SSカラフル!
カラフル! 4月4日〜10日分
藍 ✕ 青
双子、と言うと、容姿が似ていると思われがちだけれど、俺達は全然似ていない。
数時間先に生まれた兄の
おまけに同じ生活をしているはずなのに、俺は眼鏡必須なのに対して、青壱の視力は未だ二・〇を超えている。
カチャカチャと、指先で荒々しく叩くコントローラーのボタンとスティックの音だけが部屋に響いている。
「げ」
アイテムが青壱の扱うキャラの傍に落ちて、俺のキャラが一気に画面外へ弾き飛ばされた。これでお互い一戦ずつ勝ちを取り合っている。
「っし」
小さくガッツポーズしている青壱を横目に、俺は下唇を噛んだ。
間髪を入れず三戦目が始まる。
負けたくない、と俺は青壱の横顔を盗み見た。
ちなみにリアルファイトに発展すると俺に勝ち目はないので、あからさまな妨害行為は出来ない。
――あ。
ふと、今日の昼休み、体育館へ続く渡り廊下での光景が脳裏に蘇った。
「そういえばさ」
「あ?」
「今日、
隣からコントローラーのボタンを弾くカチャカチャ音が聞こえなくなって、数合わせのコンピュータが操るキャラによって、青壱のキャラは画面外へと投げ出されていた。
黄 ✕ 茶
「ちゃーこちゃんっ! ノート見せてくんね?」
授業と授業の中休み、
「数学ですか?」
「んーん、次の英語。俺当てられそうだからさー」
「そうなんですね。……はい、英語のノートです」
鈴木さんは机の中からノートを取り出すと、笑顔で差し出し――あたしは受け取ろうとした橙助の手首を掴んだ。
湧き上がったのは、正義感とすこしの嫉妬。
「ちょーっと待った!」
「げ、
「げ、じゃないわよ。なに鈴木さんにノート借りて楽しようとしてんの」
橙助が渋い顔をしながら、あたしが掴んでいた手首を引くようにして外した。
彼がこっそり舌打ちしているのに気付いて、胸がちくりと痛む。
「あ、あの……」
鈴木さんが、おずおずと橙助にノートを差し出す。
「今日はもうお時間がないですし、当てられてしまったら可哀想です」
「いいの? ありがとな、
「ちょ……橙助っ!」
なんで渡してしまったのか問い詰めようと、鈴木さんを振り返ると、彼女の頬が赤く染まっていることに気付いた。
「鈴木、さんも……?」
まさか、同じ人を好きなんて。
水 ✕ 赤
人間って、とことん無い物ねだりをする生き物だと思う。
わたしには
身長は一六〇センチ。手足が長く、スレンダーな体には程良く筋肉が付いている。
陸上部で日焼けした小麦色の肌に、笑ったときに覗かせる真っ白な八重歯が可愛らしい。
スポーティーな印象とのギャップが堪らないのだ。
対してわたしは運動が大の苦手で、マラソン大会は途中棄権かビリ。跳び箱は跨って終わっちゃう。
そんなこんなで、通知表の体育の欄は三以上にいったことがない。
身長は一五ニセンチで、このクラスで背の順だと一番前。
残念ながらかっこいい女の子にはなれそうにない。
「え?
赤音ちゃんと二人並んで、教室の窓から景色を眺めていた。
日差しで、赤音ちゃんのつんとした鼻が特徴の、綺麗な横顔が風景の中からくっきりと浮かびあがる。
わたしがぽつりと「赤音ちゃんみたいにかっこよくなりたい」って呟いたところだった。
「でも、あたしかっこいいかなぁ?」
「かっこいいよ!」
「そーお? へへっ、ありがとう」
そう言ってふにゃって笑うところは超可愛い。
リアルな少女漫画のヒロインだ。
「でも、あたしは水希みたいに可愛い女の子になりたかったな」
「え?」
「だって、あたし胸無いし、筋肉あるから水希が着てるような可愛い洋服着れないんだよね。
なんか、ちぐはぐに見えてさ」
わたしが好きな、赤音ちゃんのスカートから伸びるしなやかですらりとした足は、赤音ちゃんにはコンプレックスなのだろうか。
チャイムが鳴り響いて、お互いの席に戻っていく。
モデルさんみたいな赤音ちゃんの後ろ姿を見ながら、やっぱりわたし赤音ちゃんみたいにかっこよくなりたいなって思った。
青 ✕ 桃
うちの高校のバレー部は強い。
今回、春高こそ出れなかったけれど、県内では二位の成績を収めている。
それだけの成績を収めるには、勿論並々ならぬ努力をしていて、毎日倒れそうになるまで扱かれる。
今日も二十人いる部内で、チーム戦をすることになった。
俺のチームにはもう一人、俺と同じ二年生でスタメンに選ばれている
「っしゃ! いくぞ!」
桃真がコートに入ると、それだけで女子の黄色い声が体育館に響いた。
「桃真くーん!」
「桃真先輩、頑張ってー!」
桃真が振り向いて笑顔で手を振ると、声はさらに大きく響く。
「俺達も応援欲しいよなぁ、
「やー、俺は別に」
手を振っていた桃真が、一瞬動きを止めた。
桃真の視線を辿ってみると、その先には一際目を引く女子、
永瀬って、桃真の応援に来るようなやつだったっけか。
「試合始めるぞ!」
「……はい!」
永瀬から名残惜しそうに視線を逸して、桃真がネットに向かう。
バレー部の王子様にもついに春か?
緑 ✕ 茶
「これで最後かな」
図書委員の僕と鈴木さんは、今日返却された本を点検してから棚へ戻したところだった。
「鈴木さん?」
同じように作業していたはずの彼女は、ぼんやりと窓の外を見下ろしていた。
隣に立つと、グラウンドの中心には一際目立つ二人。
一人は
隣に居るのは僕の親友、
同じ陸上部の二人は、笑い声が届いてきそうなくらいに楽しそうに話をしている。
鈴木さんの視線がどちらに向かっているのか、なんとなく察した。
彼女の横顔は夕陽に照らされて、頬は赤く染まっている。眼鏡の下では睫毛が微かに震えているのがわかる。
「……橙助は、いいやつだと思うよ」
一点を見つめていた鈴木さんが、目を見開いて僕の顔を見た。
「でも、恋愛に興味なさそうなんだよね。まだまだガキって感じでさ」
「……そうです、ね」
僕は振り向いて貰えない可能性を、言葉の内に滲ませたつもりだった。
傷付くくらいなら諦めたほうがいいんじゃないだろうか。
僕にとって恋愛は、どっぷりハマっていいものには思えない。
僕が話題を変えようとしたところで、でも、と彼女は付け加える。
「でも、わたしは、そんな彼がいいなって思うんです」
そう言った彼女の笑顔が、なんだかキラキラして見えた。
……橙助には勿体無いような気がしてくる。
「鈴木さんは、いい人だね」
どうか、いい人の君が幸せな恋をできますように。
白 ✕ 紫
「ねぇ、
珍しく
ファンの女子達を掻き分けて、隅の方を二人で陣取る。視界が開けると、生の試合の迫力に胸が高鳴った。
わたしは身長の高い彼らが、ボールを追ってコートを駆けていき、高く跳んでいる姿を見ることを楽しんでいるけれど、紫の目当てがそうじゃないことは知っている。
彼女は試合中のコートに目もくれず、ある一人の男子を見つめていた。
――名前、なんだったかしら。
確か双子の兄で、弟がわたしのクラスに居るはず。
「っしゃ! いくぞ!」
気合に満ちた大きな声と共に、試合するチームが入れ替わる。
その瞬間黄色い声がわっと沸いて、コート入りするメンバーの内の一人が振り返って、観客に向かって手を振った。
「あ」
わたしの声がぽつりと漏れた瞬間、彼と視線が重なる。
お互いにぽかんとした表情。
忘れもしない、整いすぎたイケメン。
仲間に促されてコートに入って行く背中に、年末に見た彼の背中が重なる。
――俺、結構前からファンだったんですよ! だから、通販だけじゃなくて白雪先生に会いたいと思って……!
「……ねぇ、聞いてる? 深白」
「え? なに?」
「……んもぅ。だからね、アイツより、私のほうが
アイツ。双子の兄の方よね。
紫は恋をしている。
それも、相手は陸上部の女の子。
「そうね」
彼女の艶のあるストレートヘアが、さらりと音を立てて肩から流れる。
「あんな粗野な男のどこがいいのかしら」
いつもクールなのに恋愛のことになると、子供のように頬を膨らませる紫は、完全に恋をする乙女だ。
そして、わたしは彼女のその姿を写して作品へと変えていく。
わたしのファンだというコート上のイケメンは、また手にしてくれるだろうか。
橙 ✕ 黄
「ねぇ、
校舎の影で涼んでいたら、ポニーテールを揺らしながら
委員長をしている優黄は、その責任感からか正義感が強くてよく突っかかってくる。
言っていることが正しいのはわかっているけど、正直面倒くさい。
「あんだよ」
座って脚の裏側のヒラメ筋を伸ばしていると、優黄が隣に膝を抱えて座った。
俺は部活中で、もう少し休憩したら戻らなきゃならない。
けれど、待ってみても優黄は続きを話さない。
いつもサバサバして、すぐに俺を怒鳴りにくる優黄が、今は口を閉ざして大人しい。
「おい」
そろそろ戻るつもりで立ち上がって声を掛けると、膝に顔を埋めていた優黄が肩を震わせた。
「……用が無いならそろそろ戻るぞ」
「ねぇ、鈴木さんのこと好きなの?」
「はぁ?」
なんでそんなこと聞いてくるのか、そんなの聞かなくてもどんなに鈍いヤツでもわかる。
「……どうなのよ」
次第に小さくなる優黄の声。
「茶子ちゃんのこと、そういう風に見てねーよ」
「……あたしは?」
いつか、こういう話になるんじゃねーかとは思ってた。
「あたし、橙助が好き」
未だ膝を抱えて震えている優黄の頭を、ポニーテールごとぐしゃぐしゃ撫でる。
「な、なにすんのよ!」
「ありがとう」
応えてやれなくてごめんな。
紫 ✕ 青
身長は百八十六センチ。体重七十八キロ。
太っている訳ではなく筋肉質で、同じバレー部の中でもかなりがっしりした体型。
彼には双子の弟がいる。弟はひょろっとしてるから、やはり鍛えて出来た筋肉なのだろう。
ちょっとキツめの眼光。野性味を感じさせる顔立ち。
クールぶっているのか、大きな口を開けて笑っているところは見たことがない。
――気に入らない。
何が、と言えば、私の好きな
そもそも、赤音と
対して、私が赤音と知り合ったのは高校に入学してから。
知り合ってからの時間の差は埋められないけれど、赤音への想いは負けていないと思う。
すっかり暗くなってしまった体育館の出入り口。
ファンの子達も帰ってしまったし、一人で居るのは心細くて落ち着かない。
それでも体育館の中には入らず、外でバレー部の練習が終わるのを待っていると、青壱より先にバレー部の王子様が現れた。
「あれ? 今日は
「ええ。
「そっか。……そういえば、誰か待って」
王子との会話の途中、彼を押し退けて青壱が現れた。
まだ春の肌寒い日暮れ、青壱は首にタオルを掛けてしきりに汗を拭いている。
「
「ああ、ごめん」
王子が退いて、私と青壱の間に隔てるものがなくなった。
私が青壱をビシッと指差すと、二人がきょとんとした表情で私の方を見る。
「私、貴方には負けないから!」
そして、くるりと踵を返すと体育館を後にした。
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