第2話 0と1と脅迫状モチーフ

「さて、第三の犠牲者は、今日の放課後と分かりました」

「ビューティーさん。何故『0』と『1』でそこまで分かるんですか?」


 彼女が、ホワイトボードの前から、最も後ろに並んでいる僕の所に来て、顎の下をさすった。


「何するんですか? はあ、はにゃ。僕は、猫じゃありませんよー」


 ビューティーさんは、クールな目元で僕に微笑みかける。


「私の専攻は、二進法にしんほう魔法学まほうがくだったの。それの応用よ」

「今時、魔法ですか? ドラマに合いませんよ」

「ラブだって、色々あるのよ」

「分かりました。その先は事件解決後に伺います」


 僕は、上手くかわせたと思った。

 ただ、この二人がとてつもなく物覚えがよいことに失念していた。


「先ず、この学園都市は特徴があります。スミカグループの傘下にある為、小学校は、北スミカ、西スミカ、南スミカ、東スミカ小学校に分かれております」

「うおっほん。知らないでか」


 この三國捜査本部長が知らない訳がない。

 僕らは知っているのだ。

 三國ご夫妻の明璃めいりお嬢様が幼い頃、本当に誘拐されたことを。

 心中お察しいたします。


「グラマラスバディーとしては、捜査員をこの三校に分けて配置したいと思うのだけれども、私達は二人しかいない。そこがネックです」


 二人は、ホワイトボードにスミカ学園都市の簡略な図を書いた。


「私は、犯人は西区に暮らしていると思うわ。だって、脅迫状のモチーフとなった文字は、西区で販売されていない地域のものだもの。つまり、北区と南区で買ってきたのね」


 ラブさんの言っていた、脅迫状に関する洞察は、僕らには直ぐにできなかった。


「東区かも知れませんが、ここは、賭けにでてみましょう。私は西スミカ小学校、ラブは東スミカ小学校に配置させてください」


 ビューティーさんの真摯な眼差しが刺さった。

 きっと勘が当っていると思わされる。


「分かった。第三の犯行を防ぐ為に見張りを配置しよう。我々は、東西南北の各々に十名ずつ配備だ」

「は!」


「天網恢恢疎にして漏らさずよ! ゴー!」


 ◇◇◇


 僕は、ビューティーさんと同じ西区に配備された。

 正門、裏門と我々がいつでも不審者に対応できるようにした。

 ビューティーさんは、西スミカ小学校の正門から堂々と入って行った。


「ビューティーさん。そんなことをしたら、犯人に逃げられますよ」


 僕の懸念はお構いなしのご様子だ。

 そして、校庭で遊んでいる児童に声を掛けられた。


「おねえちゃん、キレイだね」

「遊ぼうよ、おねえちゃん」


 ビューティーさんは、また、ブツブツと唱えた。


「0111100101……。OK。遊びましょう」


 暫く、花いちもんめをしていたが、突如、胸元の星型からメッセージをキャッチした。


「――ラブなのね。東区はどうなの?」


 何度か頷いた後、「お姉さん、用事ができたの。ごめんなさい」と走って行った。

 僕も何事かと追い掛けて行く。


「はあ、はあ。僕が追い付けないですよ」


 到着したよ!

 だが、ラブさんの配置されていた東区ではなかった。

 南区だった。


「ラブさん、何で編み物をしているの!」


 僕の第一声がそれだ。


「ビューティー、全力で来なさいよ。編み物に『まつ』と『かわ』が編地に出たわ」

「では、名簿にあった、松川まつかわあかりさんの線が濃いでしょう。ラブ」

「西区と東区には現れなかった。今日の犯人は、私達の隙を突いて南区の小学一年生を再び狙ったのよ。何て卑劣な」


 犯人の行動が僕には全く読めない。


「何故、南区を狙ったのでしょうか。ビューティーさんにラブさん」


 ラブさんが、編み物に金糸を混ぜて編む。


「一番手薄だったわ。それに松川あかりさんは、小学一年生でありながら、子役モデルとして顔が売れている。一際輝いていたのね」

「111000……。正門に零れたミカンジュースがある。彼女はミカンジュースが好きと、自己紹介したようです」


 グラマラスバディーが来て、直ぐに解決とは行かないのか。

 僕は、少々がっかりした。

 しかし、まだ遺体が上がった訳ではない。


「そのデータはどこからですか?」

「花いちもんめで遊んでいるときに、松川さんの幼稚園が同じだった広田香苗ひろた かなえさんに伺ったの」

 

 犯人は堂々と南区に現れたのに、僕らは逃がしてしまった。

 その上、第三の犠牲者、松川あかりさんを誘拐されたなんて。

 足跡を辿らなければ、本当に第五の犠牲者が出る。

 ビューティーさんの被害者は五人という勘が、外れてくれと願うばかりだ。


 ◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る