棒アイスとアイス最中

葵流星

棒アイスとアイス最中

ちりん、ちりんと窓の外の風鈴の音がする。

私は冷房の聞いた部屋でその音を聞いた。


私はこの部屋に籠りただそこら辺にある本棚の中から本を1つ手に取った。

2020年7月9日、今日は天気も良く心地のいい一日になるだろう。テレビでそうキャスターが伝えていた。

今日もそんな優雅な一日になればと思っていた。彼女に出会う前までは…。

中学2年生の夏だった。


午後1時、私はアイスが食べたくなったので近所のコンビニまで行って買いに行くことにした。外に出ると昨日と同じ嫌な暑さと光が身体に当たる。

両親と妹は何かの用事で出かけていて家には私一人だった。家の鍵を締めた私は自転車に乗りコンビニに向かった。サドルがもの凄く熱かったのを覚えている。

コンビニの前に自転車を止めた私は、そのままコンビニに入った。コンビニは私を冷たく包み込んでくれた。半袖の私には少し寒かった。私は財布をポケットから取り出しそのままアイスの入っている冷蔵庫に向かった。すると、そこには白いワンピース姿の女の子が居た。まるで、どこかの絵画から抜け出して来たように…。そんな現実味の無い存在だった。そんな彼女は、冷蔵庫の一点…とある商品を見つめていた。

私が棒アイスか、カップアイスにするか迷っていたところ彼女はアイス最中を手に取りレジへと向かう。すると、彼女は慌てて商品を冷蔵庫に戻した。

私は、彼女のその行動を疑問に思った。…だが、その後彼女がぽんぽんっと腰の辺りを叩いていたのを見るにどうやら財布を忘れたようだ。私は、それを見て密かに微笑んだ。


「…。」


恨めしそうな目で俺を見てきた。

顔は真っ赤だ。


「おごろうか?」


私は、軽い気持ちでそう言った。

彼女は、あまりいい顔はしなかった。

でも、結局…。


「結構です。」

「そう…。」

「…その…後で返すから…ちょっと…貸してもらえる?」

ああ、そういうことかと…。私は、彼女が欲しがっていたアイス最中と悩みに悩んだ結果決めたアイスキャンディーを手に取りレジで支払いを済ませる。

軽減税率どうこうで未だに8%のままだが、外に出てアイスを2人で食べた。

外は暑いのを思い出した私は、急いでアイスキャンディーを食べた。

ものすごく甘いだけのソーダ味が口に広がる。

彼女も私と同様に最中の中のバニラアイスが溶けかかっていた。


「ありがとう。」

「うん…ああ…。」


少しべたついた袋をゴミ箱に捨てた私に彼女はそう言った。

お金を貸した訳ではあるが…。

まあ、なんというか当時のことだ。

そこまで女の子というものを意識したことがない私にはその一言で満足だった。


「それにしても…財布を忘れるなんて…。」

「うぅ…。」


照れ隠しにそんなようなことを言った気がする。


「仕方がないじゃない…忘れたんだから…。」

「まあ、そんな日もあるか…。あっ、そうだ…お金はまた会った時でいいから…。」

「うん…ありがとう、それじゃあ!」


彼女は、そういうと私と別れどこかへ歩いて行った。

私は、そのまま家に帰った。

それで、終わりだと当時の私は思っていた。

ひと夏の出会い…そんなまるで昭和の幻想のようなものに憧れていたのかもしれない。

その日は、家族と食事をして妖怪やUMAと言ったオカルトやミステリーの類の番組を見て、眠った。


次に日、また彼女と出会った。

昨日とまったく同じ装いで…。

幽霊かと思ったがそうではなく、まるで昨日の続きのように…。

家に近くの公園に散歩に出かけた時だった。

すぐに家に帰るはずだった…。


「あっ…昨日の…。」

「その…これ…さっきのお金…。」

「ああ、うん…。」

「まさか、会えるなんて…そうだよね。」


私は、彼女から140円を貰った。

だが、どこかおかしかった…。

その10円玉には年号が書かれておらず西暦で2016と刻まれていた。

百円玉はさらに明白にデザインが異なっていた。

家に帰ってから私は、このことに気がついた…。


「それじゃあ、そろそろ俺…家に帰らないとだから…。」

「そう…明日はどうなの?」

「たぶん、暇だから…。」

「それじゃあ、また明日ここで会いましょう。」


この日は、それだけだった…。

しかし、次の日風邪をひいてしまい公園には行けなかった。

三日後…公園を訪れようとしたが…約束を破ってしまいどうも行きづらかった。

翌日…もうダメかなと思いながら公園に朝早くから行く…。

両親と妹は出かけていた。

彼女に、謝ろうと思った…。


「あっ…。」

「…。」


私は、彼女に会った。

彼女は、この前の白いワンピースではなく黒いタンクトップにスカートだった。


「その…。」


私は、彼女に謝ろうと思った。


「ごめんね、昨日は…。」


彼女は、確かにそう言った。


「いや…俺は…。」


彼女の言葉に違和感を感じた私は、彼女と約束を破ってしまったことを謝った…。

だが、彼女も自分が約束を破った言った。

そのまま、流してしまえなよかったのかもしれないが私は疑問に思った。

そして、私はそのまま彼女に言った。


「今日は、7月14日だから…。その…四日ぶりなんだ…風邪で寝込んでいたし…。」

「えっ…。」


彼女は、動揺していた。

俺も訳がわからなかった…。


「今日は、7月11日だよ…。」


彼女は、私にそう告げた…訳がわからなかった。


「そんな…。」

「本当だよ。そういうならついて来て。」


私は、彼女について行った。

ただ、公園を出ていっただけで街は代り映えのしない普通の町だった。

特に何も変わりはなかった。

私は、そのまま彼女について行くと彼女の家に案内された。

家で、彼女の母親から冷たいオレンジジュースとバニラアイスを貰った。

とても美味しかった。


彼女がおもむろにテレビに電源をつけるとニュース番組がやっていてそのまま彼女は、リモコンのデータボタンを押した。そこには現在の時刻と…7月11日の日付、その他色分けされたメニュー、天気予報がテレビに映っていた。少なくとも私の家のハードディスクはデータ情報まで録画できないのでこれはリアルタイムの映像なのだとわかった。そして、私はふいに怖くなってしまった。ここは私の居た世界なのだろうかと…。まるで、神隠しにあったのかもしれないとも思った。それこそ、あの番組を見ていたためさらにこの言い知れぬ不安に拍車をかけた。


私は、そろそろ帰ろうかと思った。私は、彼女にそう言うと彼女はゲームを取り出してきた。家族向けのゲームで私と彼女はそれで遊んだ。ほどなくして彼女の弟も帰って来たので一緒に遊びもう5時くらいになっていた。私は、彼女と別れ家へと帰った。


だが、私の家は無かった…。


物理的に存在しない…というよりは他の誰かの家になっていた。私は、間違えるはずはないと来た道を戻りやはり探すが私の家は無かった。目印となる片側2車線の道路と公園の位置関係からしてもその場所には見知らぬ家が建っており他の家も同じようにことなる家があった…。何かがおかしい…。そう思った…。その後、しばらく歩き回ったが何もわからず、一度公園に向かった…。木々がいっそうと空を覆う、私はそんな緑に囲まれたベンチに座り…少し寝てしまった。目を覚ました私は、空の色が変わっているのに気がついた…急いで家に帰ると鍵が閉まっており鍵を開けて時計を見た…。一体いつまで寝ていたのだろうすでに、24時間は過ぎていた…。けれど、テレビをつけた私はそうじゃないことに気がついた…。何故なら家を出ていく前の話題が続いていたからだ…。最初に紹介された3人目のオリンピック選手のインタビューが終わるところだった…。2日に分けてかもしれないと私は思った…。


私は、恐る恐るリモコンのデータボタンを押した。

7月14日…。

テレビにはそう文字が映されていた…。


私は、わからくなってしまった…。

私が神隠しにあったのか、それとも他の世界にまだ居るのか…。

私は、今度は彼女の家があったと思われる場所に向かった。

だが、今度は彼女の家が無かった。


そして、私はもう一度公園に行った。

そのままコンビニに行く、私は売っている新聞紙の一面を見た。

そこには、小見出しにマドリードオリンピック開催地、赤字覚悟と書かれていた。

おかしいと思い思い切って記事を読んだ。2020年の開催地にスペインのマドリードが決まり、2016年の東京オリンピックから新たに新種目が追加されたことによりその設備投資が増えることが書かれていた。

すぐに、そのことをスマートフォンで検索しようとしたが…圏外となっていた。

私がコンビニを出ようと思うのと同時に彼女が店に入ってきた。

慌てている私を見た彼女は、冷蔵庫から棒アイスとアイス最中を手に取りレジで支払いを済ませると俺を呼び店の外で彼女は俺にアイス最中を渡した。

アイスを食べ終わった俺は彼女に話した。

信じてくれないかもしれないと思った…。

だが、彼女も俺と同じように考えていた。

そして、歴史にも差異があることがわかった…ただ物事は少しだけ同じだった…。1940年東京オリンピックの後第二次世界大戦が起き、日本はアメリカとの戦争に負けた。そして、2016年…76年のぶりの東京でのオリンピックに日本は歓喜した。

1964年のオリンピックはアメリカのデトロイトで開催されたと彼女に調べてもらいわかった。

一通り話終わると私はもう彼女に会えないような気がした。

彼女もそんな気がしていたようだった…。

私は、彼女に別れを告げ、彼女も私に別れを告げた。

そして、本当に…彼女と会うことは無かった…。

あの夏はそう終わった。


私は量子力学に興味を持った。なぜかと言うと私はあれが本当に神隠しなのか、物理現象なのかを知りたかったからだ。あの夏の終わり、アメリカが人類で初めて時空間に歪みを作ることに成功した。その翌年、東海道南海トラフ地震がついに起きた。


窓の外の風鈴は鳴る。

今年も夏が来た。

あれから、4度目の夏。

今日は、両親も妹も出かけていて一人。


今から私から彼女に会いに行こう…。

使えないお金を持って…。





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棒アイスとアイス最中 葵流星 @AoiRyusei

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