アリウム(2)
翌朝、アレンは医務室に向かった。
「おはようございます」
アレンがそっと扉を開けると、そこには例の少女以外は誰もいなかった。
「誰もいないか……」
周囲を見回しながらそっと扉を閉めると、彼女が眠っているベッドの仕切りを開けた。
彼女はまだ起きていないようで、寝息を立てていた。昨夜は薄暗くてよく見えなかったが、何より目を引いたのはその銀色の髪だ。
「地毛の銀髪なんて見たことないな……」
それに何処か異国。いや、まるで異なる世界の存在、そんな感じがした。
「それに、この首輪……」
アレンが彼女の首輪を触ろうとしたその時、彼女は目を覚ました。
「…………ここは?」
紅の瞳がこちらを見つめる。彼女は目を擦ると、少しずつ自らの状況に気付き始めた。
「貴方は?助けてくれたの?」
「まあ、そうだ。目が覚めてよかったよ」
彼女ははだけた入院着を整えると、体のあちこちを触って何か確認をしていた。
「あ、ありがとう!で、ここは何処か教えてくれませんか?」
「ここはマシヤ……っても分かるかな?」
「マシヤ……。ノーラーからはどれくらい離れていますか?」
「えっ、ノーラー?」
ノーラーといえば今、こちらの軍が攻撃している土地の名前だ。ここからそう遠くはない。
「そんなに離れていないけれど……」
「やはり、そうですか……」
彼女はそれを聞いて少し考え込んでいた。
「その、こちらも聞いていいかな?」
アレンはあまり彼女の邪魔をしたくなかったが、聞かなくてはこのあとのミドルトン少佐との話に差し支えが出る。
彼女はそれを聞くと、はっとした顔になりこちらを向いた。
「すみません、少し考えごとをしてしまって……」
「こちらこそ。で、君の名前を教えてくれないかな?」
柔らかい物腰でアレンは尋ねた。
「名前は……アリウム。そう、アリウムです」
「アリウム?珍しい……」
アレンは彼女の名前を手帳に書きながら、進める。
「で、どこから来たか教えてもらえるかな?」
「ノーラーからここまで逃げてきたんだと思います」
アレンは心の中で「思います」に違和感を覚えた。
「思いますってどういう……」
「それが、あまり記憶がはっきりしなくて……」
「ああ、そうか。なら覚えている範囲で構わない。それで、君はどうしてここまで逃げてきたのか覚えてる?」
「あの、それは……」
彼女は少し俯きながら、髪をいじり始めた。
「話したくないならそれでも構わないよ。これだけで十分だ」
そう言ってアレンは手帳を閉じると、懐にしまった。
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