ON-MYOU-JI【ホラー要素あり】
とあるサイトのオカルト板。
私は左手の親指の爪を噛みながら、マウスホイールをぐりぐり転がして情報を探っていた。
こんなに科学の発展している現代でも、説明つかない超常現象というものは存在している。
それは奇跡で感動を起こしたり、恐怖のどん底へ突き落としたり……。
私は悲しいことに、その科学では説明できない事柄に愛されているらしい。
するりと背筋を冷たいものがなぞる。
先日電球を替えたばかりだというのに、部屋は真っ暗になってしまった。
や、やばい。やばい。やばい。
こういうときはどこに連絡をすればいい?
神社? お寺? 教会?
どこでもいいけど、夜八時でも対応してくれるのだろうか。
私の動かすマウスの音だけが部屋に響く。
『そういえば、“ON-MYOU-JI”ってサイト知ってる?』
『なにそれ』
『デリバリーでお払いしてくれるらしいよ』
『デリバリーってwww 胡散臭いww』
『電凸したんだけど、全然繋がらない』
『マジの詐欺サイトじゃんwww』
なにやら画面の向こうでもやばいやばいと言っているけれど、実害があるこっちのほうが本当にやばい。
最上階なのにバタバタ足音まで聞こえてきた。
藁にも縋る思いで、載っているサイトのアドレスをクリックする。
恐ろしいほどシンプルなサイトだ。
真っ黒なサイトに『ON-MYOU-JI』とサイトロゴと、電話番号だけが書かれている。
とりあえず、スマホでその番号に掛けてみる。
はやく。はやく。
震える手でやっとのこと番号を入力して、耳にスマホを宛がう。
「もしもし、デリバリー陰陽師です」
さっきの大手掲示板サイトで繋がらないと言っていたから、聞こえてきた男の人の声にホッとする。
「あの、あの、私今、幽霊に襲われていて」
「ほう」
「助けてください!」
「住所は」
「東きょ……あれ? もしもし? もしもーし!」
急に、電話口が遠くなる。
それから、声を掻き消そうとするようにノイズが入る。
「ちっ……この……じゃ、切ら、れる……」
「お願いです! 助けて!」
ぶつり、と切れてしまった通話。
両肩に、漬物石が乗ったような感覚。
顔を上げると、パソコンのスクリーン、私の横には血まみれの女の人の顔が映っていた。
「ぎゃ――――!!」
昔から、こういうのを引き寄せてしまう体質だっていうのは知っていた。
それなのに、対処方を学んでなかったのは自分が悪い。
横で女の霊が嗤っている。
いやだ、こんなところで死にたくない。
ぎゅっと目を閉じると、羽音が聞こえてきた。
羽ばたく音が聞こえるから、虫ではなく鳥のようだ。
薄く目を開けると、狭い室内をぐるぐると白い小鳥が飛んでいた。
そして女の霊にを追い払うように、勇敢に立ち向かう小鳥。
根負けした幽霊が消えると、電気が点いて、小鳥は私の肩に止まった。
なんだっけ、このかわいい小鳥。
北海道に居る、確か……。
「シマエ――」
答えを見つけたのと同時に、インターホンが鳴った。
こんな時間に訪ねてくる客などいない。
インターホンに付いたカメラに映るのは、真っ白なツナギの男の人だった。
同じ白のキャップといい、夜にはだいぶ目立つ格好をしている。
「どーも、デリバリー陰陽師です」
彼の声を聞いたその瞬間、ホッとして、涙があふれ出てきた。
そこから、陰陽師さんは女の霊を呼び戻して、机を挟んで対面するようにして座った。
なんというか、カツ丼でもあったら完璧に刑事さんが取調べしているような光景だ。
「ほーほー。交通事故ね」
「んで、このお嬢さんがたまたま目が合ったから憑いてきたと」
「おたくわかってる? 今こういうパフォーマンスしちゃうと罪になっちゃうの」
「とりあえず、犯人の男に関しては俺から警察に言っておくから。君は成仏しなさいね」
女の霊は深く頭を下げると、淡い輝きに包まれて消えていった。
「じゃあ、依頼料二万ね」
私は泣く泣くお財布から諭吉さんを二枚差し出した。
「まいど。ほら、
私の肩に止まっている小鳥、夜菊ちゃんはそっぽを向いて応えた。
「ったく、しゃーねーなぁ。あんたに貸しておいてやるよ。俺の式神だから、なんかあったらとりあえずは守ってくれるだろ」
「へー、いいんですか?」
「月六〇〇円な」
「丁重にお返しさせていただきます」
「ジョーダンだって。貸しといてやる。その代わり、お姉さん憑かれやすいんでしょ?
またのご依頼お待ちしておりますんで」
キャップのツバを持って、くっと被りなおした陰陽師さんはにやりと笑った。
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