その吸血鬼は血を吸わない
kana
プロローグ
最近、疲れがたまりやすくなった。寝ても疲れがとれず、食事も喉を通らなくなった。この原因は明確だろう。転職して今の仕事に就いたからだ。前の会社にいたころは嫁も子供もいて全てが充実していた。だが、その会社は不祥事を起こして潰れてしまった。もう妻子を養うことも出来なくなり、離婚して、やっと就職出来た企業は超ブラック企業だった。毎日続くサビ残。安月給で、ボーナスも期待はできない。なんで、こんな風に思っているんだろうかと感じることが増えた。
───もうだめかもしれない。
毎日、そんなことを考えながら終電から家までの街灯もろくにない、暗い道を歩いていた。
するとそこにはいきなり知らない男の子が現れた。
「おじさん、かなりのストレスを感じているようだね。僕がそのストレス食らってやろうか?」
「お前は誰だ?」
こんな深夜の人通りの少ない道で話しかけてきて怪しさしかない。
「僕?うーん、獏とでも言いましょうかね」
俺が、怪しく思っているのを気にも留めず、淡々とふざけたテンションで自己紹介している。
「獏って、夢を食べる伝説上の生物だろ、そんな名を語るとは辛気臭いな」
俺の中で怪しさが圧倒的に上がっていく。
「まぁ、そう言わずに…。あなたのストレスを消してあげるって言ってるんだから。で、消したいの?消したくないの?」
怪しいと思っていたはずなのに妙にその言葉には嘘が感じられず、正直に答えてしまった。
「それは消したいさ…。でもそんなこと…」
「で、あなたはなくしたいってことですよね。じゃあやりますよ」
「な、何を…?」
男の体の血管という血管から黒い液体が皮膚の上に浮き出てきた。黒い液体は、胸の辺りに集まっていき、やがて林檎の形を成した。
「じゃあ、いただきます」
その林檎に獏は食らいついた。
「御馳走様」
血が抜かれていくうちに、だんだん心が軽くなっていく感覚を得ていた。そして、彼が林檎を食べた時、今までためていたストレスが嘘のように散って消えた。そして、俺は特に考えることもなく素直に感謝の言葉を述べていた。
「あ、ありがとう。まぁすっきりした。感謝するよ」
すると少年は微笑んだ。すると妙に大きい八重歯が月に照らされた。
それを見た途端、俺は急に恐怖心にかられた。この少年は人間じゃないと本質的に体が感じて、全身の毛穴から汗が噴き出る。これは関わっちゃいけない人が恐れおののいてきた畏怖の対象となるような何か。
───逃げなければいけない。
そう思うと、考えるよりも先に走り出していた。幸いその少年は追いかけてきていない様で家に飛び込み安心感に浸っていた。
「はぁ、やっぱ負の気の血は不味いな。やっぱ、ちゃんとした血の方がおいしいのかな?まぁ僕は食べないけどね」
人がいたはずの夜道。
そこにはコウモリが一匹いただけだった。
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