伝説
「ある地方に受け継がれている伝説なんだがね」
少佐はこう語り出して続けた。
ある満月の夜、突然空から白い髪を持った人間が降りてきた。
彼らは自らを月からの使者と言い、地上の人間を滅ぼしにきたと言ったそうだ。当然、人類はそんなことをさせるわけにはいかないから彼らに抵抗した。けれど圧倒的に月の人の方が強かった。
何故か?それは彼らの文明がこちらよりも発展していたのもあるかもしれない。だがね、それ以上に彼らが不老不死であったことが大きかった。
全戦全勝を続けていた月の人だったが、ある月の人が地上の女に恋をしてしまった。彼は葛藤の末、地上側として戦うことを決意し、信頼の証として不死の薬を女の村に納めた。
しかしそんな彼も戦いの途中で捕まってしまい、女の村も焼かれてしまった。ただ村にいた双子の姉妹だけを除いて。
家を失った彼女たちは怒り、不死の薬を受け入れた。その彼女たちの力は月の人たちをしても止められず、彼らを月に追い返すことに成功したそうだ。
こうして地上の人は絶滅の危機から脱することができたわけだが、双子の姉妹はその後も永遠の命の呪いを背負い、髪は脱色し白くなり、瞳は赤く、まるで月の人のようになったことで姿を消してしまったそうだ。
そのため、その村には今でも双子の姉妹を讃える儀式が残っているんだと。
「ざっとこんな感じだな」
少佐は本を閉じるとこちらを向いた。
「あの、今の話の双子の姉妹って……」
「まあ待て、その気持ちは分かるがこれは伝説だ」
アレンはちらっと隣のアリウムを見た。彼女は苦虫をかみつぶしたような顔をして、口をもごもごしていた。
「口がじゃりじゃりする……」
ああ、火傷かとアレンは納得したが、今知りたいのはそんなことではない。
「あの、アリウム」
「ん?」
彼女は少し不機嫌そうな顔でこちらを見た。
「君は今何歳なんだ?」
「何歳って……何歳なんだろうか?」
「分からないの?」
「その、君やそこの人よりかはずっと長くは生きてるけど」
「ああ、そうか」
白い髪に赤い瞳、そして何よりも今の発言。彼女はやはり____。
「君は不死の人間なのか?」
アレンは恐る恐る彼女に聞いた。
彼女は一瞬驚いたような顔をしたが、真顔に戻ると持っていたカップを置いて答えた。
「うん……もう何百年も……」
まだ陽が昇ってすぐだろうか。部屋にまた沈黙が訪れた。
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