第22話 深夜の毒針
翌日。陽介は夢で出会った女性のことを、皆に聞いた。
「長い髪でドレス着た女性ねぇ。心当たりがないわけじゃないわ」
「どんな人?」
「ピアーチェ姫よ。この世界を創造した神様の娘で、今はあんちくしょうの嫁ってところね」
ピアーチェ姫。名前は水の大陸の町で聞いていたが、創造神話のページからは抜けていた。そんな人物が何故自分の夢に出てくるのだろう。疑問は深まるばかりだった。
「フラムさんも知ってるんだろ?」
と聞いたが、彼は素っ気なく知らんなと言って、どこかに行ってしまった。
もやもやしたままではあったが、約束通りリベルタに剣の稽古をつけてもらうことになった。基本の切り方を丸太相手に、立ち回りや軌道の乗せ方を彼女相手に行った。
しかし、日が暮れるまでやってもまったく上達しないので、おかしいと思った彼女はステータスを見せるように言い、陽介が画面を開くと、ため息をついた。
「あのね、陽介チャン。この世界はスキルとステータスが全てなの。こんなこと言うべきじゃないんだろうけど、アナタはどんなに訓練しても上手くはなれないのよ」
剣を使うなら、剣術系のスキルか剣士の職業、体力と攻撃力がそこそこあることが条件だと彼女は言う。
「でも、フラムさんはスキルもステータスも、元々この世界には無かったって言ってたぜ? 世界を書き換える瞬間を見たとかなんとか……」
「ウソッ、世界自体が書き換えられてるっていうの? アタシ初耳よ??」
リベルタは直接話を聞きたいと言い、二人でフラムを探すことにした。
探して街を歩いていると、町の入り口の方が騒がしかった。フードで顔は見えないが、手の甲に入れ墨を施された女性が、男たちに囲まれている。怯えてしまって、地面に座り込んで震えている。
「何事なのアンタたち」
「ね、姐さん、それが……」
リベルタが近づくと、女性は急に立ち上がって話しかけてきた。
「わ、私はシリウス。奴隷市場から逃げてきたんです。お願いです、どうか匿ってはいただけませんか」
「奴隷市場ですって!? あんな遠いところからよく逃げてきたわね。偉いわ。アタシの屋敷にいらっしゃい」
リベルタに付き添われて、シリウスは屋敷に連れて行かれた。女性が奴隷として売られている場所があると知り、一層エルメスを許せなく思った陽介は、相談しようとその後もフラムを探したが、見つからなかった。アリエッタの部屋にも来ていないらしい。
その夜。陽介が顔に何かが落ちてきたような気がして目を覚ますと、ビスクドールが乗っかっていた。
「なんだ君かぁ。起きちゃったじゃんかよ……」
眠い目をこすりながらビスクドールをテーブルの上に置いて、さてもうひと眠りするかとベッドの方を見ると、シリウスが立っていた。
「えーっと、シリウス、だっけ? どうしたの? ここは俺の部屋だよ?」
戻るように諭すが、シリウスは静かに笑う。
「フフフ、愚かな男。私はカノープス。エルメス様の命でお前を殺しにきました」
ステータス画面を開こうとすると、させないですよと襲い掛かってきた。刃物の鈍い光が見え、剣を抜きなんとか受け流す。
アリエッタは別室で、フラムもどこかに行ったまま帰ってきていない。リベルタのいる館主の部屋は、ここからでは遠い。陽介は部屋から廊下に逃げ窓ガラスに花瓶をぶつけて破り、外に飛び出した。大きな音を立てれば誰かがきてくれるかもしれないと考えていた。案の定いくつかの部屋に明かりがついた。
「ずいぶん小癪な真似をしますのね。あの二人が手間取るのがわかります」
一気に距離を詰めてくるカノープスの攻撃は速く、防ごうとするが間に合わない。
「うっ」
胸部に鋭い痛みが走る。カノープスの針が深く突き刺さっていた。
「これでおしまいです。痛みに悶え苦しみ、反抗した罪を償いながら死になさい」
針を抜き、ゆっくり布で血を拭いてから、カノープスは姿をくらませた。
「ま、待て……」
痛みは立てないほど強く、その場に膝から崩れ落ちた。毒が仕込まれていたのだろう、そのうち視界がぐるぐると回り、呼吸も荒くなっていく。
「みんなに、知らせなくちゃ……」
意識が朦朧とし、前後不覚に陥る。方向感覚を失い地面を這って進む陽介は、屋敷の裏手から町の外に出てしまった。
(あ、これもうダメだ……)
陽介は、死を覚悟した。
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