第16話 謹慎!

(1)


トーヤは今日から謹慎だ。

昨日の事……気にしてるかな?

勢いとはいえ大胆すぎたかな?

家に帰った後、顔が真っ赤になるのが分かった。

もちろん、初めてのディープキスだ。

どんな顔して愛莉に会えばいいんだ?

愛莉、そうだ。今日はトーヤの家行かないんだ。

……。

思い切ってメッセージ送ってみた


「愛莉の家8時で間に合うか?」

「いいよ!待ってる」


すぐに返ってきた。

顔に出ない様にしよう。

次の日、愛莉は普段通りの様子で家を出てきた。


「神奈おはよー」


そう言って愛莉は抱き着いてくる。

顔を見ると目の下に隈がある。


「……眠れなかったのか?」

「……うん、まあね。」


仕方ないよな。

私も悶々として眠れなかった。


「で、昨日帰りどうだった?」

「え?」


一瞬動揺した

必死にそれを隠す


「別に何もないけど」

「そうなんだ」


(ごめん)


心の中で愛莉に謝った。


「帰りに冬夜君家いかない?」


突然の愛莉の提案。


「謹慎中だぞ?いいのか?」

「ネットで調べた。そもそも義務教育で謹慎処分てのがおかしいんだって」

「あのハゲの独断か」


ハゲとは生徒指導の先生の事である。


「そそ、気にすることないよ。今日の授業の写し渡さないといけないし」


意外と冷静なんだな。


「昨日聞いたけど、成績落ちたの私のせいか?」

「そんなことないよ、GWにはしゃいでた罰があたっただけ」


そう言って舌をぺろっとだす。

よかった。それならよかった。


「でも本当に良かった。網ちょっと頑張れば防府にいけるね」

「そっか、じゃあ頑張らないとな」

「片桐さん」


その時今一番聞きたくない声をきいてしまった。

愛莉は無視している。


「片桐さん!」

「二度と私たちに関わらないでっていったはずだよ」


その声は冷徹そのものだった。

こっちが逆に気の毒に思えてきた。


立ち尽くす仲摩を後目に愛莉は「行こ?」と教室へ向かう。

慌てて愛莉の後を追いかけた。


(2)


起きたのは11時過ぎだった。


「おはよう」


キッチンにいる母さんに挨拶する。


「おはようじゃないでしょ!何時だと思ってるの!」

「だって休みみたいなもんじゃん」


別に反省文を書けと言われてるわけでもない。


「一週間勉強が遅れるのよ!少しでも予習しておくとか復習しておくとかあるでしょ」


そんな感じで小言を聞かされた。




昨夜は両親から怒られた……と、いうより母さんからこっぴどく怒られた。

父さんからは……。


「うむ、よくやった。さすがは俺の息子だ!」と、なぜか褒められた。

「何甘やかしてるんですか!?暴力事件起こしたのよ!」

「しかし、正当性は冬夜にあるだろ?冬夜は間違ったことしちゃいない。男ならそのくらい……」

「アナタ!!」


と、父子揃って叱られるわけだが。



昼食をとったあと、部屋に戻って勉強をしていた……が、1時間も経たないうちに飽きた。

その後は漫画読んだり、ゲームしたりして時間潰してた。

そして4時ごろになり、少し眠くなってきたころ。


ピンポーン


……来たかな?

母さんに変わって玄関に出る。

ドアを開けるとカンナが一人立っていた。


「よう!ってうわ……お前たるんでないか?」


カンナは僕を見るなりそう言った。

無理もない。

頭はぼさぼさ、服は部屋着のまま、顔も洗ってない。


「休みなんだしいいだろ?」

「そんな事言ってて良いのか?後で愛莉もくるんだぞ?」


にやにやしながら、カンナは言った。

まあ、愛莉もくるだろうな。

いつも通りの時間に。


「……まあ、上がれよ」


そう言って僕はカンナを家に招いた。


「あら?神奈ちゃんありがとうね、態々来てくれて。この通りだらしない生活しててねえ」


と、母さんがカンナを見るなり言った。


「いえ、大丈夫です。私も暇つぶしに来たようなものだし」


カンナはそう答えると2階へ上がった。


「うわあ……見事に散らかってるなぁ」


カンナは部屋を見るなりそう言った。

僕は無言で適当に片づける。

空いたスペースにちょこんと座るカンナ。

今日は胡坐をかいてない。

なんか違和感を感じた。

そして……


「昨日はごめん!」


と、言って頭を下げる。


「なんだよ急に?」

「いや、その……昨日の事だよ!」


昨日の事、平手打ちしたことか?それとも……。


「私も感情的になり過ぎてた!忘れてくれ!」

「忘れろ……って言われてもなぁ……」


「いつまでも友達というポジションで抑えられると思うなよ」


去り際にカンナが言い放った言葉。


「どういう意味かもわかってないんだよな」

「だから忘れてくれって、深い意味はないから」

「そうか?」

「そうだよ……」


肩の力を抜くカンナ。

ため息が漏れていた。


「まあ、忘れろって言うなら……」

「ありがとう」


とは、いえ忘れられるはずもなかった。

あの感触、そして感情的になったカンナの言葉。

ぼーっと考えているとカンナがなにやらベッドの下を漁っている。


「……なにやってんだ」

「いや、特に意味はないんだが……うーん、無いのか」

「何を探してるんだろ?」

「ほら漫画とか小説とかであるだろ?男子の部屋のベッドの部屋にはHな本が……」

「持ってねーよ!」

「ああ、今はパソコンとかスマホで見れるもんな」


ベッドの下に四つん這いになって漁るカンナ。

頭はベッドの下、おしりを突き出すような姿勢になっている。

スカートの丈は普通にもどしてあるとはいえ……。

昨日の事もあったせいか、その姿に欲情する。

生唾を飲み込む僕。

そんな僕の事情もつゆ知らずカンナは起き上がる。


「どうしたんだ?」


赤面する僕を見て尋ねるカンナ。


「べ、別にどうもしねーよ」


明らかに動揺してる僕。


「そっか、で。そのパソコン見てもいいか?」

「……いっとくけど探してるものは入ってないぞ」

「なんだよ、それでも男かよ」


つまんなそうにカンナは言った。


「……そんなの持ってる男と部屋で二人っきりになるのかよ?」

「へ?ああ、トーヤに襲う度胸なんてないだろ」


カンナはそう言って笑う。


「決めつけんなよ」

「ん?襲いたいのか?」


カンナはそう言うと、ベッドにあおむけに寝そべる。

やれるもんならやってみろと挑発するカンナ。

カチン。

僕は突然カンナの上に四つん這いになった。


「え!?」

「先に誘ったのはお前だからな」

「ちょ、ちょっと待てよ。こんなところ愛莉に見られたら……」

「愛莉はまだこねーよ」


時計は5時前だった。

……もっと抵抗するかと思っが……、意外にも全身の力を抜き目を閉じるカンナ。


「言っとくけど初めてなんだからな。優しくしろよ」

「え?」


どうすればいい?

勢いでやってみたはいいが、この後どうしたらいいか本気で困った。

すると目を開けて笑い出す


「何本気になってんだよ。冗談に決まってるだろ!」


そんな時だった。


コンコン

ノックする音だ。

やばい!こんなところ見られたら!


「神奈ちゃん。ご飯食べてくでしょ?」


母さんが目にしたのは慌てて起き上がるカンナの頭が鼻っ柱に激突し鼻血を流し、カンナの上にマウントポジションをとる僕の姿だった。


「なにやってんの!!」


夕食の時間は今日も説教の時間だった。


「そうか冬夜も大人になる時期か」


呑気に語るのは父さんだった。

とりあえず愛莉には秘密にしてもらった。


「当たり前でしょ!」


余計に怒られたけど。


(3)


「どうしたの?」


愛莉が来たとき鼻の穴にティッシュを詰め込んでる僕を見て不思議そうに聞いてきた。


「な、なんでもないよ!」


僕は慌ててティッシュをとる。


「慌てて転んで鼻打ったんだよな!?」


笑いながらカンナは誤魔化す。


「ふーん……」


二人は僕の部屋に入ると、テーブルを囲むように座る。

愛莉が鞄から原稿用紙を取り出す


「なにこれ?」


原稿用紙は10枚あった。


「謹慎期間中に反省文を書けって生徒指導の先生が私に渡して来たの」


やっぱり書かされるのか……。


「でもトーヤが暴力事件とはねえ。そんな度胸無いと思ってた」

「ムカッときて気がついたらぶん殴ってた」

「まあ、見直したよ。トーヤが殴ってなかったら私がぶん殴ってた」

「神奈、褒める事じゃないよ」

「でも愛莉も結局殴ってたじゃん」


あれは僕も驚いた。

ていうか……


「なんでついてきてんだよ」

「それは神奈が……」

「誰かの告白か?と、思ってな」


そう言ってカンナは笑う。


「あ、もう一つあった」


そう言ってノートを取り出す。


「これ、今日の授業の分。毎日もってくるからちゃんと勉強するんだよ」


学校にいた方が楽な気がしてきた。


「じゃ、取りあえず始めますか、まずは……」



9時ごろになると勉強会も一段落着く。


「じゃあね、またあした」


そう言って愛莉は家に帰りつく。

その後カンナを送る。


「一週間大変だな」

「まあ、仕方ないさ」

「あの時は怒りしかなかったけど……」


家の前に着く。


「ありがとな」


照れくさそうにカンナが言う。


「気にするなよ、気がついたら怒りで我をわすれてただけだ」

「そっか……でも」

「本当に誰にでも優しくするのはやめろよ、勘違いされるぞ」


カンナに忠告される。


「わかったよ、じゃあな。」


そう言って僕は帰る。


「あーあ、惜しかったよな今日は……」

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