第261話 迫る真相
「噂に聞いた襲撃者が私の父親…」
ミエの推測を聞いたギスは唇の端を歪ませ皮肉気に微笑む。
「だとしたらちょっとそそるわね」
一気に真相に近づいた一堂は一様に興奮する。
「その推測が正しいとするニャら、相手は地底世界から来た軍団、ってことで確定になるニャ。そもそも前回の敵幹部が
「けどよ、あー、前にキャスに聞いた話だと確かお前を孕んだ後で魔族に売っぱらわれたって話だったよな。ってことは宝石が盗まれたのはお前さんが生まれるちょい前ってことだろ? 軍団を組織してまで押し寄せるくらい大事なもんならなんでそんな長い間ほかっといたんだ?」
ゲルダの言葉にギスはキャスの方へ視線を向ける。
「キャースー? 人のプライベートをそんなことまで話してたの?」
「あ、いやすまん! あの時は色々あってお前を助けるために私の過去を語らなければならなかい流れだったのだ。その過程でその、なんだ。お前の話もだな…」
「まったく…でもそうね、母が盗んだのは70年以上前ってことになるから、取り返すにしても少し変ね」
「いや…あながちそうとも言えんぞ」
小首を傾げたギスに、ずっと己を拘束していたゲルダに腕を振り払ってシャミルが返す。
「どういうことかしら?」
「我らにとって地上侵略を目論む地底世界の連中は敵、生息環境が絶対的に相容れぬ魔族も敵。じゃが…地底世界の連中と魔族どもが互いに手を組んだ味方同士かと言えば、答えは否じゃ」
ギスの問いかけにシャミルが答え、ミエがハッと何かに気づく。
「あ…そっか! 地底の人たちも
「そういうことじゃ。ゆえにこそ魔族に売り払われたと聞いたときわしは内心驚いたものよ。それはつまり両者を何らかの意図で繋ぐ何者かがいる、ということじゃからな」
「それが…今回の件に関係あると?」
「わからん」
短くそう返し、シャミルは暫し考え込む。
「いずれにせよお主ら親子は魔族達の手に落ち、瘴気の中で暮らすこととなった。その後宝石が盗まれたと知ってもおいそれとは取戻しにはゆけなかったのじゃろう。地底の連中にとっては土地勘のない地上世界、それも魔族どもが強化され自分達の体が蝕まれる瘴気の中じゃからな」
「でも魔族達は…」
「うむ。確かにこの地の魔族どもは五十年前に北へと放逐された。じゃが次にお主ら王都ギャラグフに棲みついたじゃろ? 瘴気開拓地に作られる王都は魔族から国土を守らねばならぬため魔術的防衛力が高い。魔導師も聖職者も高位の者が派遣されておるはずじゃし、城全体に強力な結界も施されとるじゃろ。魔族が侵入しにくいと言うことは、当然地底の連中も同様ということじゃ」
「成程ね。確かにそれなら最近まで無事だったことは納得できるけれど…」
ギスは眉根をひそめ顎に手を当て考え込む。
そして彼女の沈思する様を見てシャミルもまた頷いた。
「そうじゃな。お主の懸念する通り無事だったのはあくまで『最近まで』じゃ。なぜ最近になってこう立て続けに動きがあったのかまではわしにもわからん」
小さく嘆息したシャミルは、なにもないはずの虚空を目線で追っているサフィナの方へ顔を向けた。
「…サフィナ、お主何か意見はないか」
「あたしにゃ聞かねえのかよ」
「なにか意見があるのか」
「よくわからん!」
「じゃろ」
ゲルダと軽口を叩いたシャミルは再びサフィナの方へ視線を送る。
「おー…魔石は色によって効果が違うって聞いたことある」
「あ…そっか、ネッカさん確か何かの用途でその宝石が作られたって言ってましたよね!?」
サフィナの言葉を受けてミエが先程のネッカの台詞を思い出す。
[はいでふ。海魔石は魔石の中でも封印とか閉鎖に関わる魔力を発現させやすいでふ」
「もっとこうわかりやすい例でお願いしますっ!」
ぶんっと大きく頭を下げるミエを前に、適当な例を考えるネッカ。
「えっとでふね…こう例えばすっごく強くて倒せない怪物を封印したりとか、扉を閉める鍵に使ったりとか、神殿の門を封じるのに使ったりとか…」
「てことはアレかニャ。地上を蹂躙するための超強力な化け物を封じてたりとか、或いは莫大な財宝が眠る神殿の鍵だったりとかで欲しいとかそういうアレかニャ?」
「そこまではわからないでふが…」
「大しタ問題ジャナイ。別に相手の目的が知りタイわけじゃナイ。うちの村襲われナイようになればそれデイイ」
「「「たし
かに」」」
クラスクの言葉を受けてミエが思索に耽りぶつぶつと呟きを漏らす。
「ええっとこの宝石を探してたとして…ギスさん、普段はそれ探知の魔法とかには引っかからないんですよね?」
「そのはずね」
「じゃあどうやってこの村にあるって調べたんでしょう」
「簡単よ。『目当ての宝石』について調べることはできなくても『目当ての宝石を隠している何者か』についてなら調べられるじゃない。貴女達だって私の存在をそうやって知ったのでしょう?」
「ああ!」
ミエはぽむと手を叩く。
「でもそれならこの半年襲われなかったのが不思議ですねえ。ネッカさん、なにかわかります?」
「ん~~~~~…」
人差し指を顎に当て、小首を傾げるネッカ。
「単純な占術だと特定人物の場所を調べるのはかなり難しいでふね。対象が品物で、かつしっかりイメージできる程度に知っているなら〈
「それはギスさんの呪文によって阻害されている、と」
「はいでふ。となると〈
「確かにニャ。アーリも知り合いの魔導師が何人かいるニャけどそういうのが得意なのは少数派ニャ」
「魔導師に知り合いいらっしゃるんですか」
「ニャッ!? 多少! 多少ニャ?」
ミエの素朴な疑問に尻尾の毛をぶるりと震わせ慌てて言いつくろうアーリ。
「う~ん…となると相手は占術は使うけどあまり得意な方じゃない…?」
「もしくは占術自体他の誰か頼り、という可能性もありまふ」
「なるほど。その場合あまり情報をアップデートできんわけか」
「はいでふキャス様」
悩む頭脳派一同を眺めながら、ゲルダが手をひらひらと振って笑う。
「お前らそんな真剣になってもしゃーないって。占術だかなんだか知らねえけど大したことねーよ。だってあの時ギスがいたのこっちの村だろ? なのに襲われたのは外の村の方じゃねえか」
「あれ…? 確かにそうですね。あの時は確か…」
ゲルダの言葉に当時を追憶しようとしていたミエは…くいくいと己の袖を引っ張る褐色の娘に気が付いた。
「アヴィルタさん? どうしました?」
「私とカムゥさんが呼ばれたのも、その日、デス」
「え?」
「ギス様のお世話をするよう言われたのも、その日、デス」
「あ……!!」
ミエの中で…何かがかちりと音を立てて符合する。
「わかった! わかりました! クラスク村です!」
「あん…?」
ミエの言葉にゲルダがけげんそうな声を出す。
「あの時向こうはきっと『あの日にこの村に宝石の持ち主が来る』みたいな占いが出てたんですよ! きっと! そして確かに当日ギスさんが来た! 私とキャスさんが連れてきました!」
「え? けど襲った村が違くねえ?」
「それが違わないんです! ネッカさん言ってましたよね、占術は』たとえ結果が正しくても受け取り手のが誤解しちゃうこともある』って!」
「はいでふ」
「彼らは占術のお告げか何かを『クラスク村』だと解釈した。ここはたぶん正しくて、でもクラスク村は二つありますよね?」
「「「あーっ?!」」」
そう、クラスク村は二つある。
森の中にある元のクラスク村と、廃村をの上に建てられた森の外のクラスク村である。
「街道こそ通しましたけどこっちの村はまだ公になってなくって、それで外の村の方には各方面の門に『ようこそクラスク村へ』って堂々と書いてあるから…!」
「そうか! 正解に辿り着いてしまったがゆえに正解が二つあることに思い至らなかったわけじゃな!」
「はい!」
「む…確かに襲撃が行われたのは私達がギスをこの村に運び込んだ夜だったな…」
そう、あの日襲ったゴブリンども…そして
彼らは…皆目指すべき標的のいない村を襲っていたのである。
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