カラフル! 4月11日〜18日
緑 ✕ 水
「
学校帰り、久しぶりにマックに立ち寄って二人でポテトを摘んでいた。
お気に入りの隅の席は、珍しくお客さんが少なくて空いている。
「そりゃあるよー。
「うん。ない」
「えぇー! なんか彼女の前で言うことじゃない気がするっ!」
「ごめんごめん。でも、付き合ったのは水希が初めてだよ。
小学生や中学生だったから、両想いか確認して終わっちゃった」
「ほんとかなぁ」
水希が指先に付いた塩をぺろりと舐める。
ちょっと扇情的に見えてしまうのは、僕が疚しいせいだろうか。
ペーパーナプキンを差し出すと、水希は「ありがとう」と指先を拭った。
「……僕さ、今までなんとなく両想いなのがわかってから告白してたんだ」
「うんうん」
「でも昨日、振り向いて貰えなくても好きだって言ってる人がいて、僕はいかに恋愛に慎重で傷付くことを恐れてたんだろうと思ったんだよね」
「うーん」
シェイクを飲みながら、水希が首を傾げる。
その仕草だけで可愛いなと思ってしまう。
けれどあまり可愛いと伝えると、水希が照れて怒るので言わないけれど。
「じゃあさ、わたしは? わたしが緑ちゃんのこと好きって思ったから付き合ったの?」
「……違うかも」
そう、水希に関しては違った。
「僕にしては珍しく、好きにさせてみせるって思った」
自意識過剰って言われるの上等で、僕は水希に告白をした。
水希は自分に自信が無さそうだけれど、僕からしたらこれ以上ないくらい魅力的で理想の女の子だ。
きっともう、水希以上の人は現れないだろうと思った。
鈴木さんのときと違うのは、不思議と振られる予感がしなかったことだ。
水希が最初から僕のことを好きだとは思っていなかったはずなのに、なぜだろう。
水希は体を乗り出すと、僕の唇の端にキスをした。
柔らかな唇と、ポテトの塩のザラリとした感触。
ふわりとバニラの香りが漂う。
照れた水希がはにかんで、僕はお返しにもう一度キスをした。
茶 ✕ 黄
校門を出て、右。
住宅地を抜けると、お寺が手前に見える丁路地にさしかかる。
左へ曲がり暫く歩くと、小さな河川が流れ、橋が掛かっている。
欄干に誰かが頬杖をついて川の流れを覗いていた。
同じ制服。見覚えのあるポニーテールが、風に揺れる。
芯が強くて、人の輪の中心にいて、いつも笑顔の彼女が項垂れている。
元気がないことが一目でわかるくらい、落ち込んでいた。
「山本さん……?」
振り向いた山本さんの目から、涙が頬を滑り落ちていった。
「鈴木さんも、
わたしの差し出したハンカチの、折り目をなぞりながら山本さんが語る。
「……そう、ですね」
わたしも山本さんに並んで、欄干から川の流れを見下ろした。
この流れの遥か先には、まだ白い雪を帽子のように被った山々が見える。
「でも、きっと、彼はわたしのことなど恋愛対象にすら思っていないと思います」
山本さんが「そう?」と涙ぐんだ声で聞いてくる。
「ええ。わかっているんです。ネガティブな思い込みでもなんでもなく、彼はわたしのことを
でも、不思議ですよね。
振り向いて貰えないことをわかっていても、わたしは彼を好きになることを止められませんでした」
横に居る山本さんが目を見開く。そこに夕陽が射し込んで、涙に濡れた瞳がオレンジのガラス玉のように輝いた。
「これが恋なんですよね」
山本さんは鼻をずびっと啜ると、小さく頷いた。
「……ねぇ、
「はい! わたしも、
この恋に全力だったわたし達は、きっと仲良くなれる気がする。
赤 ✕ 黒
「宮城
見たことのある人だった。たしか、隣のクラスの人だったと思う。
背は
でも二人と違うのは、日焼けとは違う褐色の肌。
大きな目に高い鼻。シュッとした面立ちは、異国を感じさせる。
「なあに?」
話すことも初めてかもしれない。
体育館へ続く渡り廊下。
いたずらな強い風が吹き抜けて、あたしのスカートをはためかせて、青空へ帰っていく。
「俺、君が好きだ」
一瞬、聞き間違えたのかと思った。
でも、彼のまっすぐな視線が、気のせいだと思いたいあたしの意識を現実へと向けさせる。
恋愛は難しい。
誰も傷付かずにハッピーエンドは迎えられないのかな?
「……いいんだ、そんな顔をさせたかった訳じゃない」
あたしと塩谷
桃 ✕ 橙
「お前と走るとギャラリーがクッソうるせぇんだよな」
手首と足首をぐるぐると回して解しながら、
「それって俺のせいなの?」
「騒いでるのお前のファンだろーが。ファンのことちゃんと飼いならせよ」
「飼うって野蛮だなぁ。それに僻みっぽいよ。それ」
今日は年に一度のマラソン大会で、グループ毎にスタートして地域を一周することになっている。
――橙ちゃんと同じグループって、ちょっとヤダな。
橙ちゃんは同じ運動部だけど、陸上部で短距離走のエース。でも、長距離が苦手って訳じゃなくて、なんでもできる中で短距離走が得意のようだ。
俺もバレー部で走ってはいるけど、橙ちゃんほどは走れる自信がない。
だからって、負けていられない。
「七グループ!」
スタートを切る先生に呼ばれて、俺は橙ちゃんとスタートラインに並ぶ。
「いやー、橙ちゃんはかっこいいよね」
「はぁ?」
「背中で語るタイプっていうか」
「んだよ、それ」
「だからさ、今日は負けないから」
橙ちゃんが俺の背中を力一杯叩くと同時に、ピストルの音が鳴り響いて、スタートラインから一歩踏み出した。
全速力で集団から飛び出していく俺達に、周囲がざわついている。
思えばマラソンで初っ端から全速力って、初めてかもしれない。
橙ちゃんのペースは大分速くて苦しい。
でも、目の前を走る背中に、闘争心が掻き立てられる。
――本当は俺、王子よりも橙ちゃんみたいなヒーローになりたいって言ったら、君は笑うかな?
藍 ✕ 赤
「こんにちはー」
インターホンのモニターには、喧しいくらいの元気な
「おー。今開けるわ」
コントローラーをテーブルに置いて、来客を迎えてやる。
せっかくだし、対戦相手になってもらうか。
幼馴染の俺達の影響っていうのもあるだろう。一緒に遊んだ他の女子の中では上手いほうだ。
ドアを開けると、赤音は大きな声で「お邪魔しまーす」と声をかけた。
今日は俺しかいないけど、誰が居ても居なくても赤音は律儀に挨拶してくれる。
「あれ? 青壱は?」
「……部活」
「今日、バレー部あったっけ」
「いや、休みだったっぽいけど、話し合いするから集まるらしい」
「へー……」
赤音のテンションが、目に見えて下がる。
「悪かったな、俺で」
「んぇ!? なにが?」
本人がどこまで無自覚なのかよくわからない。
……まあ、いいけど。
「飲み物適当に出してくれ」
「ありがとう! あ、ポテチ持ってきたよ」
「助かる。割り箸もよろ」
「はーい」
リビングには、俺と青壱が集めた歴代の家庭用ゲーム機が並んでいる。
各部屋にもテレビはあるけれど、対戦系のゲームはリビングのテレビが大きくてやりやすい。
俺は先程テーブルに置いたコントローラーを拾い上げると、ポーズ画面をキャンセルして続きを開始する。
ちょうどコンピュータのキャラをふっ飛ばしたところで赤音が隣に腰を下ろしてソファが少し弾んだ。
「やる?」
「やる!」
「オーケー。ちょいまち」
「
「まあまあだろ。上手いヤツなんて掃いて捨てるほどいる」
「でも、ハンデ無しで勝てたことないもん」
「……赤音は投げと大技に頼りすぎ」
「え!? よく見てるなぁ」
――そう、よく見てた。
だから俺はいち早く気付いてしまった。
赤音と青壱がお互いを想い合っていることも、俺が入る余地なんて更々も無いことも。
「アイツは断ったの?」
「え?」
「先週、告られてただろ」
赤音が動揺してコントローラーを落っことす。
「見てたの?」
「ゴミ捨てに行ったら見かけただけだよ」
「……断ったよ」
「そう」
不貞腐れている見慣れた横顔。
少しだけホッとして、少しだけ残念に思う。
幼馴染という立場は居心地いいけれど、時折無性に息苦しい。
黒 ✕ 白
昼休み。二階の踊り場にある自販機の前、俺は二つの飲み物を見比べながら百円を握り締めていた。
炭酸にするか、カフェオレにするか……。
「あの」
振り向くと、華奢な女子が俺を見上げていた。
人を覚えるのが苦手な俺でも見覚えがある。
たしか、肌が白くて可愛いとのことで白雪姫と呼ばれていた……気がする。
「先に買わせて頂いてもよろしい?」
「あ、ああ……」
彼女に譲ると、予め決めていたのだろう。
すぐに持っていた百を入れて、サイダーのボタンを押した。
「どうも」
白雪姫は小さく頭を下げて、落ちてきた髪を耳に掛けると、俺に自販機の前を譲ってからサイダーのボトルを開けた。
そのまま喉を鳴らしながら、炭酸を流し込んでいく。
「そういうの、飲むんだな」
「……偏見ですよ、それ」
「気を悪くしたならすまない。豪快な飲みっぷりだと思ってな」
「喉が渇いたら、誰だってこうなるわよ」
「……そうだな」
俺も自販機に百円を入れて、サイダーを買うと、彼女の横で半分を喉に流し込む。
「それじゃあ、お疲れ様」
彼女がコツンと俺のペットボトルに飲みかけのペットボトルをぶつけると、階段を駆け下りていった。
「お疲れ様、ね」
俺、そんな疲れた顔をしていただろうか。
今もまだ熱くなってくる目許にペットボトルをあてがう。
目蓋をうっすら開けると、サイダーの泡が蛍光灯の光を浴びてキラキラと輝いていた。
茶 ✕ 水
「
図書室を訪れた水希ちゃんに声を掛けると、彼女は表情をパッと変えた。
元々大きな目が、さらに大きくなるものだから、面白くてつい笑ってしまった。
「すぐに持ってくるね」
「ありがとう、
わたしが受付を離れて、奥の本棚へ向かうのと反対に、森田くんが水希ちゃんの元へと歩み寄る。
二人が付き合ったのは半年前。
森田くんが水希ちゃんに三回も告白をして、口説き落としたのがきっかけだ。
今でも仲が良くて微笑ましい。
水希ちゃんとわたしは、中学からの友達で、数少ない読書を愛する友達でもある。
水希ちゃんは昔からよくモテていて、一緒にいるところを呼び出されていったこともある。
かっこいい女の子になりたい、と昔から言っていたけれど、世の男性からしたら、可愛い水希ちゃんの方がいいんだと思う。
ぱっちりした二重にぽってりとした唇。
まさしく少女漫画のヒロインだ。
わたしは水希ちゃんが読みたがっていた白雪姫を手に取ると、受付に戻った。
「お話の邪魔しちゃった?」
「ううん、全然。水希の好きそうな抹茶のドーナッツが出てるらしくて教えてあげてたんだ」
「抹茶!」
「もしかして、鈴木さんも抹茶好き?」
「じゃあ、三人で行こうよ! 部活もないし!」
「え、でも……水希ちゃん達デートでしょ? 邪魔になっちゃうよ」
「大丈夫、橙助も誘うからさ」
――えぇぇぇ!
「ま、待って! 気持ちが……!」
森田くんの笑顔で、全てもう転がり出してしまったことを知る。
紫 ✕ 黒
塩谷
野球部に所属していて、日夜練習に明け暮れている。
ただ、彼の特徴的な褐色の肌は、日焼けではなくて地黒。
でも、彼は赤音に振られたあと、周囲も驚くような早さで仲良くなって、放課後に一緒にファミレスでご飯を食べていたらしい。
「振られたくせに図々しいっ」
教室で数学の教科書に目を通していた塩谷 黒都が顔を上げた。
「……はぁ?」
「なんなの、あなた! ポッと出で赤音に馴れ馴れしくして!」
「はぁ……」
「あなたといい、
「青壱……?」
間の抜けた表情が一転、キツくなる。
「誰だ、そいつ」
――ねぇ、もしかしてあなたまだ諦めてないの?
「……いやよ、教えない」
「なんでだよ」
「私だって赤音が好きなの! なによ、青壱の情報だけ聞くって。私は眼中にないってこと?」
鳩が豆鉄砲食ったような顔をして、塩谷 黒都が私を見ている。
「……いや、俺はもう赤音のことは諦めてるんだ」
――あら?
今度は私が豆鉄砲を食ったような顔をしていることだろう。
塩谷 黒都はくすりと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます