浮遊

島 まこ

浮遊

 目が覚めると私は空の真ん中にいた。身体はふわふわと浮いていて、当然両足は地についていないのだから不思議な感じがする。周りを見渡すと、雪のように白く淡い塊の一団が私の周りを囲うようにぐるぐると移動していた。私はなんだか怖くなってその場を離れることにした。

 試しに地面を歩くように足を動かしてみた。しかし、細く痩せた私の足はただ空を切るだけで、全くと言っていいほど前進しているとは思えなかった。そこで今度は、水の中を泳ぐように空を手足でかいてみた。するとどうだろう、ひとかき毎に前へと進んでいる気がする。私は何故だか無性に楽しくなって、周りを囲む塊を突っ切って、まるで追手から逃げる犯人のような気持ちでどんどん前へと進んでいった。

 しばらく泳ぐうちに、空の下には海しかないらしいことが分かった。太陽の日差しが海面を照らし、点々と光る粒たちが私の目に一種の刺激を与えるだけで、他になんの収穫もなかった。

 あてもなくぷかぷか浮いているうちに、私は何故こんなところにいるのだろう、とふと思った。太陽と空と雲と海、それに私しかこの世界には存在しないのかもしれない。もしそれが事実だとしたら、私は何を目的に生きればいいのだろう。私は空に浮かぶのが嫌になった。地に足をつける大地がほしい。山の緑も私を呼んでいる気がした。今頃は山茶花の花が咲いているだろうか。地元に残してきた両親も私の帰りを待ちわびているに違いない。ここ数年顔を見せてなかったものだから尚更だ。あぁ、ここにないもの全てが恋しい。こんなところはもうたくさんだ。

 すると突然、体が急に重くなった。同時に、ごうごうと身を切る風を感じ始めた。耳元でひゅうひゅうと鳴る音が騒がしい。どうやら私は空から落ちているらしかった。ああよかった、と私は安心し、静かに目を閉じた。


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