一員か? 攻めずに守ってばかりの臆病者はうちのパーティにはいらねえんだよ」


 ナハトがそう言うと、周りにいた仲間たちもそれに釣られて笑った。皆にとっての共通認識だったということだろう。

 魔法使いのハルナが呆れたように言った。


「あんた、図体がデカいだけで、ほんと見かけ倒しなのよね。男だったらもっとガンガン攻めていきなさいよ。ホントに金玉ついてんの?」

「……もしかすると、去勢されちゃったんじゃない? じゃないと、あのイモり具合は説明つかないでしょ」


 弓使いのイレーネはニヤニヤと笑っていた。


「俺はぼうっと突っ立っているわけじゃないし、去勢されているわけでもない。パーティのために役割を果たしているだけだ」


 俺がそう反論すると、ナハトを筆頭とした仲間たちがどっと湧いた。


「お前なあ、魔物からタコ殴りにされるってのは、役割って言わないんだよ。そんなもんは案山子でも出来るからな?」

「仕事が出来ないなら出来ないなりに申し訳なさそうにしてたら、まだちょっとは可愛げもあったかもしれないのに。生意気に反論しないでくれる?」

「魔物相手には沈黙してるのに、うちらにだけは言い返してくるとか。ぷぷっ。ジークの内弁慶っぷりマジウケる。キモっ」


 誰一人としてまともに取り合ってはくれない。

 ……最初はこんな奴らじゃなかった。

 俺たちがパーティを組み始めたばかりの頃は、互いに互いの短所を補い、いいパーティとして機能していたのだ。

 それが数々の任務をこなし、【紅蓮の牙】が有名になっていくにつれて、彼らは勘違いするようになってしまった。

【紅蓮の牙】は火力に優れたパーティだ――という周囲に噂に煽られるようにして攻撃力ばかりを重視するようになった。

 しかも、他人を平気で見下し、貶める。そんな人間に変わり果ててしまった。


「【紅蓮の牙】は突っ立ってるだけの案山子を許さねえ。ジーク。お前はもう俺たちにはつり合わない人材なんだよ」

「あたしたちがここまで食い扶持を稼がせてあげたんだから感謝しなさいよ? 靴の一つでも舐めさせたいくらい」 

「……そうか。今まで世話になったな」


 俺は突きつけられたクビの宣告を受け入れた。

 ……これ以上、何を言っても聞き耳を持たないだろう。

 一度、パーティにとっての役立たずだというレッテルを貼られてしまったら、その認識を覆すのは並大抵のことじゃない。

 今の彼らは自分の見たいものだけしか見ない。


「あばよ。明日からは一人分の宿屋代が浮いて清々するぜ」

「逆恨みなんてしないでよ。実力なんだから」

「おつかれでーす」

「……ああ」


 決して短くはない期間、連れ添ったとは思えないほど淡泊な別れの言葉を背にして、俺は酒場を後にした。

 夜空の月に見守られながら、その足で冒険者ギルドに向かう。

 パーティから抜けたのであれば、その手続きをしなくてはならない。

 冒険者ギルドにやってくると、受付にいる嬢の元へと向かった。


「お疲れさまです。ジークさん。お一人でどうしたんですか?」

「それが……パーティをクビになったんだ。だからその手続きに来た」

「ええっ!? く、クビですか!? ジークさんを!?」


 受付嬢はこぼれるほど目を見開いていた。


「【紅蓮の牙】の皆さん、いったい何を考えてるんですか? パーティの大黒柱のジークさんをクビにするなんて!」

「大黒柱って……。俺はそんな大層なものじゃない」

「だけど、魔物たちのヘイトを一身に集めて、仲間たちを攻撃から守っていたのはジークさんじゃないですか! ジークさんが率先して魔物の的になるからこそ、他の方々は集中して攻撃することができていたのに!」

「そう言ってくれるのは、君くらいのもんだ」

「ジークさんという盾があるからこそ、剣が活躍することができるのに。そこのところを履き違えてるんですよ」


 周囲の人間は皆、【紅蓮の牙】の攻撃力を讃えていたが、その影に隠れた俺に彼女だけは目を向けてくれていた。

 ありがたいことだ。


「これからはどうされるんですか? 他のパーティに加入して、【紅蓮の牙】をぎゃふんと言わせちゃいましょうよ」

「いや。彼らにクビを切られた俺を、拾ってくれるパーティはないだろう。……俺は今日限りで冒険者を辞めるつもりだ」

「そんな……勿体ないですよ」

「元々、いつ足を洗おうかと考えていたところだったんだ。不安定な職種だからな。今回の件は良い機会だった」

「そうですか……」


 受付嬢は渋々ながら納得してくれたようだ。


「これから何をするかはもう決まってるんですか?」

「今のところは何も。取りあえず、雇用契約がある職業を探そうと思っている。その方が安定するだろうし」

「――そういうことでしたら、私からご紹介しましょうか?」

「えっ?」

「ちょうど、ジークさんにピッタリの求人があるんです。お給料が毎月出て、雇用も安定している職業ですよ」

「そんな良い仕事が!? それはいったい……」

「門番のお仕事です」


 受付嬢は指を立てて言った。


「今、人手不足らしくて。腕の立つ人を探してるんですよ。紹介状があれば、すぐにでも採用されると思いますよ」

「それはぜひ頼みたい」

「では、そのように手配しておきますね」

「ちなみに門番というのは、どこの門番なんだ?」

「王都アスタロトの門番です」

「え……」


 受付嬢はにこりと微笑みを浮かべた。

 なるほどな、と俺はそこでようやく納得した。あの曰く付きの都市の門番か。そりゃ猫の手も借りたくなるわけだ。

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