~第四幕~

「お、おはようもばっ、っス…。」

噛んだ…。

ここは雛籠高校。

都内にある高校で、偏差値60ちょいのマンモス校。

そして俺は雛籠高校1年生の小坂さとる。

ごくごく普通の男子高校生。

だべさ〜。

まあ強いて言うなら、すこーしネガティヴ?

英樹「いやかなり。」

さとる「そりゃあ暗くもなるわ!人ひとり死んだんだぜ。感情移入し過ぎる系の俺の身にもなれよなあ。死ぬのなんて、ジジババになってからでいーのによ。」

英樹「別に萩原さんと友達じゃないだろ。大体お前の友達、俺と悠真くらいだし。」

さとる「いーーーんだよ友達なんて2、3人いりゃあ!馬鹿みたいに大勢作る必要なんかない。そんなに沢山いたら、旅行行ったときのお土産買うので困るだろ?」



ああはいはい、どうせ俺はネガティヴですよ〜。嗚呼、ネガティヴ最高なり。とはならないけど、さすがに。そんな俺は毎日死ぬことばかり考えている…。って、そんなわけでもないんだけどね、意外にも。俺は多趣味で、感受性豊かで、感情移入しやすくて。だから、ちょっとね。

大体このご時世、まるっきり悪意に鈍感で、それでいて聖人君子みたいに振る舞って生きるっていうのは、無理があるだろ。

精神が壊れちまうぜ。

ちょーっと病んでるくらいが人として正しいべや、今の時代はね。

英樹「それは言い過ぎ。」

たしかし。

いやでも、あながち間違いでもないと思うぜー。



こうやって、窓際の1番後ろの席に座ってボーッと空眺めてると、おセンチな気分になる。

お通夜から丁度1週間経ったかな。こういう形でのクラスメイトとのお別れは、初めての経験ではないからいくらかマシなのだけど、まあ泣くよね。こういうのって、繰り返すことで慣れていくものではないから。



萩原。萩原あきら…。

ああ、英樹の言う通り俺は彼女と友達じゃない。深く関わっていない。ただ、なんだろうな。まさか彼女も、"死ねちゃう"側の人間だったとはなあ。でも、たしかに彼と同じにおいはしたさ。彼も萩原さんと同じで、丁度秋の頃に首を吊って…。

話によると、いつもは校門を出て右方向へと帰る萩原さんが、その日だけは左へ向かったらしい。それも、苫米地と。

いや、俺はその辺の詮索はしたくないんだ。

気になるのは、萩原がいつからあっち側、"死ねちゃう"側の人間に成り下がってしまっていたのか。まあ知る由なんてないよな。彼女の遺書を拝借できるほど彼女と親しい仲じゃないし、まさに死人に口無しだよ、悲しいことにね。



さとる「あってか耳貸してよ耳耳。この曲どうよ。これ、自殺した友人に向けて書いた歌らしい。沁みるよなぁ、今の俺らに。」

英樹「や、今そういうのはやめてほしいのだが。」

さとる「それはごめんってー。まあな、今だからこそ、な。」



さとる「…逝くのと逝かれるの、どっちが辛いんだろ。」

英樹「人の感受性も人生観も人それぞれ。2人の人間の痛みや辛さを同じてんびんにかけるのは、些かナンセンスなんじゃないか?」

さとる「うむうむその通り。お前、7回に1回は良いこと言うよな。」

英樹「それは、普通と比べて多いのか少ないのか分かりかねる…。」



先生「苫米地さんは、今日も風邪で欠席です。皆さん、秋のこの頃は気温の変化に気をつけて、風邪など引かないようにしましょう。」



苫米地。苫米地ひかり…。

危なっかしい奴とは思っていたけど、遂にぶっ壊れたか。あいつのライフスタイルは危険だよな。元気過ぎるってのも、ねぇ?あと、人の痛みが分かることはとても良いことだが、分かり過ぎてしまうのは、それはそれで自分が疲れちまうからな。あいつはそれを知らなかったんだなあ。

ってかあいつ、やけに俺に絡んできていたのはなんでだったんだ?頼んでもいない自分語りをしだすし。その内容はまあ、ありがちな、本当にベタな高校デビュー話よ。中学で学年一の嫌われ者だった私が、ここまで頑張ったんだよーって。それを聞いて俺はうんうん頷いてやってただけなんだけど、そうしたらあいつ随分気持ち良さそうに喋ってたな。あれか、人に相談とかするときに、的確なアドバイスを貰うよりは、ただただ話を聞いてもらいたい。そういうタイプなんだろうな。

でもなんで俺なんだろうなあ。…もしかしてひかりさん、俺ちゃんのことが!?なんて、ポジティヴな奴なら考えるんだろうな。

幸せそうで何より!…って、特に誰に言っている訳でもないのだが。



まあ、そうだな…。関わるとこは関わって、危険な時は無干渉。これ大事。あ、それは不感症とは違うのぜ?ケケケ! (この笑い方、妙にしっくりくるな。それは俺のルックスが、切れ長の目アンド長髪だからなのかもしれないな。)



うん、要は、無難に生きましょうよって話よ。

ぶなーん、ぶなーーーん。

以上!さとるせんせーのため〜〜〜になる授業おわり!

せんせーさようなら。

みなさんさようなら。

あー、あーーー…。

あきらさん、ごしゅーしょーさまです。

…っと。



そんなに眩しかったのなら、サングラスでもかけておけば良かったのによぉ…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る