第九話「トンネルの女性」

 トウキョウの街を後にして、サカノさんと共に平原を歩いていると、トンネルのような場所が現れた。

「さて、ユウちゃん。今日はこのトンネルを抜けたら野宿するとしようかのう」

そう言いながらサカノさんは懐中電灯を取り出していた。

 そのトンネルは奥まで続いており、サカノさんが懐中電灯で照らしても奥が見えないほど長い。




 異臭が漂うトンネルの中はいろんな物が落ちていた。ただのちり紙があると思えば、まだ使えそうな道具、荷物の入ったバック、そして、誰かの腕のようなもの......

「お、これは使えそうじゃな」

サカノさんは落ちていたバックを漁り始めた。

「こういう物が捨てられている場所はなぜ捨てたのかと思うような掘り出し物があるもんじゃよ。もっとも、それを専門に狙う盗賊もいるもんじゃから、出来るだけ早く切り上げないといけないがのう」

落ちていたバックから四角い機械を取り出すと、サカノさんは先を急いだ。


「だ......誰か......」

どこからか、声が聞こえてきた。

「ユウちゃん、聞こえたかのう......?」

自分は即座に頷くと、左から聞こえたと伝えた。

 サカノさんが左に懐中電灯を向けると、そこには女の人が壁に持たれかけて座っていた。女の人は特に目立った外傷はないようだった。

「よかった......気づいてくれて......」

「どうしたのですかな? こんなところでと座っていて......」

サカノさんは女の人に目線を合わせて話しかけた。

「実は......少し足を挫いてしまって......その上懐中電灯まで壊れてしまったんで......動けずにここで座りこんでいたんです」

そう言いながら女の人は足を擦っていた。

「それは行けませんな......よし、わしが肩を貸してあげましょう。ユウちゃん、わしの懐中電灯を持ってくれんかのう」

自分はサカノさんから懐中電灯を受け取った。サカノさんは女の人に肩を貸して、少しずつ歩み始めた。




キリキリ......


 しばらく歩いていると、何かの鳴き声が聞こえてきた。

「......!!」

「この音から察するに、数は......よし......」

サカノさんは女の人を一旦降ろし、何かを取り出したようだ。自分は音に警戒して懐中電灯を前に構えたままだったので、サカノさんが何を取り出したのかはわからなかった。

「ユウちゃん、わしがいいぞと言ったら、身を屈めて前に進むのじゃ。もし余裕があれば......落ちてくる物もついでに拾ってくれると助かるのう」


 やがて現れたのは、怪物の大群だった。

 その怪物はカラスのように見えたが、目が触覚に見えるほどに飛び出しており、開いた口には牙のようなものが見えた。

 その時、横から聞き覚えのある笛の音が聞こえてきた。街で初めてサカノさんと出会った時に聞いた......あの音......

 カラスの怪物の大群の先頭から数羽が急にUターンをした。その後ろにいたカラスの怪物たちはパニックになったように暴れだし、やがて同時打ちを始めた。

「よし、いいぞユウちゃん!」

サカノさんの言葉を聞いて、自分は身を屈んで歩き始めた。

 上から何かが落ちてくる。カラスの怪物の死体だ。同時打ちによる生存争いに負けたカラスの怪物がポトポトと雨のように降ってくる。

 落ちてくる物......サカノさんの言葉を理解すると、自分は足元に落ちていた怪物の死体を拾いながら先を急いだ。




 トンネルの外へ出た。ふと腕の中を見ると、カラスの怪物の死体が積もっていた。一......二......三......だいたい八匹ぐらいだ。

「どうやら大漁のようじゃな」

後からサカノさんが出てきた。女の人も一緒だった。

「あなたも大丈夫でしたかな?」

「はい......まさか怪物の下をくぐり抜けるんなんて聞いていませんでしたけど......でも何が起きたのですか?」

女の人が質問すると、サカノさんは手に持っている笛を見せた。

「わしは主に街で芸をして歩いているものです。これはその時に使うものでしてな、動物を操ることのできる音波を音色にもつ笛なのですじゃ。もっとも、街の外にいる怪物はほんの1~2秒ぐらいしか操れないですがのう」

そう言いながら、サカノさんは空を見上げた。

「日も暮れて来ましたのう......」




 トンネルの入り口のそばで、自分は二人と共に野宿をすることにした。焚き火の音がバチバチとリズムを刻んでいる。

 そのそばにはカラスの怪物の肉が串指しになって地面に刺されていた。

「旅人は依頼を受けるだけではない。外の世界で手に入る素材を売ることでも生計を立てることができるのじゃ」

そう言うサカノさんの手には怪物の毛皮があった。

「私、"ナガノの街"に向かっていたのですが、怪物に追いかけられているうちに足を挫いちゃって......本当にありがとうございました」

女の人は深々と頭を下げていた。

「"ナガノの街"......ここから西の方向にある街ですな。実はわしたちもその街に立ち寄る予定ですから、よければご一緒してもいいですかのう?」

「本当ですか!? なんてお礼をしたらいいのか......実は、一人では心細かったんです......」


 カラスの怪物の肉を食べ終わると、サカノさんは寝袋を取り出していた。

「それにしても、本当に大丈夫ですかのう? 見張りはわしに任してもいいんじゃが......」

「いえ、助けてくれたお二人の方が先に休んでください。見張り位なら私でも出来ますよ」

「そうですか......それじゃあユウちゃん、お先に眠らせていただくとするかのう」

そう言ってサカノさんは寝袋に入って、眠りについた。


 自分も、サカノさんにもらった寝袋の中に入り、瞼を閉じた。






「何をしているんじゃ!?」


 サカノさんの叫び声で、目が覚めた。

 目の前には、見張りをしていたはずの女性がナイフを持って見下ろしていた。


 そして、こちらに向かってナイフを降り下ろした。

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