第421話

私達は朝方の4時にもかかわらず元気いっぱいだ。みんな、一睡もしていないのに電車が動き出したら朝イチで神社にお参りに行くことにした。



「お腹空いたよねー」


「優希はお菓子をずっと食べてたじゃん」


「そんなに食べてないよー。望の方が食べてたくせにー」


「駅の近くのマックでも行く?」


「菜穂、ナイス〜。行こう、行こう」



佐藤先輩が元気いっぱいに立ち上がり「ハンバーガー」と何度も言っている。

私もお腹が空き、ハンバーガーを想像するだけで涎が口の中で溜まっていく。



「みんな、まだ親は寝てるからゆっくり階段を下りてね」


「はーい」



お姉ちゃんの注意呼びかけに佐藤先輩が元気よく返事をする。私も「はーい」と言いかけようとした。でも、言葉を発する瞬間に階段で尻餅をつく。私のお尻が…割れた。



「バカ、何やってるのよ」


「痛いー」


「水希ちゃん、大丈夫…?」


「うん、ごめんね」



お姉ちゃんと優香ちゃんの言葉の対比が真反対で優しい優香ちゃんは私の体を支えてくれて感謝しかない。でも、お姉ちゃんは私と優香ちゃんの距離が近いとグルルと唸る。

そんなにグルルと唸らなくてもいいのに…普通にしてても怒られてる気分だ。



「ほら、水希拗ねないの」


「でも…」


「菜穂の優しさだよ。被害者をこれ以上増やさないためにやってるんだよ」


「むぅ…早川先輩も酷いです」


「でも、私も菜穂のやってることに賛成だよ。水希の優しさはね、水希が思っている以上に危険なの。予防線は早めにしないと」



そんなことを言われても私は…ってなり、優香ちゃんも苦笑いしている。優しさが分からなくなる、優しさが罪になるなんて。



「あの…正直、私も水希ちゃんが彼氏だったらって思いました。理想の恋人像で…でも、大丈夫です。水希ちゃんも芽衣も絶対に失いたくないので。惹かれそうになったら、水希ちゃんはタラシと何度も思い出します」



みんな優しい顔をして、優香ちゃんの頭を撫でている。でも、私としては複雑な気持ちだ。タラシ…やっぱり私はタラシなのかと。



「そんなに私って危険人物なの…」


「そうよ、自覚しなさい」


「お姉ちゃんもね!」



朝の4時過ぎなのにワイワイと靴を履き、まだ薄暗い空の下を歩く。1人だと怖いけど、みんながいると楽しい空間に変わる。

ワイワイと話しながら私はチラチラ携帯を見る。芽衣に電話の件についてLINEで謝ったけど既読にならず気持ちが落ち着かない。


芽衣はめちゃくちゃ怒っているのかもしれない。だから既読も付かず…不安が襲ってくるけどみんなの手前顔には出せず私はいつも通りの私を装った。

あと二時間経ったら、もう一度LINEして出来れば芽衣の声が聞きたいから電話をしたい。



「うぉっ、、」


「水希ちゃん、大丈夫?」


「石につまずいちゃった」



優香ちゃんに心配され、お姉ちゃん達に呆れられ集中力の欠陥と不注意が続いている。



「水希、さっきからどうしたのよ」


「別に…」


「ちゃんと理由を話したらハンバーガー奢ってあげるわよ」


「芽衣にLINEを送ったのですが既読スルーで凹んでいます!どうしたらいいですか!」



あっ、言葉にしたら胸のモヤモヤが少し楽になった。そして、芽衣に会いたくて仕方なくなる。早く、芽衣を抱きしめたい。



「今…4時半か。流石に電話するには早いわね。とりあえず、ご飯を食べに行きましょ。みんなハンバーガーを食べながら水希のために作戦会議するわよ」


「イェーイ!楽しみ〜」


「任せて。ふふふ、楽しそう」



お姉ちゃんの言葉に佐藤先輩も早川先輩もノリノリで、嬉しいけどこのノリの良さが怖い。凄い先輩だけど、ノリが良すぎるんだ。



「芽衣は幸せ者だね。水希ちゃんが恋人で羨ましいよ」


「へへ、そうかな?」


「タラシだから大変そうだけどね」


「優香ちゃんまで酷いよー」



みんなで戯れ合いながら駅近くのマックまで歩き、暖房で暖かい店内に入る。

冷え切った耳や顔が一気に温まり幸せだ。みんなそれぞれ注文をし席についた。そして、お姉ちゃんがてりやきバーガーをもぐもぐと食べながら質問をしてくる。



「所で芽衣ちゃんは何で怒ってるの?」


「それは、、」


「私のせいだよね…?」


「うん、、インスタに載せた写真を見て怒ってた。あと、去年は日が変わる瞬間に電話してたけど今年はできなかったから」



去年はできていたことが今年はできず、今回はお姉ちゃんや先輩達、優香ちゃんと一緒に過ごした。きっと色々、芽衣の中で受け入れられないことが多かったのかもしれない。



「きっと、芽衣ちゃんは一人だけ取り残された気分になっているのかもね。もちろん、宮田さんへの嫉妬もあるだろうし」


「芽衣ちゃんの気持ち分かるなー。私もみんながワイワイしてるのを写真で見たら羨ましいし、今参加してるから分かるけど楽しいもん。この場に入れて幸せだなって感じる」



お姉ちゃんと佐藤先輩が芽衣の気持ちをきっとこうだろうと代弁してくれた。

私も芽衣の立場だったら羨ましくて、芽衣に嫉妬するかもしれない。



「みんな、3日の日空いてる?」


「空いてるよー」


「私も大丈夫」


「私も空いてます」



お姉ちゃんがみんなに予定を聞いている。そして、頼りになるお姉ちゃんは芽衣のためにみんなで集まろうと提案してくれた。

受験で大変な時期なのに…そして、私だけ参加してないグループLINEに一斉に3日の日に集まれる人いる?と呼びかける。


ここで、1つ言いたいことがある。私が参加していないグループLINEにいつのまに佐藤先輩、早川先輩、松村先輩、優香ちゃんがはいっているの?何で今も私だけ除け者!?

早速、恭子先輩から返事が来て私を除いてみんな携帯で会話をしている。


私はズズズとコーラを啜りながら、携帯で漫画を読む。横目でみんなを見て、楽しそうな姿を見て…泣かないもん!と意地を張る。

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