第11話 夜会


愛莉の部屋


ドアがガチャっと開く。


「ふぅ~さっぱりしたあ」


神奈がシャワーを浴びてきた。

部屋着は準備してきたらしい。

因みに制服も。

友達の家に泊まるのは慣れてるのだろうか?


「ごめんな、こんな遅くに風呂まで借りて」

「いいの、気にしないで」


内心わくわくしている。

友達を家に泊めるなんて初めて。

布団はりえちゃんがテーブルを隅にたてかけて空いたスペースに敷いてくれた。

りえちゃんとは母親の名前。



数十分前


「ごめん!今夜泊めてくんない!?」


突然の事で驚いた。

どうやら親子喧嘩したらしい。

それで家出してきたらしい。


「そんな、突然言われても……」


家出少女を泊める事なんて許してくれるのだろうか?

ましてや今日問題になった神奈を。


「そうだよな。仕方ないな、じゃあトーヤ泊めてくれよ。トーヤの家なら大丈夫だろ?」


神奈はとんでもないことを言い出した。

それはだめぇ!!


「それはだめ!わかった、ちょっとりえちゃんに話してみる」


そう言って一度リビングにいる両親に話してみる。

不安しかなかったけど、やらないともっと不安な事ができる


結論からして私の心配は杞憂に終わった。


「愛莉ちゃんのお友達?珍しいわね~。まあ愛莉ちゃんのお友達ならいいわよ~。ねえ、パパ~?」

「……うむ」


の、一言ずつで済んだ。

それを聞いて私は、外でまってる神奈に知らせに出た。


神奈は冬夜君と何か話をしていたようだ。

きっと進路の事かな?

薄暗いけど神奈の表情が明るいのが分かった。

説得成功したのかな?


「神奈!りえちゃんが泊まってもいいって!」


そう言うと、神奈をリビングに案内する。

りえちゃんは神奈を見て感嘆する。


「綺麗な娘ね~、モデルさんみたい~。ねえ、パパ?」

「……うむ」


神奈は両親にお辞儀をして言った


「夜分突然の訪問で、すいません。今夜泊めていただきありがとうございます」

「あら?そんなにかしこまらなくていいのよ~。愛莉ちゃんのお友達なら大歓迎~」

「う、うむ」


時々すごく行儀がいいんだよね。

もともと大人しい子だったらしいけど。


「とりあえずお風呂でもどうぞ~、その間に寝床用意しておくから~」

「それじゃ、お言葉に甘えて」

「神奈、先に部屋に荷物おいてから」

「あ、それもそうだなぁ」


部屋に案内すると神奈は驚いてた。

ちょっと散らかってるから恥ずかしいんだけど。


「今度は神奈の部屋も案内してね」

「狭くて汚いぜ」


そういって肩をすくめる。


「じゃ、浴室に案内するね」

「あ、ちょっと待って」


そう言ってバッグから着替えとタオルを取り出す。


「うちのつかっていいのに」

「まあ、一応もってきたんだ」


浴室に案内する。


「ありがとな」


神奈がお風呂に入ってる間に冬夜君からメッセージが届いた。


「説得成功。多分志望校も一緒にしてくれると思う」


よかった。正直三重野高校は怖いイメージしかなかったから。


「ありがと、どうやって説得したの?」

「高校生活も一緒にすごしたいって言った」


むっ!


「どういう意味?」

「深い意味はないよ。ただ3人一緒に過ごしたいのが愛莉の願いなんだろ?」


確かにそうだけど……。




そして今に至る。


「ごめんな、こんな遅くに風呂まで借りて」

「いいの、気にしないで」


私はベッドに座り神奈は寝床に胡坐をかく。

しばし沈黙の時が流れる。




「あのさ」

「あのね」


それはほぼ同時だった。


「神奈から先にどうぞ」

「いや、愛莉からでいいよ」


じゃあ、お言葉に甘えて。


「進路……どうするの?」


すると神奈はにっこり笑った。


「進学するよ。冬夜に言われて……変だよな、親に言われても行く気無かったのに冬夜に言われるとなんとなく……な」

「そっか……」

「あ、誤解するなよ。あくまでも友達としてしかみてないからな」

「うん……」

「それにしてもあのトーヤに彼女が出来るとはねえ。居、今から話すのはあくまでも昔の話だからな」


知りたい。

昔どんな関係だったのか?

私に出会う前の冬夜君はどんな感じだったのか。


「うん」

「何度かそれとなく雰囲気を作ったことあったんだよね。やっぱり男子から告白されたいじゃん?」

「そうだね!」


私の時も私からだった。


「でさ、バレンタインデーにチョコを送っても、翌月めんどくさそうにお返しのお菓子もってきてさ」

「うんうん」

「で、転校することになったわけ。好きとは一度も言ってない」


そう言って寂しそうにする神奈。


「……今でも好きだったりするの」

「な、わけないだろ。もう3年も向こうにいたんだしとっくに吹っ切れてるよ」


そう言って笑う神奈。

でも、どこか寂しそうな気がするのは私の気のせい?


「愛莉はどうだったんだ?」

「え?」

「愛莉はどうやってトーヤを攻略したんだ」


興味深々に聞いてくる神奈。

さっきの私も同じ感じだったのかな?

すーっと深呼吸すると私は話をはじめた



小学校最後のバレンタインの日。

前日に作っておいた、チョコレートを持って立ち尽くしていた。

家に帰りついた直後に突然の大雨。


「明日学校で渡せばいいでしょう~?嫌なら家に帰った後でも~」


りえちゃんはそう言って私の肩をぽんとたたく。

駄目だ、今日渡さなきゃ。

そう思い込んでた。

そして傘を手に家を飛び出していた。

でも包み紙が濡れるたら駄目だって思って必死にチョコレートを庇ってたから自分はずぶぬれだった。

思えばホラーだよね?ずぶ濡れの女の子がドアの前に立ってるって。

最初に出てきたのは摩耶さんだった。


「あら?どうしたの?ずぶ濡れじゃない!上がって!タオルとってくるから」

「いえ、ここでいいです……あの」


摩耶さんは私が抱えてるものに気づいて察したのかすぐに冬夜君を呼んでくれた。

めんどくさそうに出てくる冬夜君。


「どうしたの遠坂さん。そんなにずぶぬれで?」


この男今日が何の日かもわかってないな?


「あ、あのこれ!!」


私がチョコレートの入った包装箱を渡すとやっと気づいたようだ。


「あ、サンキューな。開けてもいいか?」


そう言ってびりびりと包装紙を破く冬夜君。


「あ、今は駄目!!じゃあ、また明日ね!」


そう言って私は冬夜君の家を飛び出した。



翌日風邪を引いた。

無理し過ぎたか。そんなに距離なかったんだけどなぁ。

泣きそうだった。


チョコレートと一緒に書いてあったメッセージ。


「好きになっちゃった。友達としてではなく恋人として……ダメかな?返事は明日放課後教室で」


なのに学校を休んでしまった。

小学校生活最後のチャンスを生かせなかった。

涙がとまらない。泣いてるじゃん……。

でも、そんなとき奇跡が起こった。


ピンポーン


誰か来たみたい。


「あら珍しい~。ちょっと待っててねぇ~」


ぱたぱたと音を立てて上がってくるりえちゃん。


「愛莉ちゃん、お友達来たけど入れてもいいかな~?。! あら、泣いてる。どうしたの?」

「なんでもないよ……大丈夫、入れてあげて」

「そうお?じゃあ待っててね~」


そう言ってにやにやしながらりえちゃんは降りていった。


「良いみたいだからどうぞ。元気ないみたいだから励ましてあげてね」


なんかそんな言葉が聞こえてきた。

りえちゃんの言葉は良く響く。


静かに階段を上がってくる音。

ノック音が聞こえる。


「どうぞ……」


気力の無い声で返事する私。

ガチャ。

扉の向こうにいたのは!?


「○▼※△☆▲※◎★●!?」


冬夜君だ。


どうしよう部屋着だよ!?

てか頭ぼさぼさだよ!?

恥ずかしい!見られたくない!


「あっち向いて!」

「わかった」


冬夜君は言われた通り壁を向いて立っていた。


「……どこか適当に座って」

「……うん」


冬夜君は目をつぶって適当な場所に座ろうとしたらテーブルに脛を当てて痛がっていた。


そんな冬夜君を見て笑ってしまった。

私は手櫛で髪をさっと整える


「目を開けていいよ」


そう言ったら冬夜君は目を開けて机の椅子に腰をかけた。


「風邪、大丈夫?」

「うん」

「昨日無理するから」


だって昨日無理しなかったら今日がなかったから。


「メモ……見てくれた?」


私は思い切って聞いてみた。


「うん」

「それで?」

「うん……」


うんじゃ分からないよ!


「……でも正直恋人って言われてもピンとこないんだ。友達とどう違うんだ?」


なんだその肩透かしな回答は


「友達よりももっと好きだって意味だよ。冬夜君といると落ち着くの」

「でもさっき遠坂さん慌ててたじゃん」

「それは急に来たからだよ。それに返事聞いてないし。今でも心臓バクバクなんだから」

「そう言われると俺もドキドキしてきた」

「……冬夜君私の事……好き?」

「……うん。多分好き」


多分ってなんだ。


「でもさ、具体的にどうしたらいいんだ?」

「できるだけでいいから、いつもそばにいて」

「わかった」

「あとさ……今度から私の事『愛莉』って呼んで」

「わかった、愛莉……よろしくな」

「よろしくね、冬夜君。今日は来てくれてありがとう」





て、ところで私の話は終わった。


「……冬夜らしいな」


神奈は頷きながら聞き入ってた。


「でしょ?冬夜君がうちに来たときは本当また大雨がふるんじゃないかと思った」

「そうか、メッセージか……その手があったんだな」

「神奈も好きな人が出来たら使ってみなよ」

「もうバレンタインまで待つってこともないっしょ」

「それもそうだね」


二人で笑う。


「あ、もうこんな時間」


時計は0時を回っていた。


「そろそろ寝るか。明日冬夜の家に行くの早いんだろ?」

「うん」


私は明かりを消す。

そしてベッドに寝ると目を閉じる。

あの時の気持ちを振り返る。

ありがとう、冬夜君。

これからもよろしくね。




次の日の朝。

私と神奈は冬夜君の家にお邪魔する。

部屋に入ると何も知らない冬夜君はすやすやと寝ていた。

寝顔も可愛い。


「冬夜君朝だよ」


起きない。

摩耶さんから借りてきた秘密兵器を取り出す。


「起きろトーヤ!!」


神奈が飛び跳ね肘を冬夜君の鳩尾に叩き込む。


「げほぉ!!」


慌てて飛び起きる冬夜君。

こっちを見て不思議そうな顔をする。


「おはよう冬夜君」

「おはようトーヤ」


こうしてまた一日が始まる。

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