血を吸う鬼と護身刀 09
(こんなことしてる場合じゃない)
頭ではそうわかっていても、ついつい手が伸びてしまうのを止められない。
いっそのこと開き直って顔でも埋めてやろうかと欲望に屈しかけたところで、腰元から短刀一振分の重みが消え失せた。
「ここは
見えない背後。真後ろからぐいぐい背中を押され、最後は
振り返って見上げた先には、腰元から消えた護身刀の付喪が美麗な少年姿で仁王立ちしていた。
「鬼王がめざめたことはかくしておきたいんでしょう!?」
「――はい」
おっしゃるとおりと身を縮こめて、そそくさとその場をあとにする。
己が所有する刀剣の付喪に対してなんとも情けない、ともすれば侮られかねない態度をとっている自覚はあるが。そもそも私の場合、本当に小さい頃は遮那をはじめとする「鬼王神社の忌子に代々継承されてきた器物の付喪」に育てられたようなものなので。頭の上がらなさは実の親以上。とうにどうしようもなく、今更所有者としての威厳もなにもありはしなかった。
「悪いけど、急ぎだから開けてくれない?」
社務所に寄る手間を惜しんで向かった宝物殿。完全に名前負けした土蔵の観音扉にかかった錠前へ囁くと、応えの代わりに鍵が外れる。
これもまた「鬼王の忌子」が所有権を持つ古道具で、鍵もなく開いてみせるからには当然のよう付喪憑きだ。
「ありがとう」
外れた錠前を残し、引き開いた扉の向こう側。忌子以外が足を踏み入れることなど端から想定されてもいない土蔵の内扉には、人のいない
「
今度も呼びかけに応える声はなく。代わりにシャンッと響いた鈴の音とともに、土蔵の奥から姿を見せた巫女装束姿の少女――神楽鈴の付喪――が閂を外して私を招いた。
早朝に片足かかった夜遅く。こんな時間にアポもなく訪ねて快く応対してくれるのは、気心の知れた付喪くらいのものだ。
「神紋が入った錠はどこに仕舞ってある?」
「さすが」
虫干しの時に現物を見た記憶があったから、蔵のどこかに
顔を潰すとあとが怖いとか、そういう恐怖政治が敷かれていないことを祈りながら。壊された錠前の代わりを見繕う。
対になる鍵は、手にとってみれば錠前の方から教えてくれた。
「慌しくてごめんね。手伝ってくれてありがとう」
気配の薄い叶がきちんと隣にいることを確かめてから。内扉に元通り閂が通されるのを見届けて、もう一枚の扉を閉じる。
最後に聞こえた鈴の音は気にするな、とでも言うよう軽かった。
「
がちゃんっ。
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