第7話 運命の恋人とその後の日々

私の名前は小野結(ゆい)9歳です。

普段はパパとママと私の三人家族ですが、本当は7人家族です。

それで、クリスマスの後からうちはもっと大家族になります。

一番上の舞ちゃんの家族が五人、私の一番上の姉とその旦那さん、長男春哉君と双子の雪ちゃんと凜ちゃんです。

次は智(さと)ちゃんの家族で四人、智ちゃんはうちの長男で其のお嫁さんと陸人と海斗。

それから秀ちゃんと澪ちゃんは双子です。お姉ちゃんとお兄ちゃんになります。

秀(しゅう)ちゃんはこの間彼女に振られたと言っていましたけど、澪(みお)ちゃんは私にふさわしい男が居ないと叫んでいてママに怒られていました。



澪ちゃんが言うにはうちはちょっと複雑らしく、舞ちゃんから澪ちゃんまでのパパと私のパパは違うんだそうです。

私のママとパパは再婚と言うらしいのですが、ここもちょっと複雑で、ママは再婚だけどパパは初婚だと言っていました。

どこが違うのと聞いたら、澪ちゃんが回数だって教えてくれたので、ママは二回もお嫁さんになれていいなと言ったら、変な顔をしていました。

澪ちゃんがあれはチベスナ顔っていうんだよって教えてくれました。

それは何と聞いたら、チベットスナギツネっていう動物の顔らしいです。

ママはもっとかわいいと思うよ、澪ちゃん。




春哉君は私のことをオバさんだと言います。

私は春哉君より年下なのに。

ママに言いつけたら、そうよと軽く言われて私はショックで泣いてしまいました。

舞ちゃんが私と舞ちゃんは姉妹だから、舞ちゃんの産んだ子供なので春哉君は私の甥で、私は春哉君の叔母さんなのと教えてくれました。

びっくりです。



でも、私は私の家族がたくさん増えるクリスマスからお正月は、みんなが揃って過ごせるのでとても嬉しいです。


舞ちゃんの旦那さんのおうちはお店なので、お正月は忙しいから帰ったら迷惑なのと言っていました。

忙しい時ほど帰ってお手伝いしないのと聞いたら、普段やってない人がいると迷惑だからと言っていました。

その分春から秋はそっちに帰るので、私とはあまり遊んでくれません。

なので、夏休みは坂本のおじいちゃんのおうちに行きます。


智ちゃんのお嫁さんのおうちは、今智ちゃんが住んでいる場所の近くなので、年末くらいは帰ってこないとなって言っていました。

澪ちゃんが、あんまり自分の実家にこだわると、嫁に捨てられるよと言って喧嘩になってママに怒られていました。



秀ちゃんが、親父は浮気したから離婚されたけど、結のパパはママ一筋だからその心配はないなと言っていたので、浮気ってなぁにと聞いたら、隣で聞いていたママに蹴られていました。

余計なこと言わなくっていいのって言ってたけど、聞いちゃダメなことなのかな?

後で澪ちゃんに聞いておこうと思います。

忘れないようにノートに書いておこうっと。



学校の作文で自分の名前の由来と言うのがあって、パパになんで結はゆいっていうのって聞きました。

本当の名前はむすぶなんだって。変な名前。

ママは子供の名前は漢字一文字と決めているらしく、それは大体において子供の名前なんて自分が書くので面倒とか言ってたけどそれって親としてどうなのと思います。


舞ちゃん澪ちゃんと来たのでまみむという順番でむから始まる名前で漢字一文字読み二文字を探したけれど、麦しか見つからなかったとパパが言いました。

麦ちゃんも可愛いけど、なんか今風じゃないよねとパパが笑っていましたけど、麦ちゃんが周りに居たら失礼になると思います。

それで結と漢字で書いてむすぶだけど、読みはゆいだそうです。

舞ちゃんも澪ちゃんもパパの子どもではないけれど、結はママの子どもだから同じにしたかったんだと言っていました。

よくわかりません。


子供の名前は親が一番初めにあげるプレゼントだけど、子供が一番使うのに子供が選べないから、子供のために一生懸命考えてつけるんだっていうから、きっといい名前のなのだとおもいます。


智ちゃんは、本当に結ができてよかったよなぁ、母さんの老後も任せられたしと言ってママに蹴られていました。

舞ちゃんが、あいつ本当に学習しない奴と言ってあきれていました。


ママは、結(ゆい)はパパとママを結んでくれたからと言ってましたし、澪ちゃんはゆいが生まれてきてくれたから、パパとママは結婚して今家族がみんな幸せになったんだよって言ってました。



家族を結ぶ子供だから結なんだよって言ってくれたので、私は本当に嬉しくなりました。

だから、クリスマスからお正月まで、毎日私は楽しくって嬉しいです。







息子の知大の結婚が破談になった時、私と妻は茫然としてしまい、知大のフォローもできなかった。

なぜなら、自分の息子が種無しだと通告され、それが周りに知られてしまった事が自分でも恥ずかしかったのだ。



自分の常識の中で、社会に出て数年働き、同じような家の女性と結婚して数年したら子供が生まれて、その子供を育て、子供も自分と同じような人生を歩き、孫が生まれてと漠然と考えていた。

それは多少の誤差は有れど、ほとんど変わらないまま時は流れていくと思っていた。

実際知大の上も下も同じような環境の女性と結婚して、子供を産み育てているのだ。



知大は結婚で躓いた。



その躓きは二度と立ち上がれない位の衝撃をもたらした。

本人にも私たち家族にも。



いつしか知大は家族と距離を取り始めた。



親族からの心無いからかいを含んだ揶揄、妻のかたわに産んでしまった事を後悔するような言葉。

妻はごめんねごめんねと謝るばかりで、知大の傷口を広げていた。

それらが知大を追い詰めていくのを見ていた。


頭ではわかっていた。

知大に何の落ち度もないことを。

でも、それをどう伝えていいのかわからないまま放置した。




兄弟も、本来なら祝福される新たな子供の誕生ということを伝えることに戸惑っていたし、子供が生まれてその子が育ち祝い事などを行うたびに、知大に知らせるべきかと私たちに相談をしてきた。



知大は家族が増えることは、お祝い事であるからと、お祝を包むことはするが、祝い事の席に呼ぶことは勘弁してくれと言った。

まだ心の準備が出来ていない未熟者だからというが、自身が原因の不妊である以上よその子供を見るのが切ないのは仕方ないことだと思う。

だから、お祝を包んでいるのだからそれ以上は求めるなと家族に言うしかなかった。



そして、気が付いたときには取り返しのつかないくらい、私たちの心の距離が離れてしまっていた。


あれから10年ほど経った頃、知大が救急車で病院に担ぎこまれたと連絡が入った。

家族が呼ばれ、誰かが病院に向かうことになった。


知大と妻の関係は芳しくなかったので、私が行こうかと言ったのだが、もし長引くようであれば看護の細々としたものは不得手でしょうと言われて、妻が行くことになった。


診断は虫垂炎で手術をすることになり、妻が言うように何日か病院に詰めることになった。


そこで千早さんに会った。

知大と妻のギクシャクとした様子を見て、二人の間に立ってくれたのは千早さんだった。



妻は久しぶりにあった知大から、もう謝らないで欲しいと言われたという。

自分が不妊なのは親の所為でもないし、ましてや自分が悪いのでもない。

偶々そうなっただけで、人生が終わった訳でもない。

泣きながら謝ることでもない。

できれば笑って欲しいと。


妻はそれを聞いてまた泣いたという。


どうしてそういう心境になったのかと聞いたところ、千早さんの存在が自分を救ってくれたと言った。


後に千早さんと知大は結婚するのだけれど、私が千早さんに感謝を伝えたところ、

私そんなことをしましたかね?と不思議そうにしていた。


でも本当に感謝したいことは、知大に子供を抱かせてくれたことだ。

知大から、千早さんに子供ができたと連絡が来て、結婚すると聞いたとき、私は泣いた。

千早さんが高齢出産になるので、もしかしたら障害を持って生まれるかもしれないとも聞かされた。

そのことで、兄弟の子供の将来にかかわるようなことがあれば、こちらと縁遠くなってくれてかまわないとも言われた。


例え障害を持って生まれようと、孫は孫だ。

障害があるならなおさら人の手は必要だと思うからいつでも言えと伝えた。



私たち家族の間では、千早さんは女神である。



奇跡ともいうべき赤ん坊の名前は結と名付けられた。

早産のため他の子供に比べれば小さいし、障害ではないけれど股関節脱臼でしばらく装具をつけていた。

その所為か歩きはじめたのも遅かったし、走るのも遅いがそれでも生まれてきてくれたことがこんなに喜ばれた赤ん坊もいないと思う。


千早さんの子供と知大を、私たち家族を、結びつけてくれた子供。


ましてや初めての女児。

可愛くて可愛くて、目にいれても痛くないとはこのことかと思った。

赤ちゃんの頃から装具をつけていたので、いつでも抱っこして移動した。

紅葉の手で、私の頬をぺちぺちとたたき、行きたい方向を指してあーあーと言う姿に涙した。




もちろん他の男児の孫も可愛いのだが、生まれてくるまでに苦難があった子供ほど可愛さは爆上がりだと思う。



歩きはじめるのが遅いと心配していたが歩きはじめるとその小さな手を広げてじぃじとよたよたと向かってくる姿が、何度涙で見えなくなったことだろう。


大きくなるに連れて、じぃじがおじいちゃんになったとき。

もう赤ちゃんじゃないから、おじいちゃんって呼ぶのと、得意げにいう姿も可愛くって笑った。

初節句七五三と女の子のお祝い事は、初めてで明るく美しい。


あの時の慰謝料があるから派手にやろうという知大に、千早さんが説教して止めていた。

知大にしても、いわくのあるお金なので使い道がなかったのだから、せっかくだしいいじゃないかと、応戦していた。


それなら結の結婚式のために取っておいてと言う千早さんにすがりついて泣いている知大を見るとは思わなかった。


「結は嫁にやらない」などとバカなことを言っていた。

それを見て妻も息子たちも笑っていた。





人様の普通が普通でなかった私達家族と知大だから、今の笑いあえる幸せがとても嬉しい。

千早さんには本当に感謝をしているが、一番感謝をしたいのは、千早さんの前の旦那さんだ。

大きな声では言えないが、浮気してくれてありがとう。

貴方が千早さんと別れてくれたおかげで、うちの知大は幸せを掴むことができました。

そして私たちも幸せになりました。



浮気してくれて本当にありがとうございました。

運命の恋人に出会ってくれて心から感謝しています。

その方と添い遂げられなかったそうですが、千早さんのことはうちの知大が最後まで面倒を見ますからどうぞご心配なく。


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