伝説の聖職者☆見習い

有瀬優哉

ポンコツ聖職者、大地に立つ!

 ──リファールアルグレオ村


 舌をみそうな名前のこの村は、村という割に敷地しきちは広範囲に及び、もはや街と言っても過言ではないほどに広い村だ。


 遠くには巨大な王城がそびえ立ち、ちょうど正午をお知らせする巨大な鐘が鳴り響く。市場は大変にぎわい、人々は商売に活気を出し、道ゆく人々も自由を謳歌おうかし、とにかく第一印象としては『にぎやか』と言える。


 そんな大きな村に、本日一人の修道女が就任することになったのである。


 癒やしのスペシャリストが村に到着するという噂を聞きつけ、今か今かと待ちわびている村人達は皆一様に村の入り口へと集まり、歓迎の国旗を掲げてにぎやかしていた。


「この村は戦力や物資という面では充実しているのだが、医療行為を行える者が一人もいないから非常に助かるぞ!」

「俺の右手に入ってる入れ墨、消してもらえるかな?」

「え! そもそもお前、なんでそんな入れ墨を入れたんだよ!」


 どうやら聖職者は歓迎されているようだ。


 修道院は現代で言うところの病院であり、聖職者は医師といったポジションと考えると分かりやすいだろう。村に病院ができるのだ、よく考えれば誰しも歓迎するのは当たり前の事なのかもしれない……


 村の歓迎ムードは聖職者が来る時間に近づくにつれヒートアップをし、中央広場では昼間だというのに花火が打ち上がる。そして建物のあちらこちらにはシスター様歓迎! と書かれた装飾がなされている。


 そんな盛り上がりを見せる中、ガコンガコンと地面に滑車を音立てて疾走する馬車は、間もなく歓迎一色のその村に到着しようとしていた。


「わぁ、すごい! 小さな村だと思ったら、遠くにお城まである立派な街なんですね! すごいなぁ」


 村の入り口に馬車が止まると女の子は中からスッと顔を出した、村人達はそれを見逃さない。


「おー! 来なさった! あの方がこの村に滞在されるシスターアルフィリーナ様じゃ! ありがたや!」


 ちなみに、都市以外の村へ聖職者が赴任するのは非常に珍しい事である。


 通常、聖職者は大都市の修道院に所属し、敵勢力との対戦で傷ついた大量の兵士やこころざなかばで敗れた兵士に貢献こうけんするのがならわしなのだ。


 そんな手の届かない尊い存在が、こんな村に来てくれるだけで村民のボルテージが上がってしまうのは、まぁ無理もなかった。


 しかも、なんと美しい……


 女神とも思える美しさのそのシスターは、目の合った村民達にまるで天使を思わせるようなほほ笑みで会釈し、そのまま荷物を持って馬車からゆっくりと降りてきた。


「ほぅ……なんと美しい方だ、ただよう気品、身のこなし、そして完璧なまでに純真無垢じゅんしんむくだ」


 村民一同、ため息しか出なかった。


 まるで絹のように細く白い髪の毛は、帽子をかぶっていないため邪魔をされることなく風にさらさらとなびき、きめ細やかな肌は化粧を必要としないほど美しい。

 顔は天使のようにととのい、外見はあまりにも清楚せいそで恐れ多い。


 ストレートロングの髪は清純せいじゅんの象徴のようで、ただ寄ってくる香りはフローラルミントを思わせるようなとにかく良い香りがする。


 りんとしたたたずまいで『そこに存在するだけで絵になる』ような、完璧なまでに美しく可愛らしいシスター様。


 …………


 ただ一つ、だぶだぶな聖堂衣だけはさすがに気になった。


 幼女を思わせる位ちっこい背丈と、体系にサイズが合っていないのか非常に歩きにくそう……


 そでから何からとにかくだぶだぶで、すそも地面に触れるか触れないかの微妙なラインでなんとか維持されているのだが……


 あ、やっぱりコケた……


「うおおおおおおおおおおおおおおー!」


 村中に歓声が上がる。


 コケた姿も可愛かわいく美しい!


 痛くて泣きそうな顔をしながらも、シスター様はカチャカチャと眼鏡を取り出し、それを少しずれ気味にかける。

 これもまたサイズが微妙にあっていないのか、結構な頻度でずり落ちるのが目に見て取れる。


 その姿のあまりの可愛らしさに、もはや失神する者がちらほら現れたのだった。


「あっ、あのっ! シスターアルフィリーナと申しますっ! 皆様! よろしくお願いいたしましゅ!」


 あ、んだ……


「うおおおおおおおおおおおおおおお!」


 またもや村中に歓声が上がった。


 今の行動は、その可愛らしさにとどめを刺したのかもしれない。

 んだ後に顔を赤らめ、恥ずかしそうにあわてふためくシスターは、己のしでかしたとてつもない行動(マニアック)を、なんと天然でやらかしたのだった。


 中には涙を流して号泣する者までいたが、アルフィリーナはあたふたしながら皆をなだめ荷物を持って修道院を目指した。


「んしょんしょ……あたっ!」


 何度もこけそうになりながら……




◇◆◇




──リファールアルグレオ村修道院




「と、いうわけで、こちらの村に配属されることになりましたシスターアルフィリーナと申します、見習いの身ですがよろしくお願いいたします!」


 祭壇さいだんにある女神の像に、さっそく就任の挨拶をするアルフィリーナ。

 歓迎の宴うたげから解放され、今は誰もいない小さな建物の中に挨拶あいさつだけがこだまする。


「この村は良い人たちばかりです。でも、もし私が何も回復魔法が使えないという事を知ったら、やはり追い出されてしまうのでしょうか……」


 回復魔法を使える修道女が村に来たという事で村は非常に盛り上がってはいたのだが、実際の所アルフィリーナは回復魔法を一切使えない。


 しかも、卒業の単位が足りないため『使えない子』というレッテルすら貼られ、ひっそりとこの村に飛ばされたという誰にも言えない恥ずかしい経緯けいいがあるのだ。


 卒業するにはシスターとしての貢献こうけんがポイントとなり、卒業に足るポイントを取得しなくてはならない。


 貢献こうけんといっても回復したり解毒したりと、回復魔法を使えればそんなに難しい事ではないのだが、回復魔法そのものを使えない彼女はもはや、何をしても貢献した事にならず、いまだにポイントはゼロポイント。


 そんな理由があり、なんだかんだでアルフィリーナは三年間留年をしている。


 一応努力家ではあるので、座学は飛び級により周りと比べても三年早く進めたのだが、ぜんぜんポイントがないので、どうしても卒業することができない。


 ただただ同級生達が今年卒業して旅だってしまうのが悲しいなと思ってしまう。


 バタン!


 涙目のアルフィリーナ。

 しかし唐突にドアが開く。


「シスターさん! うちの旦那が屋根から落ちたんだ……足を怪我けがしちゃって意識もないんだよ、助けておくれよ!」


 色々いろいろ友達の事を思い出して『どよーん』としていたアルフィリーナではあったが、旦那さんを担いで入ってきた奥さんを見て気持ちを切り替える。


「はっ、はいっ! ではそこの祭壇さいだんに横たわらせましょう!」


 二人で旦那さんを祭壇さいだんに横たわらせると、さっそくアルフィリーナは神に祈る……


 ──シスターアルフィリーナの名において祈りをささげます、願わくば傷つきさまよえるこの者に神の癒やしを与えたまえ、なんじ、神の御加護があらん事を……


 …………


 ──やはり発動しない回復魔法


「あの……シスター様?」


 しばらくの間なんとも言えず続く沈黙。


「あ、あはははは~」


 笑ってごまかすシスターアルフィリーナ!


 しかし! すかさず薬草を二種類取り出すと、超高速調合を行うシスター!

 なんと一瞬で上級回復薬を作り出したのだった。


「これを塗って、二、三日てば回復すると思います!」


 ぜぇぜぇ言いながらグッと親指を立てるアルフィリーナ。


 魔法が使えない分、アルフィリーナの回復は全て調合任せだ。もはや上級薬師、いや薬師マスターと言ってもよいだろう。


 しかしながら、超高速調合はすり鉢をこねくり回す手間の分恐ろしく疲れる。そして卒業ポイントは全く入らない。なんでこの子はシスターなんかをやっているのだろう。


「シスター様が薬を調合するなんて、珍しいねぇ……」


 奥さんは半信半疑だったが、塗った箇所かしょには光が宿り予想以上に回復していく。


 ちなみにアルフィリーナが調合する薬は即効性があるものではなく、徐々に回復していくタイプのものだ。詠唱した途端に回復する回復魔法とは本質的に回復の方法が異なる。しかしじわじわと回復するといえど、アルフィリーナの回復薬なら村人程度フル回復できるのだ。時間はかかるが……


 目を覚ました道具屋の主人は奥さんと抱き合って喜ぶ。


「助けてくれて本当にありがとうな!」


 手を振りながら笑顔で帰る夫婦。

 でも、旦那さんは足を引きずっていた。


「回復魔法が使えればすぐにでも歩いて帰れる様にしてあげられたのに……ごめんなさい……」


 自分の無力さに涙がぽろぽろと落ちてくる。


「でも、私頑張らないと!」


 アルフィリーナがグッとガッツポーズを決めたタイミングで、大きな音とともに扉が開いた。




◇◆◇




 バタン!


「シスター様大変です! 村の入り口にモンスターが現れました! 城の兵士達が応戦していますが思いのほか苦戦していまして……療養りょうようできる場所が他にないんです! どうか看護をお願いします!」


「あわわわわわ!」


 慌てるアルフィリーナをよそに、次々と運ばれてくる怪我人。


「た、助けてくれ……あ、あれは、化け物だ!」


「く、苦しい……毒が、毒がぁぁあああ!」


「返事がない、ただのしかばねのようだ」


 アルフィリーナは超高速調合で、解毒、蘇生、回復、あらゆる手を尽くす。

 薬学の力で蘇生までこなすシスターの実力は凄まじかった。


「シスター様! 私も手伝います!」


 気づくとたくさん現れて手伝う村人。


「シスター様! 薬草を持って来ました!

 これで調合をお願いします!」


 なんでこのねーちゃんは回復魔法を使わないんだ? という雰囲気は多少あったが、調合された薬の効き目がすごいので、皆とにかく薬を使い兵士達を回復していく。


 しかしながら、即効性は魔法に劣り完全に回復できるまで2、3日を要する。


(魔法なら瞬時に回復できるのに……)


「シスター様まずいです! この回復速度では兵士の数が足りません! 残るはオークキングだけなのですがこのままでは回復が追いつかないです! できれば回復魔法をお願いします!」


「あううううう……」


 できないですと言いたいが言えず、シスターアルフィリーナは就任早々最大のピンチを迎えていた。


 回復魔法は使えない、薬の効果は遅効性、早くしないと村が滅ぶかもしれない。


「シスター様! 回復魔法を!」


 シスターアルフィリーナは頭を抱えた、だって私回復魔法できないんだもん、と。


「…………行きます」


「……へ?」


 アルフィリーナは何かを決心したかのように立ち上がると、皆に看護を任せて修道院を出る。


「シスター様、前線は危険です! そんな事より回復魔法を!」


(私は何も聞こえなーい、回復魔法? 何ソレオイシイノ? あはは、アハハ!)


 見事なまでの現実逃避が炸裂。


「た、助けてくれぇええ!」


 アルフィリーナは村の入り口に到着。そこにはあまりにも多く倒れている負傷兵。


「シスター様ぁぁあああ」


 でも、自分に向けられる多くの救いの声にアルフィリーナは答える事ができない。


羨望せんぼうの目で見られるのがつらい……)


「あ、あ、あ、あ、あ、あ」


(なんで私はこんな時になんの役にも立てないんだろう……いつもこうだ……手持ちの回復薬を使っても、回復が遅いから次々とやられていく……)


「シスター様、回復魔法を……がくり」


 (どんなに薬で手を尽くしても、目の前で倒れていく……つらい……もういっそ全て話して楽になろう……)


 アルフィリーナの中に現れる、負の感情の連鎖。結局いつもこうなのだ。


(私は回復魔法が使えないどうしようもないシスターなのだと、皆の期待に応える事のできないダメダメな人なんだと告白しよう)


「……ごめん……なさい……」


 アルフィリーナは皆の前で泣き崩れた。


「ごめんなさい! 私っ! 私! 回復魔法は使えないんですっ! ごめんなさい!」


 無数の倒れた兵士達に目の前で告げられる驚愕きょうがくの事実。それは神職なのに回復魔法が使えないシスターという現実。


「ごめんなさいっ! ごめんなさいいいぃい!」


 泣きじゃくり無防備なシスターに、オークキングは手に持った巨大な棍棒こんぼうを振り下ろす!

 それに反応した兵士がとっさにアルフィリーナをかばった。


「わかった! 分かりましたから! 逃げてシスター! ぐはっ!」


 最後の一人も倒され、兵士は全滅した。


「に、逃げて、シスター様……」


(もうやめて! なんでみんながこんな目にあわなければならないんですか! 神よ、皆をお助け下さい!)


 アルフィリーナは覚悟を決め、シスターらしく神に祈りをささげた。


(せめてシスターらしくありたい、私をかばってくれた皆のためにも……)


 右手で十字を切り神に祈る。

 シスターアルフィリーナはこうべをれ、目をつむり、周りから見れば自殺行為にしか見えない体勢。


「……神のご加護があらんことを……」


 シスターに迫りくるオークキングの巨大な棍棒こんぼう。叩きつけられたら恐らくかけらも残らずつぶされてしまうだろう。

 周りの兵士達は動けない体をかえりみずシスターを守ろうと体を引きずる。


 しかし、誰もアルフィリーナをかばう事ができないまま、皆、祈りの体勢を取る彼女に叫び続けた。


「シスター様ぁぁあああ!」



 …………



──かつて中央修道院には一つの伝説があった。


 魔王を討ち滅ぼし、世界を平和へ導いたという伝説の勇者。その血を引くという一人の女の子が、戦乱の最中姿を消した。


 魔王との戦いで勇者の血を引く記憶と能力を失ってしまった女の子は、身を寄せる場所もなく、やがて中央修道院に従事するシスターとなる。


 勇者は回復魔法や攻撃魔法、そしてありとあらゆる武器を使いこなし、逆境であればあるほど英雄としての力をみなぎらせ、不条理に打ち勝つ能力を持つ存在。


 しかし、なぜか回復魔法を使うことができないそのシスターは『回復魔法どころか武器も装備ができない出来損ない』として、評価を受けることになる。


『アルフィリーナ、あなたはもうこの修道院にいてはならない存在です……』


 はたして、シスターたりえない彼女は、この世に存在してはいけないのだろうか……


 否、彼女はそんなマイナスな思考を持たなかった。

 せばる……と。


『アルフィリーナ、あなたは……』


 いくら出来損ないであっても、人一倍頑張ってきた彼女。どんな状況であっても、世間にあらがい今までさまざまな不条理にあらがって生きて来たのだ。


 必要のない存在なんて他人を害する者以外この世にあってはならない、そして、努力は報われなくてはならない。


『あなたは、かつて一度魔王を討ち滅ぼした事のある伝説の勇者なのですから……』


 かっ! と目を見開いたシスター、いや勇者アルフィリーナは決して負けない! なぜなら人一倍努力しここまできたのだ!


 勇者の血を引くシスターアルフィリーナ。

 回復魔法は使えないが、戦闘能力は凄まじいのだ!


『あなたは……この修道院に収まるだけのちっぽけな存在ではないのです。アルフィリーナフォンクラウンに、神の導きをそしてなんじに神の御加護があらん事を……』


「うああああああああああああああ!」


 アルフィリーナの体より現れる青白いオーラ! オークキングの棍棒を白刃どりで防ぐ!


 当然白刃取りではオークキングの荷重が加わる。アルフィリーナの周りは巨大なクレーター状に形を変え、地鳴りすら聞こえるほどの振動が辺りを包み込む!


 しかし、アルフィリーナは動じない!


 スタンスタンスタン! と、軽快な音を鳴らして後方へと高速回転。間合いを取ったアルフィリーナは、美しい髪の毛を少し口に咥えると、流し目でオークキングを見つめながら身繕いを始めていた。


「聖職者アルフィリーナの名において、この村を害なすあなたを倒します……」


 アルフィリーナとは思えないような鋭く美しい流し目。


 オークキングは村の建物を破壊しながらアルフィリーナをとにかく追いかける!


 しかし、素早く動くアルフィリーナを捕らえることはできない!


 まるで空を飛んでいるかのように空を舞うアルフィリーナ。オークキングの攻撃をひらひらとかわし、ついには間合いの中へと到着する!


「汝に……救いあれ!」


 オークキングの攻撃に合わせるが如く、美しいクロスカウンターがオークキングの腹に炸裂!


「な、なんだあのシスター様は……無手でオークキングに致命傷を与えたぞ! しかもなんか美しいぞ!」


「なんて可愛らしい……」


 オークキングの腹に拳をめり込ませたアルフィリーナは、思わず泣きながら叫んでいた!


 ありったけの思いを込めて……


「あなたのせいで、私! また追い出されちゃうじゃないですかぁ! 馬鹿ああああ!」


 ……思いってそれ?


 めり込ませた拳を押しこみ放った衝撃は、突風と共に青白い光より強く放ち、オークキングをちりと化す勢いではるか遠くへふっとばした!


「ば、ばかな! われの、われの体が空気抵抗で削れていくううううっ!」


 あまりにも高速でふっとばされたオークキング! 空気抵抗によってみるみると削られていき、摩擦まさつで生じた火炎によってチリひとつ残さず、地面に落ちる事なく空中で消滅していった。


 それを目の当たりにした兵士一同はつぶやく。


「……す、すげぇ……」


 ボスモンスターが消滅した事で残党は消え去り、やがて敵軍は全滅したのだが。


「うわああああん!」


 シスターはその場で泣きしていた。


「シ、シスター様……」


「ごめんなさいいい、私、私、回復魔法が使えないんですうううう!」


「お、おう、それは……大変だな」


 泣きじゃくるシスターを見ながら、なんか回復魔法とかどうでも良いんじゃね? と、みんなは思った。



 次の日、シスターアルフィリーナは荷作りりを行い村を出る決意をした。



「回復魔法も使えない、村中で挑んで勝てないボスを一撃で殲滅せんめつするような不気味なシスターなんて……やっぱりいない方が良いんだ……」


 シスターアルフィリーナは朝早く荷馬車に荷物を詰め込み、脱力しながら準備を進める。


「さようなら、一日だけでしたけど、すごく楽しい生活でした……戻っても寮長さんに怒られるんだろうなぁ……うう」


「シスターアルフィリーナ様! どこに行かれるのですか!」


「へ?」


「ねーちゃん! 行かないで!」


「シスター様、回復魔法なんて使わなくても良いんです! この村に留まってください!」


「オークキングを一撃で殲滅せんめつするなんて、やるじゃねーか!」


 早朝にも関わらずたくさんの人が来てくれた。


「でも、私、シスターらしいことなんて何も出来なくて!」


「何言ってるんですかい! もらった薬、すげ~効いたぜ?」


 兵士達は照れ臭そうにアルフィリーナに笑みを浮かべる。


「で、でも……」


「なぁお嬢ちゃん? この村に残ってくれねーかな?」


 見渡すと村中の人たちが笑顔で迎えてくれていた。


「こんな変なシスターがいたら皆さんにご迷惑がかかると思うんです。第一、就任してからすぐに村の襲撃がありましたし」


 そうなのだ、恐らくシスターアルフィリーナの勇者としての素質や能力にかれモンスターの襲撃があったのかもしれない。


「そんなの関係ないだろ……寂しい事言うなよお嬢ちゃん。俺の足、ひきずらなくても歩けるようになったんだぜ? お嬢ちゃんがいなかったら仕事にならない所だったんだ。それに見ろよお嬢ちゃんに救われたみんなの姿を……」


 道具屋の主人はアルフィリーナの頭をぽんとたたいて親指をぐっと立てる、最高の笑顔で感謝していた。


 兵士達はうんうんと道具屋の主人に賛同し、爽やかな笑顔で親指をグッと立てる。


 村の入り口は廃墟はいきょと化していたが、アルフィリーナはこの人たちを守り抜いた。みんなそれをアルフィリーナに伝えたいという気持ちで一杯だった。


 アルフィリーナは笑顔に包まれる。周りの人達が誰を見渡しても同様の笑顔なのに嬉しくなり、ガシガシと涙を拭くと自分も満面の笑顔で返事をした。


「はいっ! 回復魔法も使えないシスターですけど、一生懸命頑張りますっ! 皆さんよろしくお願いしまひゅ!」


 あ、やっぱりんだ。


 みるみる顔が赤くなっていくアルフィリーナに対し、村中が笑いに満ちていた。


「やっぱりあんたはその方が良いぜ、これからもよろしくな!」

「こうなったらみんな! 胴上げだ胴上げ! シスターアルフィリーナ様バンザイ!」


「バンザーイ! バンザーイ!」


 胴上げされながらも、小さなシスターアルフィリーナは、大きな決意をする、この村で皆を支えて生きる、そんな決意を。


「アルフィリーナ頑張ります!」


 かくして、回復魔法の使えないシスターは村の一員として歓迎される事となった。


『……あなたはこの世の理不尽や不条理に打ち勝ち、たたき壊せる唯一の希望……頑張ってくださいね……』


 アルフィリーナは今回の件で、10ポイントもの卒業ポイントを手に入れていた事を知るよしもなかった。

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