中毒

keびん

珈琲

彼は僕よりうんっとはるかに大人だった。

落ち着きがあって、上品で、いつも静かに、僕を温かく包んでくれる。

彼の香り、彼のクセ、彼の味。すべてが忘れられない。

彼のことを思うたび、鼓動がますます大きくなっていく。

彼のことが気になって、夜も眠れない。


僕は、本当に彼のことを愛している。

それでも。それでも彼に別れを告げなければならない。

離れたくない。離したくない。手が小刻みに震えだす。

理性と感情が殴り合う。

ここで断ち切らなければ、もう一生もとには戻れない。


彼に罪はない。僕が彼に頼りすぎていたのがいけなかった。

彼はいつでも僕に力を貸してくれる。

何も生み出せなかった僕に、勇気とアイデアをくれた。

それだけじゃない。彼は、僕の冷えた心も、温めてくれる。

正直、もう彼なしでは生きていけないかもしれない。

彼の深みにずるずると沈んでしまっている。


いや、だめだ。離れると決めたじゃないか。

彼のやさしさに甘えるのはもうやめにしようと心に誓ったじゃないか。

彼がいなくても、彼の力がなくても、生きていけることを証明するんだ。


だからそれまで。それまで、さよなら。

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中毒 keびん @momo10nanami03

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