五人のジョージ

東堂栞

五、四


「いったい犯人は誰なんだ」

「ジョージ、犯人探しは止めよう」

「馬鹿言うな。俺たちしかいないんだぞ。ならば犯人は俺たちの中にいる」

「分かった。じゃあ皆目を瞑ってくれ。ジョージを殺した犯人はそっと手をあげてくれ」


無論、誰も手をあげるわけがない。私たちはジョージの言葉に従わない。


「うん、犯人はいないみたいだな」

「馬鹿か。犯人が手をあげるわけがないだろう」


ここはジョージの脳内空間。ここには五人のジョージがいる。五人のジョージは話し合ってジョージ本体の行動を決める。


いや、五人いた、と言うべきか。

脳内空間の中心ではジョージが胸にナイフを突き刺されて死んでいる。今いるのは四人だ。


「うぅ、なんて酷いことを。ぼくが見えるところに死体を置かないでくれ」


泣きべそをかいているのは泣き虫のジョージ。悲観的で自己中心的。


「いや、誰も手をあげなかったから犯人はいないんじゃないのか」

「だから、犯人が手をあげるわけがないだろう」


言い争っている二人のジョージの内、前者はのんきなジョージ。楽観的で夢想家。後者は怒りっぽいジョージ。論理的で現実家。


「とりあえず、意思決定は四人で行っていきましょう。ジョージの言葉に賛同するわけではありませんが、死体をここに置き続けるのも気分が良くないです。隅に寄せておきませんか」


そして私。現在、四人のジョージがジョージの脳内空間にいる。


「ちっ、仕方ない。いつまでも真ん中にあると邪魔だからな。手伝え、ジョージ」

「うん、ジョージの言う通りだな。一人欠けたところでジョージの意思決定に問題はない」


舌打ちしたジョージの言葉に頷きながらジョージはジョージの足を持ち、ジョージはジョージの首の後ろを持ってジョージの脳内空間の隅までジョージを運んだ。


三人のジョージと話し合いながら、私はジョージを殺したジョージについて考える。


当たり前のことだが、私はジョージを殺していないと私が分かっているので除外。

ジョージはどうだろうか。死んだジョージの温かさからジョージが死んだ、もとい殺されたのは数時間前のことだと分かる。その時のジョージのアリバイはどうだったのだろうか。


「うぅ、その時ですか。私はジョージと一緒にコーヒーを飲んでいました」


ジョージが舞台に立ち、ジョージの行動を行う。その間にジョージに聞いてみたところ、そのような答えが返ってきた。


「それは本当ですか、ジョージ」

「うん、そうだな。ジョージと一緒にコーヒーを飲んでいたぞ」


台所を確認したところ、確かに二人分のコーヒーカップが乾燥機の中にあった。私とジョージはコーヒーを飲まない。二人のジョージの分であることは明らかだ。


「俺か。その時は筋トレをしていたな。くそっ、誰がジョージを殺しやがった」


ジョージの行動を終えて戻ってきたジョージはそのように答えた。


「それは本当ですか」

「疑うならこれを見ろ。その時の心拍数だ」


林檎を模した形の腕時計の心拍数測定機能の記録をジョージは見せてくれた。その数値の乱高下は確かに激しい運動をその時間に行っていた、という証拠になるだろう。


「皆にアリバイがありますね」


さて、誰がジョージを殺したジョージなのだろうか。



「あぁ、なんて酷いことを。またぼくの見えるところに死体が置かれている」


翌朝、ジョージが真ん中で死んでいた。一人目のジョージのように、胸にナイフを突き刺されて死んでいた。


「とりあえず、意思決定は三人でも行えます。ジョージはジョージの隣に寝かせておきましょう」

「そうだね、そうしよう」


私の言葉にジョージは頷き、私はジョージの足を持ち、ジョージはジョージの首の後ろを持ってジョージの脳内空間の隅までジョージを運んだ。


今やジョージは三人しかいない。ジョージを殺したのはジョージしかあり得ない。だが、いったいどちらのジョージがジョージを殺したのだろうか。

死んだジョージの温かさからジョージが死んだ、もとい殺されたのは数時間前のことだと分かる。


当たり前のことだが、私はジョージを殺していないと私が分かっているので除外。


「うぅ、その時ですか。私は部屋でレゴで遊んでいました」


ほら、こんなのができたんですよ、とジョージが見せてくれたスマホの画面にはレゴで作られた二十分の一サイズのジョージが写っていた。

アルバムの日付を見るとなるほど確かにジョージが死んだと思しき時間と近しい。この完成度のレゴを片手間で作りながらジョージを殺すのは無理そうだ。


「うん、その時は部屋で寝ていたな。夜は寝るものだからな」


ほら、心拍数も安定しているだろう、とジョージが見せてくれた林檎を模した形の腕時計(これはジョージ全員が持っている)の記録を見るとなるほど確かにぐっすりと寝ている者のものだった。人を殺しながらこれだけ心拍数を平静に保つのは無理そうだ。


二人のジョージはジョージを殺していないように思える。だが、どちらかがジョージを殺したジョージなのだ。いったいどちらがジョージたちを殺したジョージなのだろう。

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