第253話 最優先事項
「とりあえず
クラスクとミエ、それにシャミルが足早に歩きながら今後の事を相談する。
「トりあえず脅すダケ脅しトイタ。あんなんデイイノカ」
「はい! すぐに返事をして追い返すよりは少しでも遅延させた方が城壁を組む助けになります。今のうちに旅館の部屋も取っておきましょう。なるべく長く滞在して欲しいですしね!」
「そうして長逗留させるだけさせて塩対応するのか。なんと恐ろしい村じゃ」
「まったくです!」
互いに顔を見合わせて、その後ぷっと噴き出すミエとシャミル。
「いやしかしあれ以上突っ込まれんでよかったわい。わしの知識は過去の書物から得たものばかりじゃからな。最近の資料が必要な話ではどうしても専門家に後れを取る」
「旦那様の睨みが効きましたねえ」
「まあオーク族にあんなに凄まれたら大概の奴は平静ではおれんじゃろうしな」
軽い口調ながらなんとも物騒な会話をしている村の首脳陣三人。
まあ村の命運がかかっているのだから多少なりとも強引な手法に訴えざるを得ないという事情もあるのだが。
「じゃあ最後通告も来たことですし城壁づくりを最優先に…村の住人にも手伝わせます?」
「イヤ…その前に一つダケ確認しテおきタイ事があル」
「「確認しておきたい事…?」」
クラスクの言葉に首を捻る二人。
これ以上何を確認しようというのだろうか。
「トにかく一度森の村に戻ル。話はそれからダ」
「わかりました。カムゥさんも森村ですしね」
「わしも向かおう。錬金術工房で火輪草の発酵作業が大詰めじゃ。おおいそこの荷馬車、ちと乗せてくれんか」
「族長! ミエのアネゴ! シャミルのアネゴ!」
森の村から蜂蜜関連商品を運び込み、その帰りに森の村へと食料を運搬する荷馬車を捕まえ、そこに乗り込む。
まあクラスクの場合馬を使った方が早いのだが、シャミルは乗用動物に乗るのが少々苦手なようだ。
「なんでなんです?」
「おぬしとコルキのせいじゃろが!」
「あー(ぽむ」
「反省の色がないのお主(ドスッ」
「あいたー!?」
手刀をミエノ横っ腹に突き込むシャミル。
脇腹を抑え呻くミエ。
「こやつめ、こやつめが!」
「ああん! お乳は! お乳はやめて下さい!」
「そうダシャミル。その乳房俺のダ」
「今は子供達のですー!」
「(ガーン)ダメカ……」
「えっとその…お乳に関しては旦那様は二番目と言う事で…」
「ええんかい」
馬車に揺られながらそんな軽口を叩きつつ村へと到着する。
「で旦那様確認ってなんの…あら?」
「む、ここは…」
クラスクについて行ったミエ達の前には…ネッカの魔術工房が建っていた。
己の工房に用があるはずのシャミルも、なぜかこちらについてきている。
「邪魔すルぞ」
「もぐもぐ…もぐもぐ…わふんっ!? し、してまふしてまふちゃんと研究してまふぅぅぅぅ~~~~!!?」
扉を開けるとネッカは本を読みながら肉串を食べていた。
横の皿にはさらに大量の肉串が積まれている。
突然扉を開けられて驚いた彼女は動転しながら咳込み肉が喉につかえたのかどんどんと胸を叩き激しくむせた。
「なんか
ミエがついそんな失礼な感想を漏らす。
「
「ふぇ?」
「なんじゃ?」
ただシャミルには少し誤解して聞こえたようで、互いに頭上に疑問符を浮かべながら顔を見合わせる。
「えふっ! えふっ! ク、クラ様、ミエ様、シャミル様。な、なんの御用でふか…っ」
なんとか取り繕おうとするネッカの前で、クラスクは大真面目な顔で問いかける。
「ネッカ、お前…占いデキルカ」
「占い…占術でふか? 使える使えないなら一応使えまふけど…〈
「そうイう奴じゃナイ。こうなんトイウカ…」
ぼりぼりと頭を掻きながらクラスクが言葉を探す。
「これ知りタイ! みタイナ情報を知ル占いあルか」
「「あ……!」」
そこまで言われてようやくミエとシャミルにもクラスクの用件が理解できた。
占術……魔術で情報収集をするための系統。
これまでこの村に決定的に欠けていたもの。
だが魔導師であるネッカならばそうした呪文を知っている可能性がある。
「この国の奴が来タ。遠からず戦になル。ダからその前に確かめテおきタイ。
そうだ。
あの危険極まりない
あるとしてそれは一体いつなのか、何故この村を狙うのか。
それを知ることができるかもしれないのである。
「ふぁー…ふぁくてぃくど? ってなんでふか」
「あー、オーク語で
「わふんっ!? ここここの村
がくがくがくと震えながら涙目で尋ね、ミエとクラスクにこくこくと頷かれぴいと泣く。
なんということだろう。
なんということだろう。
せっかく魔導師の夢である魔術工房が手に入ったというのに。
自分みたいな味噌っかすに訪れるはずがないと思っていた僥倖に恵まれたというのに。
その村は狙われれば命がないと言われる悪名高き
(でも…)
けれど、きっとそれは逆なのだ。
こんな自分に魔術工房を与えてくれた村が不運にも
ネッカはミエを見て、シャミルを見て、そしてクラスクを見つめた。
彼らは皆一様に真剣で、そして同時に自分に何かを期待している。
それなら…
こんな情けない自分を頼ってくれるなら。
頼りにされているのなら。
ならば、自分にできる精いっぱいを以て応えるのがせめてもの礼儀というものではないだろうか。
ネッカはそう心に決め、杖を手にすっくと立ちあがった。
「え、ええっと…あるにはある、でふ、けど」
「アルノカ!」
「きゃー♪」
ネッカの言葉にクラスクが瞳を輝かせ、ミエが狂喜する。
「ただ、その、ちゃんとした情報が手に入る可能性はかなり低いと思いまふ。そのことを前提で、それでもかまわないでふか?」
「構わナイ! 構わナイ!」
「はい! どんな些細な事でも手掛かりが欲しいんです!」
二人の迫力に気圧されながら、ネッカはなんとかこくんと頷く。
「まったくがっつくのう。ネッカや。無理なら無理とはっきり言うのも処世術じゃよ」
「「えー」」
シャミルの言葉に露骨に嫌な顔をするミエとクラスク。
その様はとても似ていて、まさに夫婦と言った息の合いっぷりである。
「だ、大丈夫でふ。たださっきも言いましたけどあまり期待はしないで欲しいでふ…」
ネッカは工房の床に白墨で何かを記してゆく。
それは図形だ。
二重に円を描き、線と、数字と、文字と、そして文様をそこに書き込んでゆく。
「これって…何か儀式をするためのものですかね?」
「魔法陣じゃな。陣の意味は流石に門外漢じゃからわからんが」
「御名答でふ。とりあえずこれでよし…と」
魔術工房の床に記された魔法陣。
彼女はその中央に何か模様が刻まれた手のひらサイズの石板を置き、魔法陣の外に正座姿で座り込む。
「では確認しまふ。以前この村を襲った
「イイ」
「はい、お願いします!」
うんうん、とクラスクとミエが幾度も頷いた。
「しかしそんな疑問を直接調べられるような呪文があるものなのか。ほほう」
「ないでふ」
「ないんかい!」
「直接はないでふ。なので知ってるかもしれない相手に尋ねてみまふ」
「知ってるかもしれない相手とな…?」
興味深そうに目を光らせるシャミルの言葉に…ネッカは、さらりととんでもないことを言い放った。
「神様に、聞いてみまふ」
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