ポジティヴ最高!
和泉ほずみ/Waizumi Hozumi
~第一幕~
「おっはようございまーす!」
ここは雛籠高校。
都内にある高校で、偏差値60ちょいのマンモス校。
そして私は雛籠高校1年生の苫米地ひかり。
ごくごく普通の女子高校生。
だわさ!
まあ強いて言うなら、すこーしポジティヴ?
美樹「いやかなり。」
ひかり「そりゃあ明るくもなるわ!こんなにたくさんのアトラクティブなお友達に囲まれてさ!ワタクシシアワセぜっちょーきなのですわよ!」
成績は中の中。顔も中の中 (友達に言わせればね)。なにからなにまで及第点 (の少しだけ上?)な私だけど、物事を前向きに捉えられる力だけは人並み以上なの。人生楽しく生きるには、明るく元気に過ごさなきゃだもの。
ああ、それにしても良い名前授かったなあ。ひかり。みんなを照らす"光"に…。みんな私を頼ってくれるし、私もみんなを頼ってる。持ちつ持たれつって感じ?
菜々子「ねぇひかりちゃん!今時間ある?ちょっと相談事が…。」
そうそう、丁度こんなふうに。私、この性格だからお悩み相談とかよく受けるの。回数重ねるごとに、人の話聞くの得意になっちゃった。
ひかり「なーこ!なになに恋愛相談?食べながら話そっか。食堂でいい?」
どうやら菜々子は、同じ部活のイヤミな先輩と、好きな男の子が被ってしまったことで悩んでるみたい。
ひかり「なーこが我慢する必要なんて、ぜんっぜんないよ!なーこ、内田先輩のこと本当に好きなら、そんなことで諦めちゃダメ!結局はね、魅力的なナオンが勝つわけ。だから、遠慮せず原先輩と真っ向勝負しないと。大丈夫、なーこが負けるはずないからね!」
菜々子「ひかりちゃんありがとう〜。なんかやる気出てきた!そうだよね、遠慮なんかする必要ないもんね。私、内田先輩にもうちょっと積極的にアプローチかけてみようかな…。」
さすが私。菜々子はみるみる普段の元気な表情に戻ってきた。うんうん。菜々子は笑顔でいるのが一番だよ。
菜々子「ちょっ、もう、またまた〜。でも、そうやって頷くだけじゃなくてちゃんとアドバイスをくれるのは、本当に助かるなあ。まあ、なかには頷くだけの方が良いって人もいるみたいだけどね。」
へぇ、そんな人いるんだ。変なのー。頷かれてるだけでなにか楽になったりするのかな。私には分からないや。
菜々子「ってかひかりちゃんは、好きな人とかいないのー?うりうり〜。」
ひかり「えっ、ああ、私は…。あの、窓際の1番後ろの席の…。ってヤバ!次、移動教室だよね。行かないと!」
私の毎日はこんな感じ。いつもいつも人に囲まれていて、寂しい時間なんて少しもない。私、みんながいるから頑張れているよ。ちゃんと頑張れているし、もっと頑張れるの。
あは、ポジティヴ最高!
あきら「あっ、あの…。あの!ひかりちゃん…。」
ひかり「ん?どうしたのあきらちゃん。」
あきら「えーっと、最寄り駅あっちだよね、帰る時。」
ひかり「うん。校門出て左。たしか、あきらちゃんは…。」
あきら「か、変えたの!最寄り駅を…。だだ、だからね。ひかりさ…ちゃん!と、一緒に帰りたいなあ、なんて…。」
ひかり「ああうん!じゃあ帰ろっか!」
あきらちゃんに久しぶりに話しかけられたなあ。そりゃあもちろん、私は目線が合えば誰にでも挨拶してるけどね。あ、この流れはあきらちゃんもお悩み相談かな。よしきた、任せろ。恋愛勉強なんでもござれー!ってね。
あきら「…。」
ひかり「…?」
あきら「…。」
ひかり「…??」
ひかり「あの、何か話があるんじゃ…?」
あきら「あっ、うん。ひかりちゃんってさ…。」
«"死にたい"って思ったことある……?»
ひかり「…。」え?
ひかり「えーどしたの急に。」重くない?
ひかり「……。相談事は、それなんだね。」それってさ。
ひかり「あー、ちょっと…。ちょっと待ってね。」家族とかに相談することじゃないの?
ひかり「えーっと、あの…。」私に、どうしろと?
あきら「…あるの?死にたいって、思った、こと…。」
そりゃあ、私にだって、そりゃあ、
あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、
ひかり「ないよ!!!!!!!!!!」
あきら「え、あ、うん。」
ひかり「ないないあるわけないだってせっかく神様から授かった命なのにお母さんがお腹痛めて産んでくれたのにお父さんがせっせと働いたお金でここまで成長できたのにその命をその人生をその愛をなかったことになんてできないできるわけないできるわけなくないかな大体自殺ってキリスト教では重罪でしょタブーでしょあとさ死んだらその後どこ行くかなんて分かったもんじゃないし自殺の場合に限り死んだ瞬間の痛みが永遠に永遠に永遠に続くかもしれないしダメだよ自殺はダメだよダメだいけないこと良くないこと悪いこと自殺はダッ…ゴホッ、エグッ、カッ…。」
ひかり「じ、だ、だめ、だめ…ハァ、ダメ…だから…。」
あきら「………。そ。」
あきら「そうだよね!やっぱり死ぬなんて、間違ってるよね!ひかりちゃんの言う通りだと思うよ!」
喉が痛い。カサつく。口の中に血の味が広がるような、広がらないような。水。水。飲みたい。飲む。飲んだ。平気。平気。平気。平気。
ひかり「平気だよ。」
ひかり「あのね。ハァ…。自殺はいけないんだよ。遺された人の気持ちを考えてね。あきらちゃんだけの命じゃないから。あなたの命はあなただけのものじゃ、ないから。」
ひかり「自分の人生に価値なんて見いだせなくていいから。価値なんて、あとから勝手についてくるから。なんのために生きているか、なんて、今考えなくていいことだから。だから、だから…。」
あきら「ひかりちゃんの言う通り。ひかりちゃんの言う通りだよ。ひかりちゃんは凄い。ひかりちゃんは本当に、明るい子なんだね。」
あきら「私、また頑張ってみるよ。」
ひかり「うん。」
「…。」
「…。」
「……。」
「……。」
「………。」
「………。」
あきら「わ、私ね。つい最近、犬を飼い始めたの。」
ひかり「えー!!犬種は?大きい?小さい?今度お家遊びに行かせてよー!!」
あきら「もちろんだよ。あ、名前はココアっていって、ママと決めたんだけど、トイプードルでね。小さくて、可愛くて…。」
…なんとかなっちゃった。私もしかして今、人の命救っちゃった?私凄い?やっぱり私って、天才かも?
あは、ポジティヴ最高!
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