クリスマスの日

鳩の唐揚げ

クリスマスの日

「あ…そういうことか。」


こんな寒い中3時間ほど待って、俺はようやく気が付いた。

そうか、俺は彼女にフラれたのか。


「クリスマス当日にフラれるとか…」


不思議と悲しくはなかった。

『この後、どうしよう。用事がなくなった。』そんな事を考えている自分にむしろ笑えて来てしまった。


とりあえず、家に帰ろう。このままでは凍えて風邪をひきそうだ。

俺は壁に寄りかかっていた背中を起こし、歩き出そうとした。


「あれ、帰っちゃうんですか?」


突然話しかけられた俺は、少し驚きながら後ろを振り向いた。

するとそこには、礼儀正しそうな女性が立っていた。


「あ、すみません。そこのマックの窓から見えていたもので。誰かを待っていたんじゃなかったんですか?」


「そうだけど、もう誰も待ってないよ。」


「あ、フラれました?」


彼女は一見礼儀正しそうにも見えたのだが、それは間違っていたようだ。


「いや、その通りだけども…。君にはデリカシーと言うものはないのかい?」


「生憎持ち合わせておりません。」


「さいですか。」


俺はそう答え、よくわからない彼女を尻目に、その場を離れようとした。


「あ、ちょっと待ってくださいよ。」


なんだ、まだ何かあるのか。


「この後用事が無いなら、ちょっと付き合ってくれません?」






「で、付き合うってなにを?」


「実はですね、私もフラれたんですよ。一ヶ月前に。それで、コレ余っちゃって。」


そう言って彼女は上着のポケットから映画のチケットを出した。

今話題の恋愛映画のチケットだ。


「一緒に観ませんか?」


「それはいいけど、これで合計4枚になるな。」


そう言って俺は今日観るはずだった映画のチケットを見せた。


「おう…。じゃあ、2回観ます?」


「同じ映画を?」


「ええ。」


まぁ、確かに1回目と2回目で違う楽しみ方も出来るけども…


他にやる事が見つからなかった俺は、彼女の提案に乗る事にした。



結局、アクションやミステリー系の映画なら2回観ても面白いのだが、恋愛映画はあまり面白くなかった。

結末がわかっている恋愛映画ほど面白く無い物はないだろう。

生憎隣の女性は、2回目の上映では熟睡していた。



「いやぁー、面白かったですね!」


「いや、寝てたじゃん。」


「心外ですね、1回目はちゃんと観てましたよ。」


俺たちは映画を観た後、近くのファミレスで少し遅めの昼食を取っていた。


「そう言えば貴方、あそこで待ってたの今日が初めてじゃ無いですよね?」


突然、目の前の彼女はそんな事を言い出した。


「そうだけど、え?なに?君ストーカー?」


「なんですかさっきから。心外にも程がありますよ…。私もフラれてから休みの日はやる事が無かったので、よくマックで暇を潰してたんですよ。」


「あぁ、そういうこと。」


ちょっと失礼な事を言ってしまった。


「休みの日は、よく彼女と出かけてたんだけど、最近はすっぽかされる事が多かったからな。」


「やっぱり、彼女とは上手くいってなかったんですか?」


「まぁね。」


彼女にフラれた事を今になって実感したのか、少し悲しくなって来た。


「あ、ちょっと話変わるんですけど。いいですか?」


「え、なに?」


悲しんでいる俺に、彼女は急にどうでもいい話をふっかけてきた。


「よくアニメとかで、都会でホワイトクリスマスだーとか言ってイチャコラしてるのありますけど、実際、都会で12月に雪とか普通に異常気象ですよね。」


「なんだよ急に、センチメンタルな気持ちになってるのに。」


「いや、ほら、外見てくださいよ。」


そう言われて窓の外を見ると、外は雪が降っていた。


「よくこんな日に3時間も外で待ってましたよね、貴方。」


「そ、そうだね。」


確かに寒いとは思ったが、雪が降るとは思わなかった。


「彼女にフラれたのは悲しい事かもですけど、今度は私が貴方の彼女って事でどうです?」


彼女は急にそんな事を言い出した。

普通はホワイトクリスマスで告白、恋に落ちるのだろうが…


「え、いやだ。俺君のこと好きになれない。」


俺は素直にそう言った。


「えー。一緒に映画観た仲じゃないですか。それも2回も。」


「いや、2回目寝てたじゃん。それと俺は知ってるぞ、1回目の時も『あんまり面白くないなー』って言ってたの。」


「じゃあ、退屈な時間を共有した仲って事で。」


「いやだ。」


そんなやり取りをしていたからか、悲しい気持ちは無くなっていた。

そこは、素直に感謝しておこう。


そして、彼女の告白は丁重にお断りし、その場を後にした。


そして、冬の長期休みが終わり大学が始まった頃、俺は彼女が同じ大学の後輩だった事を知る…。


「あ…。」


目があってしまった。

その日から俺は彼女に付き纏われる事になる。

なんだかんだ言って彼女との時間は楽しい物になっていた。

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クリスマスの日 鳩の唐揚げ @hatozangi

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