第757話 突破口
「う~~~~~~~~ん」
ミエは必死に考える。
彼女のイメージでは魔力は電波のようなものだった。
水晶球から発せられた魔力が目標である水晶球と繋がり連絡できるのは、ちょうどリモコンを操作してテレビをつける感覚に似ている。
今回はそのテレビとリモコンの間に壁……こたつのようなものだろうか? が設置されていて、それが邪魔でテレビまで電波が届かない(厳密には届くのだが悪意を持った編集がされてしまう)ような状況だろうか。
実際にはテレビの方に直接向けなくても、例えば向けた先の壁などに電波が反射した結果テレビまで電波が届くのであればそれでテレビをつける事はできる。
今回エィレが発案した外に水晶球をもうひとつ持ち出して中継地点を作ろう、というのはこれだろう。
上手くこたつを避けて壁に電波を当て障害物を回避しようというわけだ。
ただこれには魔族からの邪魔が入る可能性が高い。
「う~~~~ん。でも連絡を取り合うって言ったらどっちかっていうとスマホですよねえ」
スマホならたとえ目の前を壁で隔てられていようとその壁の向こうの相手だろうと問題なく通話ができる。
リモコン同様スマホも通信に電波を用いている。
なぜテレビのリモコンではできなかったことがスマホではできるのだろうか。
それはスマホの場合目の前の端末に対し直接電波を発しているわけではないためである。
スマホから発信された電波は最寄りの基地局へと送られる。
基地局へと送られた電波は交換局へと有線で送られてそこから目的地の最寄りの基地局へと転送される。
そしてその基地局から相手のスマホへと電波が送られ通話が成立するわけだ。
つまり電波を用いて通話していていも、スマホの場合相手に向かってまっすぐ電波を飛ばしているわけではないのである。
まあ実際には電波の強さや周波数などの問題もあって、一言で簡単に片づけられないのだけれど、大事なのはスマホ同士が直接通信しているわけではない、ということだ。
「なーんかこう、通信する魔力を上の方に放り投げて落とすとか、通信衛星みたいに空で受信してから下に再送信するとか、そーゆーことができればいいんですけどねえ」
だがこれまで
魔族でもなければ無駄も魔力の消費も多すぎて実用的でないし、需要がなければ研鑽もブラッシュアップもない。
まさに仕様の穴を突かれたような状況である。
「…………………………………」
ぱちくり。
目をしばたたかせる。
ミエの呟きに驚き、彼女をじいとみつめる見開かれた大きな瞳があった。
「ドうシタ、イエタ」
「あ、クラスクさま……」
はっと我に返ったイエタは、再びミエの方に顔を向け己の内に浮かんだある呪文についてその効果を反芻した。
「ミエ様、それ……できるかもしれません」
「ふえ?」
イエタの声にきょとんとした顔で向くミエ。
「え? 電波? じゃなくて魔力の通信の弾道を変えられるとかって話ですか?」
「いえ、先ほどのお話自体はわたくしよく分かりませんでしたが……ええと、ネッカ様」
「はい、なんでふかイエタ様」
「お互い姉妹嫁なんですから様付けするのやめません?」
丁寧な口調になってしまう二人をミエが窘める。
「『オーウェターグ』という呪文があります」
「! …知ってまふ」
「どんな呪文なんです?」
「〈
「割と物騒な呪文ですね!?」
「魔族相手の戦争などにもよく使われた強力な呪文でふね」
「確かにすっごく有用そうではありますけども!」
これまで聞いた話を考えると
実際このクラスク市の主神は今や
だがそれでも
そうした事を考えれば、自分の宗教の信者すべてに影響を及ぼせるそうした呪文は、いわば自分達の軍隊全体にかけられる補助魔術に等しい。
相当に強力な効果と考えていいだろう。
「それで……その呪文がどうしたんです?」
「いえ、その……この呪文は唱えるとき信者たちに告げる言葉を詠唱と共に祈るのですが……信者たちがその言葉を聞くとき、神から託宣を受けた時のように聞こえるのです。こう……上手く言えないのですが、上から聞こえるような……ネッカ様、わたくしは呪文学には詳しくないのですが、これはもしやして……」
「あ……それ行けまふね。行けると思いまふ!」
「ふえ? どういうことです?」
いまいち理解できていないミエが尋ねる。
「神様からの託宣は上方次元界からの通信でふ。この世界とは直接隣接していないので、互いを次元を隔てる別の次元界を介して通信を送り込んでいまふ。この時の声の聞こえ方が、イエタ様の仰っている『上から聞こえてくる』なんだと思われまふ」
「ふむふむ?」
「話を聞く限り〈
「本当ですか!?」
「正確には幾つかの占術で確認を取る必要があると思いまふが…」
「出ました。〈
「「「おお……!」」」
イエタの宣言に、一同から歓声が上がる。
「ただ……いくつか問題があります」
「言ってくれ。どんな些細な事でもいい」
キャスの言葉に頷きながら、イエタが少しずつ考えをまとめながら口にする。
彼女は高度な奇跡を操ることができるが、呪文や魔術に関する知識自体に詳しいわけではないのである。
「第一に時間です」
「時間? なんの時間です?」
「詠唱時間と使用間隔ですね。神の意志の代弁を果たす魔術なのでそうそう気軽に使用できるものではありません。わたくしの実力ですと詠唱にはおよそ一時間、一度使用したら半月は使えないと思ってください」
「まあそんなにぽんぽん聖戦を宣言出来たらまずいですもんねえ」
「失敗は許されないと言う事か。わかった。次は?」
キャスに促され、イエタは考えを纏めながら言葉を続ける。
「第二の問題は対象、ですね」
「対象……国中の信者って言ってまでせんでした?」
「はい。単に決起を促すだけならそれで問題ないのですが……その、天界……ネッカ様の言われる上方じげんかい……? というものを経由するせいなのか、そのやり方だとあまり多くの言葉を届ける事ができないのです」
「ふえ? 文字数制限みたいな……?」
「はい。届ける言葉を長くするほど一度に届けられる相手が限られてしまいます。特に今回は相手に詳しい事情を説明する必要があるでしょうから、おそらくは相手は一人か二人にすべきかと」
「なるほど……総量として送れる情報量に制限があるわけですね」
天界という中継サーバ……別世界側の受け口には、一度に送付できるデータサイズの制限が設けられているということだろうか。
そして送り先のアドレスが一人でも千人でも、総量として送れるデータサイズは変わらない。
となると送る文章を長くしたいなら送る相手を厳選する必要がでてくるわけだ。
ミエはインターネットにはあまり詳しくないがプログラミング上の知識自体はあったため、そのように解釈した。
「別に問題ないんじゃないですか? 今回の要件的に送付対象は一人でもいいわけで」
「はい。ただ……対象を限定した場合、その対象を特定しなければいけません。わたくしはアルザス王国の王都へと赴いたことがないため……その、私が認識できる人物を特定する必要があります」
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